二人の鞆子 (8)
「大丈夫か。」
充四郎は側に倒れ伏す鞆子に声をかけた。
「どうにかね・・・
身体はまだ痛いけど、動けはする。
と、言うことは奴等は居なくなったって事だね。」
鞆子は苦笑いを洩らした。
「あいつらは何者なんだ。」
充四郎は立ち上がったが、鞆子は脇にある木に背を持たせたまま座り込んでいる。
「先ずは、そこにある着物を取ってくれないか。」
鞆子は弱々しい言葉に充四郎は従った。
「ひどい目にあった。」
その着物に腕を通しながら、鞆子は言った。
「なぜお前は二つに・・・」
「一つ一ついきましょう。」
鞆子は充四郎の言葉を遮った。
「先ずは、何者かって事。」
鞆子の言葉に充四郎は頷いた。
「何だと思う。」
「鬼だよ。
それ以外に考えられないよ。」
「だとしたら、なぜお前が狙われた。」
「それが私が二人に別れた理由だろうな。
多分、鬼が私の中に巣くっていたんだろうね。
それを知ったもう一人の鬼が分離させに来た。
そういう所だろうね。」
「その、二つに分かれる時だが、お前の背の・・刺青と言うのか、あれの背に尻尾のようなものが見えたが、あれは何だったのだ。」
「そんなものは知らないよ。」
「そうか・・・」
その答えに充四郎は複雑な表情を見せた。
「ところで、この後だが・・・」
鞆子が言葉をかけた。
「あんた一人で帰ってくれ。
あんな事になって、私の身体も随分損傷を受けた。
この身体でも、宿に帰ればあの和尚は体の関係を求めてくるだろう。
それには堪えられん。
暫く身を隠すから、あんたは私を見失ったということにしてくれ。」
鞆子は珍しく頭を下げ、その姿を弱ったしるしとみて、充四郎は頷くしかなかった。
そんな充四郎の目の前で、のろのろと着物を調えた鞆子は、森の奥に向けて歩いて行った。
「直ぐに旅立ちの準備を。」
宿に帰ってきた大童丸はせっつくように言った。
そう言われた末吉は連れて行った女とは、少し違う女の事を訪ねるよりも、大童丸の言葉をまず実行に移した。
大童丸の一行は末吉と姫と呼ばれる女、三人となった。
その三人は急いで宿を引き払い、旅路へと付いた。
「何故こうまで急いで。」
魔性姫が大童丸に尋ねた。
「あの女・・・」
大童丸は鞆子の顔を思い浮かべた。
「今まではお前を押さえるために、その力の半分は使っていたであろう。
それでいてあの力・・・
それが、全ての力を使ったらと考えると・・・」
大童丸は恐ろしげに首を振った。
「それ程でもありますまい。」
魔性姫は大童丸の恐がり様を笑った。
「そうでは無い。
昼とは言え、そなたを解放する時の戦いは互角。」
「ならば夜であれば。」
「あやつの力が上がっておれば、夜であってもほぼ互角。
しかもあやつは昼間でも同じ力・・とすれば我等は負ける。
逃げるが勝ちだ。」
そう言って、大童丸も笑いを返した。
「あの女はともかく、人と戦うになぜ牙鬼を使わぬ。
あやつを使えば人など簡単に斃そうに。」
「奴を使わぬのは戦略だ。」
「戦略・・・」
「そうです。戦略です。」
大童丸は頷いて話を続けた。
「戦略と申すのは、人の憎しみを我等に向けぬ為。」
「と言われますと」
「人は我等の存在を知らぬ。
鬼の存在は知っているが、それは全て新しき鬼のこと。
人の敵は今のところ我等ではない。」
それから大童丸は新しき鬼の事を話した。
「つまり、このまま放っておけば、人の憎しみは新しき鬼に向き、我等には向かぬ。
その間に我等は体制を整えることが出来る。」
「それが出来れば・・・」
魔性姫は唇を歪めて笑い、大童丸の後に着いた。
鞆子はその身体を捨てられた所から、充四郎とは別れて、森の奥に向かった。
体には当然痛みが残っていた。
その痛みを我慢しながら、鞆子は一歩一歩歩を進めた。
森は益々深くなった。
そこで鞆子は地面に腰を下ろした。
鞆子は辺りを見渡した。
そこには木々が天を覆うほど枝を伸ばしている。
鞆子はそこで気を入れて念を唱えた。
すると、ざわざわと音を立て、辺りの木の枝やら、大きな草やらがうごめき始めた。
力は強くなった・・・鞆子はそう思った。
だが体の力は落ちた・・・そうも感じていた。
鞆子がそう考えている間に、鞆子の念の力が、そこに雨露を凌ぐ場を造り上げた。
それに鞆子は自信の力の増大を確信した。
体力が戻るまで三日という所か・・・
それから後は・・和尚の所へ復り、暫くは同行する
そして機が至ればそこを離れて鬼を討つ旅に出る。
同行は充四郎か・・それとも他の誰かか。
鬼を察知できる者が居れば・・・
などと鞆子は考えながら、出来上がった草の褥に身を横たえた。




