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どこかの街 屋敷内 6:月夜に攫われ

これでこのお話は完結します。

3人が屋敷に帰ってくるとリージュの父は心配し念の為、医師にリージュの容態を急遽診せることになった。ドロとウツワは護衛の仕事は今日はもう休みでいいと言われおとなしく屋敷内の護衛用の部屋で休むことにした。そして深夜。部屋の外が騒がしいのに気づき2人は目を覚ました。


「ウツワ、起きてるか?」


「勿論。何かあったのかな?」


2人は手早く身なりを整えると部屋の外へ出る。すると部屋の外では慌ただしく使用人達が何かを探すように廊下を行き交っている。何があったのかドロはメイドに声をかけ呼び止める。


「それが……」


どうやらリージュが部屋にいないらしい。医師が念の為容態を診ようと部屋の中へ入ったらリージュがいなかったそうだ。屋敷内を使用人全員で見て回ったが屋敷内で誰も見つけられなかったとメイドは心配そうな顔で言う。メイドに礼を言い2人は部屋の中へ一度戻る。


「ドロ、どうする?」


開口一番にウツワがドロに聞く。


「探すに決まってる。だけど何か引っかかる。いつからいなかったのか、攫った奴がいたとしたら何処からリージュを運びだしたのか、それが分からないんじゃ何処から探せばいいのかも分からない」


2人が部屋で話していると廊下で話す使用人の声が聞こえてきた。ドロは指で静かにと合図をウツワに送り2人は使用人の話に耳をすませる。


「いましたか?」


「いえ、いませんでしたもしかしたら外に」


「万が一外に行っていたとしてもお医者様が捜しに行ってくれましたから大丈夫ですよ」


「そうなのですか?」


「ええ、ですから私達は待ちましょう」


ドロはバンッと扉を開けて使用人に焦ったように聞く。


「医師が行ったのは何時だ?」


「えっ」


「だから医師が行ったのは何時だって聞いてるんだ!」


「ついさっきです」


「どっちに出て行った?」


「裏門にある馬車に乗って行きました」


「分かった。ウツワ!走るぞ!」


「うん」


ドロとウツワは屋敷の門を開けて一目散に駆けてゆく。使用人達が呆気にとられている間に2人の姿は見えなくなった。


* * * * *


ガタガタと忙しなく揺れる馬車の荷台の中でリージュは1人震えていた。最後に見たのは医師の微笑んでいるけれど冷たい雰囲気のする笑顔を見た以来覚えていない。気がつけば馬車の荷台で簀巻にされていた。荷台の中はほろがされているせいでよく見えない。リージュは勇気を振り絞りなんとか体を動かし荷台の中を見回す。ほろの隙間から月光が時々差し込みそのお陰でなんとか荷台の中を確認することができた。荷台の中には薬品と食糧それと何かのマークが描かれた鉄の棒が数本置いてあるのが確認できたがそれ以外は月光の影になっているので分からない。


ガタガタと未だ揺れる荷台は止まることはなく空気が微かに森の匂いのするものになってきたのを感じリージュの絞り出した勇気はひゅっと萎んだ。


怖い。リージュは再び震え、ポロポロと泣き出す。浮かぶのは父の顔、母の顔、そして、2人の王子様。


ぎゅっと目を瞑りリージュはまた泣き出す。


「助けて、王子様」


口は布で覆われ声は出なかった。それでも助けてと願わずにはいられなかった。ガサガサという木々の音が聞こえリージュは絶望の表情で沈黙する。すると馬の嘶きが聞こえ馬車が勢い良く止まる。体を起こしていたリージュはそのまま荷台の木箱に倒れかかる。その後「ぐあっ」という声の後に聞き慣れた2人の声。リージュはまたポロポロと泣き出した。


