傍に行く方法
しばらく寝て、もう帰って大丈夫だと医者からお墨付きを貰えた俺は、お父様と一緒に公爵様のところへ無事を報告しに行くことに。
銀髪オールバックの、まだ三十代になったばかりという若い当主。
筋骨隆々の肉体は、こうして対面しているだけでも威圧感を覚えるほどの迫力がある大男。
ディラン・ルークウェルその人だ。
「改めて……すまなかったな。娘について、先に説明しておくべきだった」
「いえ、この通り息子も無事でしたから、お気になさらず。ただ……お嬢様がどういう状態なのかは、気になっております」
ディラン公爵の謝罪に、お父様が応える。
それを受けて、公爵様は渋い表情のまま一人娘について語り始めた。
と言っても、俺が知っていることから、大きな違いはない。
あの子……ミュリア・ルークウェルには、生まれつき呪いの力が宿っている。
本人が望むと望まざるとに拘わらず、周囲にいる生物を苦しめ生命力を奪う、特殊な魔力が常時垂れ流しになっているらしい。
「そういうわけで、現状は私と騎士団長以外は誰もあの子に近付けないんだ。君達も、あの離れには近付かないように頼むよ」
「了解しました。……ロロン、もう勝手に動くんじゃないぞ?」
言い含めるように、お父様が俺に目を向ける。
けれど、俺はそんなお父様には答えず、一歩前に進み出た。
「公爵様は、あの子に近付けるのですよね? ならば、その術を俺に教えて頂けないでしょうか」
「ロロン!?」
俺の思わぬ発言に、お父様が飛び上がらんばかりに驚いた。
公爵様も同じ感想なのか、目を丸くしながら恐る恐るといった様子で口を開く。
「……どういう、意味かな?」
「言葉通りです。俺は……自分達ハートナー家は、ルークウェル家に仕える騎士の一族。すなわち、俺にはあのお嬢様をお守りする使命があります。それが、守るどころか傍に行くことすら出来ないのでは、話になりません」
思いっきり建前を押し出した理屈だけど、立場を考えれば無視は出来ないはず。
そんな俺の言葉に、公爵様は呻く。
「……私が近付けるのは、あの子の持つ特異な魔力を弾き返せるだけの身体強化魔法を使えるからだ。相当に厳しい修練を積まなければ、この域には辿り着けんぞ?」
「覚悟の上です」
ノータイムで答えると、公爵様は一つ息を吐き……躊躇いがちに頷いた。
「分かった。私は政務で忙しいから見てやれんが、我が家の騎士団の訓練に参加する許可をやろう。明日から、父と共に通うといい」
「ありがとうございます!!」
よし、これでひとまず、鍛えるための環境は手に入った。
でも……ただ他人と同じように鍛えるだけじゃ、中盤の主人公と互角にやり合える力を持ったミュリアの傍にはいられない。
だから……“自主訓練”でどれだけ伸ばせるか、それが勝負だ。
「大丈夫……俺には、アニメの知識だってあるんだから」
実の所、アニメの主人公も、この世界に生まれた時点では特別な才能があったわけじゃない。
幼少期から毎日毎晩訓練を重ねて魔力を増やし、その魔力を使ってある特別な力を見出したことで、世界最強の魔法使いになったんだ。
その一部始終を把握している俺なら、同じように強くなることだって出来るはず!!
……そう思っていた時期も、俺にありました。
「うおぇぇぇ……!!」
家に戻った俺は、自分の部屋で早速自主訓練……限界まで魔力を振り絞り、回復を待ってからもう一度放出するというのをやってみたんだけど、吐き気に耐えかねて窓の外に向かってリバースしていた。
いや、何これキッツイ。アニメではかるーくやってるようにしか見えなかったけど、ここまでとは思わなかったよ。
でも、考えてみれば当たり前か。
体力の限界まで走って回復するのを繰り返せば、超回復? 的なあれで体力が増えると言われても、本当に限界まで走り続けられる奴なんてほぼいない。
前世にはない“魔力”って概念だから、それを消耗することによる負担を甘く見ていた。
しかも、一度無くなった魔力が全然回復しない。もう使い果たしてから二時間ぐらい経ってるのに、吐き気が全く収まらないもん。
主人公は、一時間もすればケロッとした顔してたんだけどな……ほんと、どこが「俺は凡人だからなー」だあの野郎、しっかり天才じゃねえか。
「けど、負けてられるか……!!」
俺がこの世界の主人公じゃないことなんて、最初から分かってたことだ。
それでも、ミュリアのことは助けてあげたいと思ったから、こうして訓練してる。
なら、主人公との差で一喜一憂なんてしてられない。
「絶対に……強くなってやる……!!」
アニメで得た情報が正しければ、魔力量の伸び率は十歳までの幼少期が一番大きく、その後は加齢に応じて急速に伸び代がなくなっていくという話だったはず。
つまり、今多少無理してでも増やさないと、すぐに凡人以下に成り下がってしまうんだ。
「負けて、たまるか……!!」
そんな決意を込めて、もう一度魔力を放出し……。
当然のようにキラキラを吐き出し、事態に気付いたお父様に叱られることになるのだった。




