ぎゅっじゃわかりません
先生の口からでた言葉に俺は驚いた。黎明の黒翼――神話に出てくる創造と秩序の神と敵対し世界を滅亡の直前まで追い込んだ破壊と混沌の神。
「もちろん知ってますが……」
「ふむ、内向きの角と翼をもつ魔族は黎明の黒翼の加護を受けておると言われていてな」
「と、いいますと?」
「詳しいことはよくわかっておらんのじゃが、角と翼両方揃っておると言うのは相当特殊でな」
俺は今まで出会った魔族たちの事を思い出す。確かに羊角のそれも右だけとか蝙蝠翼だけとかは居たが両方というのは師匠とメリッサ以外に見たことがない気がする。
「どうして黒翼の加護とやらがそんなに面倒なんです?」
「魂に黎明の黒翼の欠片が混じっておるのじゃよ」
「えっ?」
「それもあって、我々魔族こそ黎明の黒翼の子孫じゃと信仰するものもおる」
「黎明の黒翼信仰があることは聞いたことがあります」
「それで、欠片が魂の中で覚醒するとな――」
先生の話をまとめると、黒翼の加護を受けている魔族が覚醒した場合は世界を滅ぼしかねないという話だ。もちろん欠片なりの力だから神話にあるような大破壊ではないようだが、だからといって覚醒させても良いというものではない。
「覚醒だなんて、本当にそんなことがあり得るんですか?」
「うむ、それは間違いない事じゃ。なんせこのワシ自身が覚醒しかかったことがあるからの」
「先生がっ?」
「あの時はアナスタシアや他の仲間のおかげで抑え込む事が出来たがな……」
先生は辛そうな表情を浮かべながらも話を続ける。俺は先生の話に出てくる街の名前を知っていた。それはある時謎の大破壊が起こって地図から消えた街だった。学者の間では隕石の落下ではないかと言われているが、まさか先生が原因だったとは。
「ワシを覚醒させようとしたのは、黒翼教団の連中じゃった」
「黎明の黒翼なら自分たちの味方だと?」
「そう思っておるんじゃろうな。実際には生きとし生けるものすべてへの憎悪しかなかったがの」
先生は少し考えてから言う。
「もしかしたら、スコット君を襲ったという暗殺者たちもそれが目当てだったのかもしれんの」
背後で物音に振り返るとメリッサが立っていた。
「この方が付与魔術の先生ですか?」
「ああ、そうだ」
「初めましてメリッサといいます」
メリッサはぺこりと先生に向かって頭をさげる。先生もメリッサに挨拶を返す。
「どうしたんだ?こんなところまで」
「アナスタシアさんが忙しくて、わたしは暇をもてあましちゃったので。スコットさんを迎えにいこうかなと」
「なるほどな」
「お嬢ちゃんすまんかったの。ズバット君との用事はもう終わったから連れて帰ってもらって構わんよ」
俺とメリッサは先生に頭を下げてアリサの家へと向かって歩き出す。歩きながら俺はメリッサに言う。
「なあ、メリッサその剣を貸してくれ」
「剣なんてどうするんですか?」
メリッサは不思議がりながらも細剣をぬいて俺に渡す。俺は細剣を確かめると魔力をぐぬぬっと練ってダァッと放つ。放たれた魔力は渦を巻くように剣にまとわりつき文字を刻んでいく。
「これでいいだろう。先生の所で教わった成果だ」
「なんの魔法を付与したんですか?」
「鋭利の魔法だ。少し魔力を流してみろ」
「んっ…… こうですか?」
メリッサは魔力を込めているつもりなのだろうが何も起こらない。
「そうじゃなくてだな。こうギュッっと魔力を込めるんだ」
「ぎゅっじゃわかりません」
「ああすまん。そうだな指先に魔力に集中はできるだろ?それを剣に向かって伸ばしていく感じだ」
「こうですか?」
するとメリッサの剣に刻まれた小さな文字が一瞬光を放ち付与魔術が発動する。
「それでいい。付与魔術が発動している間なら総鎧でも楽に切り裂けるはずだ」
「そんなに切れ味上がるんですか……」