「リージュは荷台にいるはずだ」


「じゃあこの覆いは切っちゃうね」


キンッと鋭い音が響きほろの上部分が無くなり月明かりが荷台の中を照らす。リージュの目に入ったのは安堵の表情を浮かべた、2人の王子様だった。


「間に合ったあ。今解くからね」


「ああ、まさか裏門から出て街方面の森に行ってるとは思わなかった。時間くっちまった。ごめんなリージュ」


リージュはブンブンと首を振る。荷台に降りた2人はせっせとリージュを縛る紐や布を取り開放する。


「ああああ!寒いよね。忘れてた。何か服持ってくれば良かった!」


「魔ペット、何か暖かい服あるか?」


「もう準備しておりマス」


ドロの背中からそう行ってひょっこりと出てきたつぎはぎだらけの人形にリージュは驚き魔ペットを凝視する。


「申し遅れました。私、魔ペットと申しマス。訳あってリージュ様とお話するのは控えるよう言われていたので申し訳アリマセン」


ペコリと頭を下げる魔ペットにリージュはコクコクと頷く。


「ありがとうゴザイマス。リージュ様。さあこちらをお召になって下さい。夜は寒いノデ」


そう言って口からだした毛皮のコートを出してリージュに手渡す。リージュがポカンとしていると魔ペットはコートを広げせっせとリージュに着せる。


「どうでショウカ?寒くアリマセンカ?」


「うん」


「それは良かったデス」


「ドロ」


「ああ、分かってる。囲まれた。リージュ立てるか?」


リージュはコクコクと頷き立とうとするがペタンと尻餅をついた。


「僕が抱えるよ」


そう言うとウツワがリージュを抱える。


「俺が屋敷までの道を開くからウツワは先に行ってろ」


「分かった。リージュを屋敷に置いたらすぐに戻ってくるよ」


「俺がそっちに行くからウツワは待っててくれ」


ウツワは納得したようにため息を吐き頷く。


「よし、じゃあ行くぞ。魔ペット『ハサミ』だ」


魔ペットはたちまち大きなハサミに姿を変えドロの片手に収まる。


「念の為リージュは目を瞑って耳を塞いでいよっか」


リージュはウツワに言われた通りに目を瞑り耳を塞ぐ。


「こっちはいつでもいいよ」


「おっしゃ。任せろ」


ドロが荷台から飛び出し荷台を囲む人攫い達を蹴散らす。


「今だ!」


ドロのかけ声でウツワは荷台から飛び出し屋敷に向かって駆ける。


「おい!商品を盗られた!捕まえろ」


人攫いの1人がウツワを追おうとするがドロが立ちふさがり進路を阻む。


「追わせねえぞ」



ドロは不敵に笑いハサミを肩に担ぐ。じりっと人攫い達が後ずさる中1人だけ後ずさることはなく突っ立っている人攫いがいた。


「随分とまあ上手く入り込んでたもんだ」


「ち、違う!私は脅されて仕方なくやったんだ」


わりいけどお前が脅されてようがいなかろうがどうだっていいんだ。リージュを攫った。それだけで俺には充分だ」


ドロはチャキッ、と金属音を鳴らしハサミを医師に向ける。医師は「ひっ」と小さく悲鳴をあげ地面に座り込む。


「さあ、リージュはいなくなったからいくら叫んだっていいぜ。助けは来ないけどな」


ドロは人の悪そうな笑みを浮かべてゆっくりと人攫い達に歩み寄る。人攫い達の叫び声は森に響くだけで誰の耳にも入らなかった。


* * * *


コンコン


屋敷の扉をノックする音でリージュの父親は急いで扉を開けた。そこには暖かそうなコートを着たリージュが屋敷前に寝かされていた。慌ててリージュの父親は使用人達を呼びリージュを運ばせる。リージュの父親はリージュを見つけてきてくれたお礼を言おうと辺りを見渡すが誰もいない。呼びかけてみても誰も出てくることはなく、リージュが目を覚ましたという使用人の言葉で渋々リージュの父親は屋敷内に入っていった。


