どうやら転生したらしい
次に気がついたときには、誰かの腕に抱かれていた。
抱かれていたというより、抱っこされていた。視界がぼやけていて何となくでしか分からないが、髪の長い女性に抱っこされている。
事態が飲み込めず声を発しようとするが、自分の口から出るのは赤ん坊のような鳴き声だけ。四肢は思い通りに動かずもどかしい。
「見て、きれいな銀色の髪。あなたのお母様にそっくり」
「ああ、瞳はきれいなブルーだ。君にそっくり」
「ため息が出るほど美しい子ですね…将来は奥方様のような美人になるでしょう」
俺はウィリアム・エインズワースとしてまた生を受けた。
最初のうちは状況が分からず、朝と無く夜と無く泣き続けた。しかし、母親らしき人や父親らしき人達が慌てふためく姿を見ているうちに、十八歳の精神が徐々に戻ってきた。
いい年して何やってんだと。それから俺は、迷惑をかけないようにひたすら静かにいい子にしていた。
しばらくは突然静かになった俺を周囲は心配していたが、環境に慣れたんだろうということになったみたいだ。
視界がクリアになるにつれて、だんだんと自分のおかれている状況を把握できるようになった。
まず、ここは日本ではないということ。母親はプラチナブロンドに碧眼の超美人で、父親はダークグレーの髪にヘイゼルの瞳のイケメンだったし、二人とも着ているものが中世ヨーロッパの貴族のようにきらびやかな洋服で、日本どころか地球ではあり得ない格好だ。
さらに、使用人らしき人も一人二人ではなく大量にいる。俺の子守りには侍女が最低二人はついているし、父の後ろにはいつも執事と護衛がいる。どう考えて裕福な家庭である。
そしてこれが、一番、重要なのだが、どうにもこの世界には魔法があるようなのだ。ここが地球ではないと確信したのは、初めて魔法を見たときだ。母が泣いている俺をあやすときに、手から金魚を出したのである。
その金魚はベビーベッドで寝ている俺の目の前をふよふよと泳いでみせた。
そこからはさあ大変。魔法なんてものが存在しているなんて思ったこともない俺は、赤ん坊メンタルも相まって大泣きしてしまったのだ。それから母は俺をあやすときに魔法は使わなくなった。
そんなこんなで生後八ヶ月には自分のおかれている状況を把握してしまった俺は、六歳になる頃には立派な大人に精神が成長してしまっていた。
俺はそこそこ名門貴族の家に生まれたらしく、父、アーサー・エインズワースは軍でそれなりの地位にいるらしい。エインズワース大佐と呼ばれていたので、おそらく大佐なのだろう。
母、トリシア・エインズワースはとても気丈な人で、貴族の奥方とは思えないほどに活発な人だった。
そう、だったのだ。
俺が五歳になってすぐに弟のルシアンを生んだ母は、産後の肥立ちが悪く二週間後に静かに息を引き取った。
五年間一緒に暮らしていた母が亡くなるというのはやはりショックで、精神的には二十三歳の俺でもすこし堪えた。
しかしそれよりもこれから俺がしっかりせねば、という思いが強かった。




