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臭っせ!

 俺はロリヤンに移り住んでいるという付与魔術エンチャントの先生に会いにやってきていた。子供の頃に幾ら剣の練習をしても捗らない俺のために師匠が先生を呼んでくれたのが懐かしい。それから半年ほど集中して教わった。俺の付与魔術エンチャントに関する知識はその時に得たものが全てだ。


 ロリヤンに居る間に先生の元で徹底的に鍛えなおすつもりだ。自分が死ぬのも師匠やメリッサを危険な目に合わせるのも二度と御免だからな。


「はて?だれじゃったかのう?」

「アナスタシアの弟子ですよ。お久しぶりです」

「おお!大きくなったのう。たしかスポック君だったか」

「スコットです!あの頃は本当に子どもだったので見た目は変わってますが」


 魔族である先生は相変わらず元気そうに見えるが記憶より体が小さくなったような気がした。


「なんじゃ魔力の流れが変じゃで全然気づかんかったわ」

「実はですね――」


 俺は魔術が使えなくなっている事情を先生に説明する。先生はなぜか笑いをこらえながら話を聞いていた。


「うわっはっは。付与術師エンチャンターともあろうものがたかが暗殺者にそんな目にあわされたというのか!これは傑作じゃ」

「とんでもない手練れだったんですよ。弱体魔術もレジストされましたし」

付与魔術エンチャントは最強じゃぞ。それを使えるというのに、なんという…… 笑いが止まらん!」


 先生はひとしきり笑ったかと思うと真剣な表情になった。


「このバカもんが!鍛えなおしてやる!」


 こうして魔術が使える様になったら先生の元で付与魔術エンチャントを勉強しなおすことにきまった。


――


 俺とメリッサはついにその時を迎えていた。あり得ない程に興奮していることが自分でも分かる。メリッサの方もかなり緊張しているのだろう表情が少し硬くなっているようだ。


「いいか?いくぞ……」

「はい、いつでも…… 覚悟はできていますから……」


 魔力を練り強化魔術をメリッサにかける。久しぶりの感覚でまだ少し慣れないが魔術はきちんと発動した。


「やったぞ!治った!」

「おめでとうございます!」


 あとは先生の元で付与魔術エンチャントを鍛えなおすだけだ。



 先生とマンツーマンで付与魔術の訓練を行う。先生がやって見せるのを俺が真似をする。それだけの事なのだが、これがなかなか思うように進まないのだ。


「魔力をこうギャンと集めて、ヴワァアアンじゃ」

「こうですか?」

「それじゃグワァァァンじゃ、ヴワァアアンと撃つのじゃ」

「こうですか?」

「そうじゃ!」


 昔からこの先生の言う事は分かりづらい。感覚を伝えようとしてくるせいで擬音が多くなるのだろう。それでも熱心に付き合ってくれるのでなんとかなっている。


「先生、師匠の鑓に掛かってるような魔術も教えてほしいのですが」

「ああ、あれか。簡単なのならできるじゃろ?ちょっとやってみろ」


 俺は別の魔術がかかっていた指輪を外し、術式を消去した上でもう一度かけなおす。いつも通りの手ごたえがあって指輪が完成する。


「どうでしょう?」

「全然あかんな。それじゃ何度か使ってるうちに壊れるじゃろ?」

「そうですね」

「ちょっと貸してみい」


 俺は先生に指輪を手渡す。


「よいか?このように魔力をぐぬぬっと練ってこうダァッと放つ。これで半永久的に使えるじゃろ」


 術式自体は同じなのだが魔力の質が全然違う。やっぱり先生の言うことは理解できないがなんとか理解しようと努力する。まだ当分ロリヤンに滞在する予定だし焦らずやればいいさ。