「止める時はもう一度同じように魔力を流すだけでいい」
先生の所での修行の成果だ。前の俺ならこういう風に効果を付与したアイテムを作ると何度か発動すると壊れてしまっていたが今はもう何度使っても壊れることはない。師匠の鑓のようなものだって作ることができるようになった。
新しいおもちゃを手に入れた子供のようにメリッサは鋭利の付与魔術を発動したり止めたりしている。最初はたどたどしかった動作がだんだんと様になってくる。
「だいぶ慣れて来たみたいだな」
「はい。なんとか!」
そういった直後にメリッサは鋭利を発動させたまま鞘に戻してしまい見事に鞘が真っ二つになってしまった。よっぽど驚いたのかメリッサはぴょんと飛び上がる。その姿があまりに滑稽で俺は声を上げて笑ってしまう。
「笑うなんてひどいです!」
「いや、すまんすまん。ちょっと武器屋によって修理してもらおう」
魔法と弓が得意なエルフの武器屋はやはり弓が多く展示されていた。数は少ないが剣もあるにはある。しかし師匠が使っているような刀や鑓のようなものは置いていない。前に本人から聞いてはいたが力自慢で魔法が苦手な師匠はかなり特殊な存在らしい。
「これどうやったんだい?鞘が切れちまうなんて普通にあり得ないでしょ」
「いえ、その」
「まあいいか。すっぱり切れてるから簡単に直るよ。ちょっとまってな」
職人らしいエルフのおっさんはそういうと奥へ引っ込んでしまった。直すのには間違いはないのだが、予算も言わずに店も放り出していきなり作業を始めるなんてと呆れる。俺たちが悪党なら店の中の商品全部なくなるぞ。職人というのはエルフでもドワーフでもとあまり違いがないのかもしれない。
「ほらよ。直ったよ」
「いくらだ?」
「ああ接着剤を少し使った程度だからね、大銅貨一枚でいいよ」
俺が巾着から大銅貨を探している間にメリッサがさっさと支払ってしまった。かなり安くしてくれた店主に礼をいって店を出た。
「俺が払ってもよかったんだが」
「まあ、わたしの失敗ですし」
「そういうなら俺の魔術が原因だ」
「じゃあ、んー…… 明日わたしと一緒に街を見に行ってくれませんか?」
「なんだそんなことか。明日は予定もないし構わんぞ」
確かにロリヤンに来てからなんだかんだと忙しくしていたからな。せっかくエルフたちの国の首都までやってきたわけだし、一日位ゆっくりと観光がてら見て回るのも悪くない。
アリサの住むキノコっぽい外見の家が見えてきたころには陽もかなり落ちてきて空が茜色に染まっていた。
「スコットさん、このにおい……」
「ああ、この匂いだけでもうかなりヤバいな」
そう言えば昨日「二日目のカレーはもっとすごいのだ」とアリサが言っていたがどんな味に育っているのだろう。特に急ぐ理由もないというのに、俺とメリッサの足は自然と早まっていくのだった。二日目のカレーというのは本当にすごかった味に深みが増し熟成されていて三日目まで残るはずだったカレーは見事に二日目で底をついた。
その夜、師匠は風呂上りに涼むために一人で庭に出ていた。全て承知しているとは思うが師匠には話しておいた方がいいだろう。それにどうするべきなのかのアドバイスも欲しい。
「師匠、少しいいか?」
「なんだい、急に改まって」
「角と翼の話を先生から聞いたんだが――」
「なんだい、そんなことかい」
「そんなことって……」
「お前を運んで家に来た時から分かってた事さね。あの子は強い。心配するような事にはならないさね」
師匠は背伸びして俺の背中をバンバンと叩く。身長がないせいで全く絵にならない。
「なにかあっても。お前が守ってやればいいさね」
「ああ、もちろんだ」
初投稿作品です。
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