本気
それから俺は本気を出した。
三歳の時点で既に読み書きはできていたが、周りにあわせて読めないフリをしていた。ごく普通の子でいようと思ったからである。
前世の記憶があるなんてことが悟られて気味悪がられて両親に捨てられてはたまらないし、せっかく生まれてきた子供が俺で申し訳ない気持ちもあった。
しかし、母がいなくなった今、父を支えて弟の面倒を見なければならないという使命感に満ちている。
五年とはいえ、一生懸命育ててくれ生んでくれた母親にせめて恩返ししなければ。
それからの俺はすごかった。
隠れて三歳のときから読んでいた魔法書の知識が役に立ち、八歳になる頃には高等魔法書を解説できるようになっていた。
その他にも、様々な専門書を読みあさり知識をつけた。大学受験できなかった悔しさをぶつけるように勉強に没頭した。
「おにいさま」
「どうした?ルー」
「ぼくもおべんきょうします」
自室で勉強していると、いつの間に入ってきたのか弟のルシアンが俺の服の裾を握っていた。
弟のルシアンは俺と違ってズルなしの天才だ。現在三歳だが、もう文字はほとんど読める。今は文字を書く練習中だ。
さらに、母のプラチナブロンドの髪に父のヘイゼルの瞳を受け継いだルシアンはどこからどう見ても天使だ。
俺の兄弟だなんて信じられ無いくらいに可愛い。神様ありがとう。
母の記憶が無いルシアンの世話はできる限り俺がやった。父は忙しくて家にいる時間が少ないし、野中みづきの時は両親が共働きでひとりっこだったので寂しい時間が多かった。
ルシアンにはそんな寂しい思いをさせたくない。
寝かしつけるのも、食事の手伝いも、入浴、着替え、勉強も俺がやった。愛情を注いだ甲斐もあって、ルシアンは優しく素直な子に育った。そんな弟がとても優秀で俺も鼻が高い。
「ルーは偉いな」
「えへへ」
ルシアンの頭をなでてやると、照れたようにはにかんだ。
(か、可愛い…!)
自分のことを絶対的に信頼してくれる存在というのはとても心が癒される。
ルシアンには俺が昔読んでいた入門の魔法書を与えている。ルシアンが勉強すると言い出してから分かりやすいようにと俺が使っていた書き込み付きの本を与えている。少しでもルシアンの助けになればと思い、一生懸命書き込んだ。
そのおかげかどうかは分からないが、ルシアンはめきめき実力を発揮している。