そして 新しい朝を迎える
「さて、質問がなければ今日はこれで終わりとなるが……」
男は聡を見やる。
「念のためもう一度言っておくが、この仕事について他言無用。喋った瞬間におまえは死体に戻る。ただし、客との会話で必要になった場合は、その限りではない。まあ、そんな話をするようなことは滅諦にないだろうが」
「それから私は蒲原久だ。次に話をするときは蒲原さんと呼ぶように」
「明日の夜にまた来る。まあ、とりあえず生きた状態で母親に会えることをありがたく思え」
そう言った瞬間、男は消え、聡は目を覚ます。
「夢か?」
そう思いたいところだが、それを試すために誰かに告死屋について話すのはさすがにギャンブルが過ぎる。
なにしろ、あれが本当だったら自分は死ぬのだから。
そして、いつもよりずっと早く起き出した聡は、台所で朝食の準備をする母親を見る。
「おはよう」
「ああ」
背中越しにやってきた母の声にいつも通り不愛想にそう返したところで、男の言葉を思い出す。
母親に感謝せよ。
「お、おはよう」
「あらあら。珍しい。雨が降るんじゃないかな」
ぎこちない聡の挨拶に母弘子は笑う。
いつもなら、憎まれ口のひとつでも口にするところなのだが、さすがに今日はそのような気にはならない。
代わりにこう言った。
「大丈夫。今日は晴れる。そして、明日も同じ」
そして、噛みしめる。
何気ない日常がどれほど貴重なものかを。




