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告死人 高校生  作者: 田丸 彬禰


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告死の仕事

一瞬後。


ふたりは一軒の家の前にやってきていた。


「……福井。間違いないな」

「お、おい」


聡にとってそれは多くの意味で不都合があった。


門扉を開けるまではギリギリ許されるかもしれないが、許可もなく玄関の扉に手をかけるのはさすがに彼には抵抗がある。

だが、なによりも問題なのは……。


「俺はこの格好なのだぞ。少しは気を使え」


そう。

聡は睡眠中に死の訪問を受けた。

そして、告死天使が再訪し、そのままここに連れてこられた。

つまり、彼の現在の姿は文字通り寝起き。


だが……。


「大丈夫。たいていの者はこちらの言葉も気にしない。相手の服装など尚更気にしない」


「むろん、おまえが告死をおこなう時には好きな格好をすればいい」


「まあ、その時は今のような姿は避けるべきだろうが」

「言ってくれる」


「だが、大丈夫なのか?呼び鈴も鳴らさずに」

「構わない」


そう言って、男はポケットから手紙を出し、何かを確認したところで口を開く。


「福井さん。福井里佳子さん」


いるかいないかもわからぬ中、男は大声でその名を呼ぶと、やがて中年の女がやってくる。


「福井里佳子さんですね」

「……はい」


あきらかに寝ぼけ眼。

というより、半分眠っている状態といっていいだろう。


「実は、あと十日後あなたは亡くなります」


「やるべきこと。やっておきたいことはそれまでに済ませておくことをお勧めします」


「何か聞きたいことはありますか?」

「いいえ」


「そうですか。では、ここにサインを」

「……はい」


「失礼します」

「……失礼します」


男に続き、聡もそう言ってその場を後にする。

家を出る直前、振り返ると、再び寝るのであろう。

ふり返るでも、出て行くのも確認するでもなく、廊下を歩いて女の背が見える。


「簡単だろう」


「だいたいがあんなものだ。だから、私は大抵真夜中に仕事をしている」

「なるほど」


「ちなみにあの人は十日後、交通事故に遭う。そして、子供をふたり残して死ぬ」

「そこまでわかっているのなら……」

「もう少しなんとかしろと言いたいのだろう」


「だが、それをやったらキリがないのだ」


「すべてをやり切った。この世に未練がない。死を迎えるにあたり、そう思える者などいやしない。まあ、ひとりかふたりはいたかもしれないが、やり残したことやまだやりたいことがひとつやふたつ、誰でもあるのだ」


「だから、こちらからは動かない。あくまで相手が動いたときにだけ手を差し伸べることに徹する」


「これはこの仕事をやるうえで大事なことだ」


「忘れないように」


「やり方は凡そ理解した」


「だが、なぜ告死をおこなうのだ」


「あんたの話が正しければ、天使は死が予定表に載せられたすべての者に死を伝えにいく。だが、大部分の者は聞いた瞬間に忘れる。もちろん、俺はそのためにとりあえず生き延びることができるのからこのシステムには感謝している」


「だが、やはりこの告死というものはあまり意味もなく、無駄なものに思えるのだが、あんたたちの元締めは告死を無駄だとは考えないのか?」


聡の問いに男は薄く笑う。


「むろん全員に利益があるものが一番だ」


「だが、そのようなものはどの世界においても存在しないと言っていいだろう。逆に、多くの者には利にならなくても、それによって救われる者もいる。それだけでそれの存在価値はあるということになる」


「そして、その救われる者とは、おまえのようなものだけではなく、心のどこかに告死された記憶が残り、死ぬまでの短い間になにがしかのことをする者も含まれる」


「……聞いたことがあるだろう」


「それまで無縁だったことを死の直前に始めた、急に優しくなったとかいう話を。あれはその影響だ」


「損得。効率性。そればかり追い求めている者にとっては、無駄に見えることも、少しだけ視点を変えれば別の姿も見えてくる。今はわからなくてもおまえも経験を積んでいけば理解できることになるだろう」


「そして、我々はその手伝いをしていると考えれば少しはやる気が出るのではないか?」


「さて、質問がなければ今日はこれで終わりとなるが……」


男は聡を見やる。


「念のためもう一度言っておくが、この仕事について他言無用。喋った瞬間におまえは死体に戻る。ただし、客との会話で必要になった場合は、その限りではない。まあ、そんな話をするようなことは滅諦にないだろうが」


「それから私は蒲原久だ。次に話をするときは蒲原さんと呼ぶように」


「明日の夜にまた来る。まあ、とりあえず生きた状態で母親に会えることをありがたく思え」


そう言った瞬間、男は消え、聡は目を覚ます。


「夢か?」


そう思いたいところだが、それを試すために誰かに告死屋について話すのはさすがにギャンブルが過ぎる。

なにしろ、あれが本当だったら自分は死ぬのだから。


そして、いつもよりずっと早く起き出した聡は、台所で朝食の準備をする母親を見る。


「おはよう」

「ああ」


背中越しにやってきた母の声にいつも通り不愛想にそう返したところで、男の言葉を思い出す。


母親に感謝せよ。


「お、おはよう」

「あらあら。珍しい。雨が降るんじゃないかな」


ぎこちない聡の挨拶に母弘子は笑う。

いつもなら、憎まれ口のひとつでも口にするところなのだが、さすがに今日はそのような気にはならない。


代わりにこう言った。


「大丈夫。今日は晴れる。そして、明日も同じ」


そして、噛みしめる。


何気ない日常がどれほど貴重なものかを。


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