「ふむ、一通り全ての術式は使える様になったかのう?」

「はい、おかげで前から使えたものも威力が段違いに上がりました」

「それはよかったのう。ところでスコップ君」

「スコットです!」

「スコット君、おぬしに頼みたいことがあるのじゃが」

「なんでしょう?」

「まあ卒業試験のようなものじゃ。詳しい内容はアリサに聞くとよい」



 クエストとしてやればいいということなので俺とメリッサ二人でやることになった。試験を兼ねているとか言っていたがどういう事だろう。とりあえずアリサに話を聞く。


「ああそれか、阿魏アギの根を取ってきてほしいのだ」

「アギってのはどんな植物なんだ?」

「お前の身長より高い幹に玉のような黄色い花がたくさん付いてるから見れば一目でわかるのだ」

「まあ分かりやすいならありがたいな」

阿魏アギは良い薬にもなるし、スパイスとしてもよいものなのだ」


 横で聞いていたメリッサもアリサに質問する。


「なるほどです。何か注意しないといけない事とかありますか?」

阿魏アギが生えているのは神聖な森の中だから殺生や生き物を傷つけることは絶対にダメなのだ」

「そりゃあ面倒くさいな」


 そうして、アリサから注意点を聞かされる。アリサの奴は細かい性格をしているせいか説明が異様に多くて長かった。


「あ!そうそう森に生えている。こういう草は毒があるから触ってはダメなのだ」

「ヒトコロソウな。知ってるよ」

「このキノコは今は生えていないと思うが手をかじられるから気を付けるのだ」

「カミツキダケな。冒険者でも常識だよ。行ってくるわ」

「最後に――」

「はいはい。知ってるから」

「ならばいいのだ」


 俺とメリッサはアギとやらが生えているという場所へと来ていた。確かに聞いた通り大きな幹から黄色い玉のような花が沢山咲いた姿をしていた。つぼみの状態で採集に適した状態のものも見つかったのだが……


「いるかも?とは言ってましたけど本当にいましたね……」

「だなあ……聖域での殺生はダメって事だからなんとか上手く追い払うしかないな」


 体長が大人三人分程もある大蛇パイソンがとぐろを巻いて居座っていた。こいつは一般的な魔物で倒してよいのであればそんなに苦労する相手ではないのだが倒さずにとなると相当苦労することになりそうだ。


「なあメリッサ、一つ思いついたんだが……」

「アレですよね…… 私も同じこと考えてました」

「できるか?」

「大丈夫だと思います」


 メリッサは荷物をごそごそとやってアレを取り出す。メリッサはそれを構える。


「ぴゃああああああああ 全然ダメじゃないですか!」

「誰だよリズムで蛇を麻痺させる事ができるとか言ったのは!」


 浮遊島で買ってやったハーモニカで蛇使いの真似をしてみたのだが、蛇を刺激して怒らせるだけの結果になった。


「くそ!仕方ない重力グラビティ


 弱体魔術を放ったのが俺だということが分かるのだろう、大蛇は狙いを俺に絞って追いかけてくる。


「ちょっとこいつを引き連れて逃げてるから、その間にメリッサが根を掘り出してくれ!」

「わかりました。時間稼ぎお願いします」


 重力(グラビティ)の効果が出ているので追いつかれる事はないのだが、狙いがメリッサに変わらないように上手く逃げるのはなかなかに骨が折れる。石を投げつけたり大声を出したり、傷つけないようにするのにも何かと苦労する。


「終わりました!帰りましょう」


 メリッサからアギの地下茎を受け取り一目散に走って逃げる。重力(グラビティ)がかかっているので逃げること自体は簡単だった。大蛇の姿が見えなくなりもう追ってはこない事を確認する。そしてとある事実に気づく。


っせ!」

「本当にくさいですね……」


 なんだこの根。とんでもなく臭い。ニンニクを濃くしたようでもあり硫黄のようでもあり腐った玉ねぎのようでもある強烈なにおいがする。


「なあメリッサ持ってくれないか?」

「嫌ですよう!」


 いうやメリッサは逃げだしてしまう。俺だって逃げたいよ。捨てるわけにもいかないし仕方なく手に持って帰る羽目になった。森から出たころにはもう鼻が麻痺してしまっていたが、すれ違う人の表情でもの凄く臭い事が簡単に想像できる。あからさまに顔を背けられているからな。


 これ以上こんな反応をされ続けると心が折れてしまう…… 俺はアリサの家へと急ぐのだった。

初投稿作品です。


まだまだ毎日更新がんばります。

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