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22 探求者

 あれこれ話している間に、サナス山の麓に到着した。

 足元を観察すると、確かにゴブリンと思われる小さい足跡が無数に残っている。

 辺りには隠れられるような木々や茂みもない。

 当のゴブリン達がいるとすれば、洞窟の中か、どこかへ出かけているか、何方いずれかだろう。

 麓を沿って歩いていると、少し先に洞窟が複数見えた。

 

「そろそろカチ合うぞ、武器を構えておけ」

 

 僕が言うと、コサギは木刀を取り出し、アリーヤはオカリナを手に取った。


「今のうちに〝演奏バフ〟しておくよ。行進速度を上げる〝鼠のマーチ〟」


 オカリナの優しい音色で、軽快な曲を奏でるアリーヤ。

 音楽を聴いていると、心なしか足が軽くなる感覚がある。

 これが〝演奏バフ〟の効果か。

 

 2つほど横穴を通り過ぎたところで、洞窟に入っていくゴブリンの後姿を見かける。

 居た。

 いつもの貧相な普通のゴブリンだ。

 僕たちは、音を立てないようにゆっくり忍び寄っていく。

 薄暗い洞窟の中を除くと、17匹ほどのゴブリンの群れが、食事をしていた。

 動物の死肉と、生野菜をむしゃむしゃ食べている。

 

「サギに任せて?」


 コサギはそう言って、群れに近づいて行った。

 

「コサギが先手を打ったら、僕たちも一気に切り込むぞ」

「わかった、援護は俺に任せてくれ」


 援護?

 まぁいいや。コサギに続いて摺り足で接近していく。

 

「やあ! 君たち、ここで何しているの?」


 コサギはゴブリンに向かって冒険証のバッジを見せながら、まるで職務質問する警官の様に話しかけている。

 ゴブリン達は全員が食事を止め、コサギの前で正座をして、何か話し始める。

 

 あれ? 

 

 僕ら、ゴブリン退治に来たんよな?

 

『ごぎゃ! ごご、ぎゃっごべべ』


「ははぁーん、なるほど。それで?」


『ぎゃごご、ぶべぶっ! がぶべれぎゃ?』


「まぁ、そうだね」


『ごぎゃごぎゃ、ぎゃぶな!』


「わかった。サギに任せなさい!」


「コサギ、何が一体どうなってんだ?」

「まさかゴブリンと会話を⁉ コサギってホントにゴブリンだったのか……?」


 目の前の完全服従モードのゴブリン達は、正座をしたまま思慕しぼの念が籠った眼差しでコサギを見ている。

 とてもじゃないが、一方的に成敗できるような雰囲気ではなかった。


「このゴブリン達はね、元々はここから更に南東の、ブレイズフィール地方の湿地帯に住んでたみたい」

「それで……?」

「その湿地帯に、冒険者のゾンビが出るようになったんだって。死んでもゴブリンを狩る恐ろしい連中だってさ。この子たち、仲間を沢山殺されて、このサナス山まで必死に逃げてきたんだって」

「冒険者のゾンビ⁉ 〝シーカー〟が出たんだ! その湿地帯って、ここからすぐ近くだよ」


 アリーヤが興奮気味に反応している。


「で、お前さっき『サギに任せなさい』って言ってたけど?」

「その〝シーカー〟を倒してくれって頼まれたから、任せろって言っただけだよ!」

「おいぃー!! 依頼はどうすんだよ! 僕たちは、このゴブリンを倒す為に来たんだぞ?」

「シーカーを倒して、この子達を元の住処に戻してあげれば一石二鳥じゃない。パパ、頭使ってよ」

「んなぁ……」


 かくして、僕たちの目的は〝ゴブリン退治〟から〝シーカー退治〟へ変更される事と相成った。

 

 ◇◇◇

 

 ゴブリンに道案内されながら、僕たちは湿地帯を目指して歩いている。

 

 山地を過ぎたあたりで景色は再び緑色になった。

 視界の端から端まで続いていく落葉樹の森林が、湿地帯の入り口になっていた。

 近づくにつれて足許あしもとはぬかるみ、なんだか湿気も高くなったように感じる。

 

「この湿地帯がブレイズフィール地方の〝入口〟だよ。ここを抜けると有名なダンジョンとか、希少なモンスターの生息地があるんだ」


 ゴブリンの言葉は通訳が必要なので、シノク王国民のアリーヤに観光案内をしてもらっている。

 沼地を歩きながら、アリーヤの話を聞く。

 

