薄情と言うなかれ。離れていても家族
大変お久しぶりです。レンさんは帰らないのかと聞かれましたので。
「帰りたいの?」
いや、突然なにを言いだすんですか魔王さま。
どうも。人妻になったレンさんです。
あちこち旅をして、魔王領に落ち着いて数年。合流した元宰相さま達と一緒に魔王城に就職した私たちは、なぜか魔王さまの側近として働いてる。
魔王さまとは前世が女子高生同士、昔の話で盛り上がって将軍さまを嫉妬させたのも記憶に新しい。てか毎回ヤキモチ妬く将軍さまめんどー。
その魔王さまの助言で、向こうの姉さま達に手紙を出したのは何年前のことだったか。無事届いたと思いたい。
そんなこんなでさらに数年がたってるけど、私たちは一向に歳をとらない。違うな、老いないと言った方が正しいか。魔力すげー。
すぅちゃんとの新婚さん生活も、私の妊娠で終わりを告げ、今は産まれるまでのマタニティライフを楽しんでるところ。
魔族とは違う妊娠システムなものだから(魔族はお腹が大きくならずにストンと産まれて、一瞬で子供になるそうな)魔王さま達も、てか魔王さま達の方が一喜一憂が激しい。
そんな穏やかな日に、私がポツンと姉さまにも赤ちゃん見せたいなんて呟いたら、魔王さまからまさかの返答があったのさ。
「え、マジで何言っちゃってますのん、魔王さま」
「え、帰りたいの? って聞いたよ?」
「いや、だから」
「うん。だからできなくはないんだよ? そもそも人ができるのに、魔王ができないなんてことないさー」
いや、そらそうだろうとも。しかしだな、物事には不可能なこともあるだろうあるよねないの? え、マジ魔王さま最強。
「ひなは戻りたいの?」
「えー、いや戻れないって言われたからそれで納得するしかなかったし、気持ちの整理もつけちゃったから、今更というか。それに魔力のない向こうに琥珀は連れていけないし」
「まぁ、琥珀に関してはひなとの契約切れたら戻ってくるようにこっちと繋いどくしかないけど。そんなあっけらかんと拒否るもん?」
いやいや、そんなあっけらかんとなるまではグチグチグダグダグズグズあったのですよ。
でも、戻れないならと、全ての気持ちを手紙に込めた。私のための決別とみんなのための願い。幸せになってほしいと、伝わったと思いたい。
だから、今更なのですよ。
「せめてすぅちゃんと子供の顔見せたいな、と思っただけで」
「あ、そゆこと」
そゆことです。
そして臨月。出産。
いや、マジ痛かったね!! すぅちゃんいてくれなかったらパニックだったよ!
てか、私より魔王さまがパニックになってて、逆に冷静になれたけども。
長いような長くないような、そんな痛みと汗と涙の中で。
私たちの元に産まれてきてくれた生命は元気な産声を上げた。
育てられるかな。不安を零した私に、悩んで迷って親になろうとすぅちゃんが言ってくれたから。
愛情をたくさん注いで、言葉でも態度でも示そう。
私たちはあなたを愛してるよ。ずっとずっと、愛してる。
ある日、ハリェス家にお手紙が届けられた。
差出人を見た人々が集まって開封した中には、短い手紙と見た事のない肖像画(写真だと思われる)が1枚。
異世界に拐われたハリェス家のご令嬢が、少し大人になった姿で写ったそれに、家族は安堵し涙し喜び。
隣にいる夫と腕に抱かれた赤子に、驚き叫び言祝ぎ、あるひとりだけ絶望したという。
幸せであれ。
これで今度こそ終わりです(はず)
ありがとうございました!