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!@#$%^&*

 約束通り俺とメリッサはロリヤンの街をいろいろと見て歩く。ところ変われば全てが違う。初めて来た街を見物するのはいつだってわくわくする。それはメリッサもおなじなのだろう翼をパタパタとさせている。すこしだけ不安な気持ちになるがもう覚悟は決まっている。何があってもメリッサの事は守り切って見せるさ。


「スコットさん!見てくださいあそこに変わった建物がありますよ」

「あれは初めて見る形だな。なんの店だ?」


 他のエルフの街も同じなのかは分からないが、少なくともロリヤンでは建物の形がそこに住んでいるエルフの職業を表している。アリサの家のようにキノコを模した建物には回復術師が住んでいる。かぼちゃの形は八百屋、鍋の形は料理店、ジョッキの形は酒場といった具合だ。しかしメリッサの見つけたものは何の変哲もない大きなドーム状の建物だった。周りをみても同じような建物は無いし、他にその様な建物を見たことは無かった。


「本当になんだろうな?ほかに同じような店も見当たらないしな」

「入ってみませんか?さっきからちらほらと人が入って行ってますしお店なのは間違いないと思いますよ」

「そうだな。冷やかしてみるか」


 俺とメリッサは何も書いていない長め暖簾のれんをくぐり店内に入る。そこは想像していたのとは違っていて宿屋のような受付があるだけの殺風景な場所だった。受付のおばさんは俺とメリッサを値踏みするように眺めてから言った。


「あら?おにいさん、そんな若い子となんてなかなかやるわねえ。二時間ご休憩で銀貨一枚だよ」

「えーっと?スコットさん分かりますか?」


 俺はメリッサの手を引いて急いで店を出る。受付のおばさんが舌打ちをするのが背後で聞こえたが構っている場合ではない。


「スコットさん。急にどうしたんですか?」


 まるで分っていないメリッサに俺は先ほどの店の正体を説明する。メリッサは説明が進むにつれて赤くなっていき話が終わる頃には黙り込んでしまった。しばらく黙っていたメリッサは蚊の鳴くような声で言う。


「スコットさんのバカ……」

「そうだ!前も見た大道芸を見に行かないか?蛇使いに苦情も言わないとだしな!!」

「そ、そうですね!そうしましょう」


 俺は慌てて話題を変えて大道芸人が集まっていた方へと歩いていく。昨日と変わらず賑わっているが、先日はいた蛇使いと体の柔らかさを見世物にしていた修行者は居なかった。


「蛇使いと修行者がいないな……」

「蛇使いは次の街へと旅立って行ったよ。修行者は昨日から風邪ひいて休んでるよ」


 俺の独り言に近くでシタールと呼ばれる不思議な音のする楽器を弾いていたエルフが答えてくれた。蛇使いに文句言えないじゃないか……


「というか修行者!体を鍛えていれば万病に耐える強い体が作れるんじゃなかったのかよ!!」

「あ!あの絵描きさん今日も居ますね。描いてもらいましょうよ」


 俺の魂の叫びを完全にスルーしてメリッサは似顔絵描きの方へと走っていくと俺に向かって手招きをする。俺がたどり着いた時には話は既にまとまっていたようで絵描きは絵を描き始めた。


「なんで俺まで一緒に描いてもらう事になってるんだよ」

「えー?いいじゃないですか一緒に描いてもらいましょうよ」

「おい、おっさん!モデルが動くな!」

「メリッサはいいのかよ!」


 メリッサが俺の腕に抱き着いてきたのを見て絵描きに文句を言われてしまう。どう考えてもメリッサの方がポーズも変わっているのだがいいのだろうか。釈然しゃくぜんとしない気持ちで立っているとどうやら描き終えたらしく「さっさと離れろ」と言われる。客への態度のなっていない絵描きだ。


「じゃあ二枚だから大銅貨も二枚ね」

「ありがとうございました」


 俺とメリッサが描いてある絵が二枚、同じもののはずだが背景が違っていた。どちらもこの街の風景なのだろうがどこなのかはよくわからない。とにかくこの街は森の中にあるせいで似たような風景の場所が多すぎるのだ。


