いや、それ我が家の食料
「船長!こいつ、食いもん持ってるぜ!」
「ほぉ…」
いや、ほぉ…じゃないよ。食いもんってまさか、買い込んだ食材のことじゃないでしょうね。
いつの間にやら私の手から離れて物色されてる我が家の食料品じゃないでしょうね。
がさがさと、聞き覚えのあるスーパーの袋特有のビニール音。
おいこら、勝手に漁るな!
てゆーか、目の前のこの厳つい奴、応えたってことは船長かよ。
逆光で微妙に顔が判別できない。
ただわかるのはみんな厳つい顔で睨みを利かしてるってことだけ。
しかし、何だか食いもんと聞いて光った目が、少し切羽詰まってる気がした。
「見たことねェもんもあるけど、食いもんだ!」
「久々の食料だー!」
いや、だからそれ私のだろ。
何をすでに自分達の物のように。
しかし、そちらを確認したくとも、目の前の船長?らしき男が目を逸らさせてくれない。
目力すごいな。
「ふっ、喜べ。食いもんに免じて殺さないでおいてやる」
「は?」
何が食いもんに免じてだ。誰があげると言ったんだ。
にやりと笑みを浮かべた男に、顔をしかめる。
「おい、この女、金目のもんとって海にすてな」
くるり、言うだけ言って背を向けた男の台詞に耳を疑う。
すてな?
海に?
それ、殺さなくても死にますよね。
文句も言いたいけど、声なんて、こんなときほど口をついて出てくれない。
死にたくないし、黙って食料奪われんのも嫌なのに。
背を向けられたことで、すでに興味もないと言わんばかりのこの空間が、誰かに自分を認識してもらえないことが、どうしようもなく怖くて。
何もわからない状況で、知らない人でも自分を見てもらえないというのは、とてつもない恐怖に思えた。
「わりィが姉ちゃん、そーゆーわけだ」
「恨むなら突然降ってきた自分を恨めよ」
がし、と腕を掴まれる。
のろのろと起き上がる私を引き上げて、男たちは船の端に近付いていく。
ぼんやり見た先には、私の買ってきた袋を漁る男たち。
「やべー、早く食いてェ」
「この粉はなんだ?」
「とりあえずこのままでも食えっかな?」
「船長ー、どうします?」
「切ってわけろ。死にそうな奴から先にな」
「うおー!優しいぜ船長!」
「あんた男だァー!」
ぴく。
何やら盛り上がってるとこわるいけど、今なんて言った?
切り分けろ?
調味料もわからない?
「まさか、あれあのまま食べる気じゃ…」
「あァ?あー、今、この船にゃ料理人がいねェからな」
「こないだの戦闘でやられちまったからなーお陰で飢え死にするとこだったぜ」
私の呟きを拾った両腕を捕らえている男たちが返した台詞に、待ったをかけたのはくだらない意地だったのか。
「ふざけんなー!」
気付いたら、口をついた大声に、全員が目を見開いて見ていた。