ひかひはぎほふへへほっへふふほははひへはひほは
「ひかひはぎほふへへほっへふふほははひへはひほは」
「なに言ってるのかわからんぞ。鼻をつまんだまま話すな」
アリサは持ってきた瓶の蓋を開けて床に置くと五歩ほど離れる。師匠もメリッサも鼻を抑えているのが地味に傷つく。
「これに入れればいいのか?」
(コクコク)
「蓋も閉めるのか?」
(コクコク)
俺が蓋を閉めるとやっと鼻をつまむのをやめてくれた。
「素手で持って帰ってくるとは、お前はアホなのだ」
「こんなに臭いとは知らなかったんだよ。先に言っておいてくれよ」
「説明しようとしたのに、知っていると言ったのはお前なのだ!」
そういってアリサは近づいて来ようとしたがすぐに後ずさる。師匠とメリッサも不思議と近づいてこようとしない。
「風呂の用意をしてやるから、とにかくまずは体を洗ってくるのだ!」
風呂は本当に心地よかったが、風呂に入る理由が理由なので心からは楽しめない。念入りに体を洗う。特に両手はもうヒリヒリしてくるくらい根気よく洗った。
「まだ臭いのだ。食事は後で届けるから庭でまっているのだ」
「わかったよ」
俺は庭へと移動し、折り畳みの椅子を開く。大体アリサがどうでもいい説明ばかりして肝心の事を後回しにしていたのが悪いんじゃないか。
メリッサと師匠とアリサの楽しそうな声が家の中から聞こえてくる。三人で料理を作っているらしい。俺は庭で独り蟻の行列を数えて過ごす。
「お待たせなのだ」
「ちょいとスコット、椅子並べるのを手伝いなよ」
「アリサさん。お鍋はどこにおきましょう?」
「ちょっとまて、お前らも外で食うのか?」
「なに言ってるんですか。あたりまえじゃないですか」
「ナーシャの家族なら。私の家族でもあるのだ」
「家族なんだから一緒に食うのは当然さね」
メリッサ達はさも当然といった風に椅子やテーブルを並べて食事の準備を整えていく。慌てて俺も準備を手伝う。
「あの臭いのがこんなに美味しいスパイスになるなんて」
「阿魏は高温の油で調理すると嫌なにおいが飛んで、とても美味しいスパイスになるのだ」
「確かに何とも言えない美味さだな」
「懐かしい味さね」
アリサが中心となって作ってくれたのは、エルフ達の伝統料理で数十種類のスパイスを使ったスープ料理でカレーと呼ばれるものだ。板状に焼いたパンのようなナンと呼ばれるものと一緒に食べるのが特徴的だ。ピリッとしたスパイスの刺激の中に複雑に絡み合った甘味や酸味が食欲を刺激して、幾らでも食べられそうな気がしてくる。この中にあの臭い根からとった成分が入ってるなんて信じられない。
「たまには外で食べるのもいいものなのだ」
「そうか?旅の途中はいつもだし、風でゴミがついたりろくなことないぞ」
「あんたはバカだねえ。そんなこと言ってるんじゃないさね」
「あ!アリサさんお茶なら私が淹れますよ」
エルフの師匠とアリサはエルフらしい少しとがった耳をピコピコと動かしている。耳は口ほどにものを言うというエルフの諺にある通りカレーが美味しくて満足しているのだろう。メリッサも翼をパタパタとして喜んでいる。実に分かりやすい面子だ。そう言えば先生も魔族でメリッサと同じ羊っぽい角と翼あるよな。なんか関係あるんだろうか?今度会った時にでも聞いてみよう。
「師匠!俺のカレーを狙わなくてもおかわりは沢山あるじゃないか!」
「奪う事に意味があるんだよ」
「もう、二人ともおかわり入れてあげますから。喧嘩しないでください」
「あ!アリサもおかわりが欲しいのだ」
この後四人でめちゃくちゃカレー食った。
「スパーク君、試験の首尾はどうだったかね?」
「スパークなら格好いいのでそれでいいです。昨日上手くクリアしましたよ」
「ふむ。ではスコット君詳しく話してみい」
「ちゃんと名前覚えてるんじゃないですか!アギの生えてるというところへ行くと、大蛇がいてですね――」
「うわっはっは、若いのに頭が硬いバカだのう」
「頭が固いって言うのはどういうことですか?」
「つまり、付与魔術というのはだな――」
「そ、そんなことが可能なんですか?」
「出来ぬ道理がないだろう。前にも言ったはずじゃ付与魔術は最強じゃと。どれ」
先生は俺に向かって構えると、説明通りに魔法を俺に向かって使う。
「硬化!! どうじゃ?」
「ぐっ…… 確かに」
すぐに硬化の魔術は解かれる。主に盾などの強化に使われる付与魔術で、拳にかけたりすると少々鎧を殴ったところでびくともしない位には固くすることができる便利な魔術だ。俺ももちろん使えるし、何度も使ったことはあったがこんな使い方があったなんて。
「よし!こうグバッとやってビャアアンじゃ」
「こうですね!」
「そうじゃ!!」
俺はもう完全に先生が表現しようとする感覚と擬音を理解している。もし俺自身が他の誰かに付与魔術を教えるなんて事になった時はやっぱりブァアアンとか、ビャアアンとかしか表現できないと思う。
「ふむ。お前に教えることはもう何もない」
「ありがとうございます先生」
「スコット君がわしの最初で最後の弟子になったの」
「えっ?他に弟子居ないんですか?」
「うむ」
どうりで他の付与術師に出会わないはずだ。先生が生み出した付与魔術。それを教わったのが俺一人ということは先生と俺しか付与術師は存在しないということになる。
「わしはもう歳を取り過ぎたせいで、この魔力に満ちたエルフの神域でしか生きてはいけんからの」
「そんなことは無いでしょう……」
「付与魔術は最強! そして、わしがここから動けない以上はお主が世界最強じゃ」
先生が俺に教えてくれた事を使いこなせるなら、確かに世界最強にだってなれるかもしれない。しかし、先生の体がそこまで弱っているとううのは弟子としては衝撃である。やはり先生には長生きしてほしいものだ。
「あっ、そういえば先生」
「なんじゃね?スパイク君」
「スコットですってば!先生の羊っぽい角と翼って珍しいものなんですか?」
「ん?質問の意図がわからんのじゃが」
「実はですね――」
俺は手早くメリッサの事を先生に説明する。説明が進むのに合わせて先生の表情が険しいものになっていく。
「メリッサという娘の角は、外向きに巻いておるか?それとも内向きか?」
「と、いいますと?」
「つまりこう――」
要するに先端が前方へと巻いているのが内向き、後ろへ向いているのが外向きという事らしい。みんな同じだと思って気にしてなかったが角にそんな違いがあったなんて。メリッサの姿を思い出してみる。
「確か内向きだったと思います」
「なるほどのう…… 内向き角に蝙蝠翼か…… そりゃあ面倒な事になりそうじゃのう……」
何事にも動じない先生が何やら真剣な表情で黙り込んでしまった。今まで結構な数の魔族を見たが角と翼なんて普通に生えてるものじゃないのか。
「どういう事でしょう?」
「スコット君。黎明の黒翼というのをしっておるかね?」
初投稿作品です。
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