「そんなのを二枚もどするんだ?」

「一枚はわたしので、もう一枚はスコットさんのですよ。はいどうぞ」


 メリッサは俺に二枚のうちの一枚を手渡してきた。こんなの貰っても困ると言いかけたが手渡された絵をみて思い直す。これはこれで良い思い出になるんじゃないかな。


「そろそろ飯にするか」

「ご飯ですね!この前みたいな高い店じゃなくて安くて美味しいお店が良いですね」

「だな」


 大道芸をしているエルフたちに聞いたおすすめの店に行ってみることにした。店はすぐに見つかったのだが昼飯時な事もあって店は混雑していたが並ぶことは無くすぐに中に通された。


 メニューを見るのだが知らないものばかりなせいで名前と料理が一致しない。仕方なく近くの席で食事をしている人たちの食べている物を指さして注文していく。


「うまっ」

「スパイスの加減が最高ですね」


 スパイスで漬け込んだ鳥肉をエルフ独特の窯で焼いたものなのだがこれがものすごく美味しいのだ。真っ赤な鶏肉でうまそうに見えたのだが見た目以上に美味かった。他に頼んだものはアリサの作ってくれたナンと似ているが少し薄手のパンと野菜たっぷりのスープ。それにメリッサが今食べている鳥のひき肉に具材を混ぜたものを櫛に巻いて焼いた筒状のハンバーグのようなものだ。俺も一口食べてみる。


「こっちももの凄く美味しいです!」

「エルフ料理はスパイスが最高だよな」


 流石は大道芸人たちの行きつけの店だけあって、味はよくて値段は安くて何もいう事の無い店だった。メリッサはラッシーとかいう食後のドリンクがよほど気に入ったらしく俺が飲まないとみるや奪い取って二杯目を楽しんでいた。師匠に剣を習っているが見習うのは剣技だけにしてほしい。食い意地まで似てこられると困る。


 午後は食堂を出る時に聞いたロリヤンの見どころを回ったのだが、この国には宗教施設が無いのが特徴だということがよくわかった。自然信仰のエルフたちにとっては自然の森林や山や川が祭壇であり神殿なのだろう。


 それ以外の場所は正直なところ同じような風景ばかりで、いまいち見ごたえがない場所が多かった。それでも久しぶりにメリッサと心置きなく過ごす時間は楽しめたのだった。




――




 翌朝目覚めると一筆箋いっぴつせんを残してメリッサは消えていた。


 ――スコットさんへ

 迷惑をかけてごめんなさい。

 わたしのわがままに付き合ってくれてありがとうございました。

 冒険者ギルドの方へはパーティー離脱の連絡をしておきます。

 さようなら    メリッサ


 一筆箋(いっぴつせん)に書かれた内容からして先生との会話を聞いていたのだろう。だからこそメリッサは俺や師匠に迷惑を掛けまいと一人で出て行ったのだろう。それは分かる。だが、俺の心にはふつふつと怒りがこみあげてくる。メリッサの奴…… 絶対げんこつを食らわせてやる。


「あいつ、散々家族だなんだと言っておいて。面倒ごとを一人で抱えて逃げやがった!」


 俺が旅の準備をしていると師匠がやってきた。


「追いかけるのかい?」

「ああ、バカな家出娘は連れ戻さないとな」

「久しぶりの故郷だ。あたしはもう少しここでゆっくりしていくさね」

「ここまで一緒に来てくれて助かったよ」

「水くさい男だねえ。メリッサと一緒にまたいつでも訪ねてきな」

「そうだな師匠の家へはまた寄らせてもらうよ」

「お前の家でもあるんだ。いつでも帰ってきな」


 師匠はいつになく優しい声でそう言うと、がらりと表情を変える。


「それにな、あたしの事は師匠じゃなくておかーさんと呼べと言ってるだろ!」

「分かったよ。かーさん」

「!@#$%^&*」


 不意打ちに泡を食ってる師匠に手を振って俺は旅立つ。まだそんなに距離は離れていないはずだ。メリッサよおっさんはしつこいんだぞ。

今回で第二章終了です。

明日から新章突入になります。


まだまだ毎日更新がんばります。

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