「奥に行けば行くほど強いモンスターと遭遇する確率が増えるから、冒険者の人気スポットでもあるんだぜ」

「奥の方もこんな湿地帯なのか? 中々疲れるぞ、ここを歩くのは」


 すっかり湿原に入り込んだ僕たちは、水気を多く含んだ泥土の上を歩き続けている。

 所々に底なし沼があって、気味の悪い植物も生えている。

 前の世界で見るような沼地とは、様相の違う不気味さが広がっていた。

 

「いやいや、入口だけだよ。湿地帯を抜けると荒野が広がってる。俺も、行ったことはないから聞いた話しか知らないんだけどさ。白いドレイクが居たとか、千年前の〝魔王の成れの果て〟が住んでる山があるとか。死神が彷徨うダンジョンがあるとか。リヴィエールっていう悪い魔女の話も聞くな。他にも色々。どれが本当の話か判らないけど……此処ここから先は未知の世界が広がってんだぜ? ワクワクするよな。俺さ、王国の中じゃ全然物足りなくてさ。もっと色んな世界を見たくて冒険者になったんだ」

「ワクワク……するかなぁ。ここの沼地、なんだか気味が悪いよ。臭いし汚いしさ」

「あっれぇ? タカキ、ビビってんの?」

「ビビってねえよ」

「パパは小心者だからね!」

「うっせ」

 

 暫く進んでいくと、道案内役のゴブリン達が騒ぎ始めた。

 様子を窺うと、彼らは底なし沼を指差して、ごぎゃごぎゃ言っている。

 近づいていくと、コポコポと緑色の水泡が浮かび、弾けている。

 

「なんか居るぞ!」


 僕は声を上げ、二人に注意を促す。

 やがて、沼からゆっくりと這い出てきたのは、話に聞く〝探求者シーカー〟だった。

 死後数カ月は経っていそうな腐敗の進行具合で、露出している部分はあちこち白骨化している。

 腐った革製の防具を着込み、錆びた剣、ひしゃげた小盾を装備していた。

 一人、二人と沼から現れる〝シーカー〟は、どんどん数を増やしていく。

 ゴブリン達はシーカーに恐怖し、散る様に方々へ消えていく。

 

「〝シーカー〟だ! 本当に出てきた! コサギ、タカキ! 俺の〝演奏バフ〟で攻撃力と移動速度を上げるぜ! 『〝白猫しろねこのワルツ〟』」


 アリーヤの曲を聴き始めた瞬間、僕の身体は軽くなり、力もみなぎるようだった。

 

「パパ! サギが一番槍だからねっ!」


 単独で突っ込んでいくコサギが、木刀でシーカーに斬りかかる。

 シーカーは脆いゾンビであるが故に、木刀での殴打は意外にも効果があるようだ。

 一匹のシーカーは首が落ち、倒れる。

 

「アリーヤ! 敵の数が多い、俺たちも続くぞ!」

「わかった、俺は援護する!」

 

 沼地を走ってコサギの傍に向かう。

 僕はツィネルを構え、魔法を放とうとして杖に魔力を送る。

 杖先から電撃が漏れると、コサギが叫んだ。

 

「パパ! 電撃はダメ! 敵も地形も水気が多すぎるよ、サギたちまで感電しちゃう!」

「あっ、そうか……それなら!」


 無詠唱で火球を飛ばし、シーカーに直撃させる。

 だが、シーカーは仰け反ったり転ぶ程度で、ダメージが入ってる様子は無かった。

 徐々に群れを形成し始めるシーカーに焦りを覚える。

 魔法が利かない。

 いや、風ならどうだ?

 杖をシーカーに向けて、呪文を唱える。

 

「『来来鎌風かまいたち』!!」


 無数のカマイタチが敵を刻むが、一番前で戦っているコサギにまで当たりそうだった。

 

「うわぁっ! パパ、その魔法は危ないよ!」

「悪い! 今のマジで危なかった」

「アリーヤ! 何してるの? 倒すの手伝ってよ!」

「いや、俺は二人の援護をするよ、後衛だから」

「はあ⁉ あんた短剣持ってるじゃん! 一緒に戦ってよ!」

「だから、俺は援護を――」


 二人の口論が始まると同時に、沼から大きな影が浮かび上がって来ていた。

 それは、20人ほどに増えたシーカーを薙ぎ払いながら姿を現した。

 1BOXカーより大きい黒光りする甲殻類だった。

 

 巨大なカニか……? 

 

 沢ガニをそっくりそのまま巨大化させたような見た目だ。

 大きさ以外は一見、無害そうな外見をしている。

 

 泥水を滴らせながら、巨体に似合わない素早さで沼から這い出てきた。

 2mほどある巨大な爪を振り回し、シーカーを粉砕しながら、僕たちの眼前に迫って来ていた。

 

 そいつは、凶悪な爪を振り上げて襲い掛かってくる。

 

「気を付けろ! 来るぞ!!」


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