その一部始終を木の枝に立って見守っていた2人の人影があった。


「本当に良かったの?」


「何がだ?」


「このまま出て行っても」


「ああ、ちゃーんと盗るもんは盗ったからな」


「まあね。一応懐も暖かくはなったかな」


「変わらないけどな」


「あはは。じゃあ次の場所で頑張らないとね」


「今度は大物があるところだといいけどな」


「危なくないといいなあ」


「そんな時ないだろ」


「でもさあ………」


木から降りた2人の人影は屋敷を背にして歩き出す。


* * * * エピローグ * * * *


朝の陽光が眩しくて目を覚ました。やっぱり朝は嫌い。ゆっくりと起き上がり隣を見ると赤い王子様と黒い王子様が買ってくれた獅子の人形がいた。そこではっとする。あの後、私は気を失って、それから一度目を開けるとお父様と使用人達が心配そうに覗き込んでいて。それからまた目を瞑った。思い出すと途端に不安になり2人の王子様を探そうとベッドから飛び起きる。不思議と今日は体が軽く寝覚めも良かった。でも不安が拭えない。廊下に出る扉に向かおうと駆け出す。がリージュが手を扉に手を掛ける前に扉は開いた。


「リージュ、もう体は大丈夫なのかい?」


そう言って部屋に入って来たのはお父様だった。リージュはお父様の後ろから2人が入って来ることを期待したが入って来ることはなかった。


「リージュ、ああ、そうか……ドロ君とウツワ君に懐いていたものな。実はリージュを捜しに行ってから帰ってこなくてね。そしたら私の机の上に護衛を辞めると書いた紙が置いてあったよ」


お父様は胸ポケットから丁寧に畳まれた紙を私に渡す。それには2人の王子様の名前と辞めると一言だけ書かれていた。何か手紙があるのかと思って期待したがその一言と名前以外に書いていることはなく私は落ち込む。


「リージュ……ベランダに出ようか」


お父様は私の背中を優しく押しベランダに続く戸を開ける。


「いい朝だ。リージュは朝が苦手だったね。私もリージュのママがいなかったら朝は嫌いだったよ」


「ママ?」


「ああ、こんなにも綺麗な朝なのに部屋にいるのは何事かってよく引っ張りだされた。今のリージュ見たいにね」


お父様はふふっと笑う。私もつられて少し笑う。


「そのお陰で私も朝は悪くないって思えるようになったんだ。みてごらん、この景色」


私がお父様の指差す方向を見ると朝日に照らされ風に揺れる草原が見え、その先には青々と輝く森が見えた。当たり前の景色なのに私はその景色をじっと見つめた。お父様は私を見て懐かしむように笑う。


「私ね、お父様。ずっと攫われたいって思ってたの。あの絵本のように」


私はお父様を見ずに言う。


「そうか……」


「うん。ずっと部屋の中にいて、つまらなくて、王子様が攫いに来てくれないかって願ってた」


私はすうっと息を吸って吐いた。


「でもね、攫われた時、怖かった。ずっとずっと願ってたことなのにいざ攫われた時は怖くてたまらなかった」


「………」


「怖くて泣いてた私を助けてくれたのは2人の王子様だった。いつも通りの優しい2人の王子様で。私はただ嬉しくて泣くだけだった」


「リージュ」


「私ね、絵本のように王子様には攫ってもらえなかったけどもう攫ってほしいなんて思わない。私は私を助けてくれた2人の王子様の本を書きたい。そうすればいつか2人の王子様が私が書いた本を見て嬉しそうに笑うの。それが私の夢」


リージュはニッコリと笑う。リージュの父親は眩しいものを見るように目を細め、瞳を潤ませる。


「そうか……そうか……」


リージュの父親はリージュの肩を抱き空を見上げる。リージュもならって空を見上げた。その時サラッと純白の綺麗なウェーブのかかった髪が風に吹かれ美しく輝いた。


* * * *


リージュがベランダから戻って来るといつも抱いている獅子の人形のお腹に手紙が乗っていた。


内容は………


リージュは本当に嬉しそうに笑い獅子の人形を抱きしめたのだった。


* * * *


リージュの父親が自分の部屋に戻ると、1人の使用人が慌ただしく部屋に入って来て金品を盗まれたと顔色を青くして言ってきた。リージュの父親が盗まれた金品を見るとその額は2人分の護衛料ピッタリの額だった。これにはリージュの父親は呆れたようなおかしいような笑みを浮かべた。


「まったく律儀なドロボウだ」

次は短編か長編を書きたいと思います。良ければ感想ブックマーク登録お願いします。

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