プロポーズ
大悪魔、マモンが引き起こした一連の事件は、王国史に残るほどの大騒動となった。
命だけは助かったとはいえ、国王陛下が悪魔に乗っ取られた上で近衛まで動かし、挙句の果てに魔族とかいう新種が王都で大暴れする事態にまで発展したわけだからな。
獣人達の集落に無警告で突如侵攻したルートン男爵家の背後にも悪魔の暗躍があったという事実も明るみに出たことで、人々の間で悪魔に対する危険意識が随分と浸透したらしい。
でまぁ、そんな悪魔に対抗する力を持った俺やルイスは、国王陛下直々に王宮に呼び出され、大々的に勲章やら爵位やらをありがたく頂戴することになったんだが……。
「ロロン、ご機嫌斜めだね~?」
「そりゃ機嫌の一つも傾くだろ、呼ばれたのが俺達二人だけで、ミュリアには何もないんだから」
今回の騒動で、俺と同じようにミュリアも大活躍だった。
ミュリアが命懸けで頑張ってくれたからこそ、マモンを倒せたと言っても過言じゃない。俺一人じゃとても勝てなかっただろう。
だというのに、ミュリアがアスモデウスに続いてマモンの力まで取り込んだ、半悪魔とでもいうべき存在になっているからって理由で、表舞台に出すのはしばらく控えるべきだって本来得るべき賞賛も勲章も何もかも無しになってるんだよな。
こんなの納得出来るわけがない。
「多分、ミュリアもそんなに気にしてないと思うよ? あの子がそんなもののために頑張ったわけじゃないって、今のロロンなら分かってるでしょ?」
「まあ……それはな」
ルイスの言う通り、ミュリアがそんなもののために命を懸けたわけじゃないってことくらい、俺にも分かる。
いや、ある意味勲章や爵位のためではあったけど、それは自分が手に入れたかったわけじゃなくて……。
「ふふふ、ロロンも成長したよね~、少し前までだったら、今のところで『え?どういうこと?』ってなってたのに」
「そんなことは……」
ないって言いたかったけど、ルイスの有無を言わせぬ眼力によって黙らされてしまった。
俺、そんなに鈍かったか? いや、この歳になるまでミュリアの気持ちに気付かなかったわけだし、鈍いは鈍いだろうけど……。
「だから、ほら。変なところでぶーたれてないで、早くミュリアのところに行ってあげなよ!」
「……ありがとう、ルイス。行ってくるよ」
ルイスに見送られ、俺が向かう先は王宮の裏手にある王族の私的な空間……色とりどりの花が咲いた、花畑だ。
ミュリアが、諸々の報酬を直接受け取れない代わりにと要求したものの一つが、今日一日ここを俺とミュリアの自由に使っていいっていう権利なんだよな。
「ミュリア」
「ロロン……終わった?」
「ああ、無事に俺も伯爵位を貰えたよ。一代限りの名誉称号だけどな」
いくら莫大な戦果を挙げたとはいえ、いきなり世襲制の正式な爵位は貰えない。
俺にとってはそれで十分だったから、そこに文句はないんだけど。
それはミュリアにとっても同じだったようで、嬉しそうに微笑んだ。
「えへへ……ロロン、やっと……ここまで来れたね」
「ああ……そうだな」
思い出されるのは、俺が前世の記憶を取り戻した日。ミュリアの力で、一度死にかけた日のことだ。
今まさに自分の命が潰えかかってたのに、そんなこと全く気にもならなくて、ただミュリアの悲しげな瞳だけを鮮明に覚えている。
あんな目を、もうこれ以上させたくない。
幸せな笑顔を、浮かべられるようにしてあげたいって、そう思った。
あれからずっと、鍛えて、強くなって、ミュリアに危険を及ぼす悪魔を倒しまくって……その間もずっと、ミュリアの傍にいて。
ただただ、守ってあげたいだけの存在だったミュリアは、気付けば俺を守ってくれるくらい強くなって。
幸せに生きてくれればそれで十分だって思っていたはずなのに、いつしか俺自身の手で幸せにしてあげたいと思うようになっていた。
これから先も、ずっと。
「ミュリア」
だから俺は、ミュリアの前に立って、真っ直ぐにその瞳を見つめる。
ここに来るまで、どんな言葉をかけようか色々と迷っていたけど……何を言っても、蛇足にしかならない気がするから。
だからもう、思ったままの一言を、素直に口にした。
「好きだ。結婚してくれ」
「うん……喜んで」
これ以上ないってくらい、幸せそうな笑顔を浮かべたミュリアが、俺の胸に飛び込んできて──
その体を離すまいとするように、俺もミュリアの小さな体を力いっぱい抱き締めるのだった。




