カウントダウン に
お待たせしました。断水は一日で終わりました。お店以外は通常に戻りつつあります。
会場は色とりどりの花とドレスに溢れていた。
装飾過多なホールにいる、ひと人ヒト! 酔うレベルで詰め込みすぎである。そこにアルコールと香水の匂いが混ざって、まぁカオス。
私のエスコートは騎士団長夫人であるエナさま。旦那さまは国王陛下のお守り、いや警護があるので、パーティーにはいても貴族として参加してはいないのだ。
今日はステルスも認識阻害も使用不可と言われてる。認識阻害はともかく、ステルスは自動だから止めようがないんだけど。まぁ、努力はするよ、多分。
宰相閣下夫妻に続き入場すると、ざわめきが騒音レベルで広がった。うるさいわね、と宰相夫人のシーラさまが呟いて、人が多すぎると、宰相閣下が窓を開けてバルコニーを開放するように指示をだした。
バルコニーは段差なしで庭につながってるから、階級が下の貴族はそのまま押し出されて行った。空気も入れ替えできて快適。
いくら他国の招待客に軒並み断られたからって、国内の貴族全部に招集かけるなんてバカじゃないのか。
「愚かでいらっしゃるのは皆ご存知よ」とシーラさまは楚々と笑った。誰とは言わないお約束。
宰相閣下夫妻と一緒なので、挨拶にくる人も限られる。がしかし、高位貴族が私を紹介しろと鬱陶しいので、エナさまの後ろに隠れてみた。
紹介してなんの得があるのさ、私にはないわ。腹黒そうな親の後ろで、ニヤニヤしてるだけの男のどこに価値があるのかわかんない。
「ハリェス嬢ー?」
「紹介されたくないです」
「あー、遠慮のない視線は不愉快よねー」
「値踏みするほど偉いんですか、あの人?」
「親はそれなりにー?」
キモいと言わないだけマシだと思ってくれ。キモいけど。
「そうよね。ハリェス嬢の美しさだけで近寄ってくるのはわからなくもないけれど、ご自分は魅力をハリェス嬢に訴えることができるのかしら」
シーラさまの視線は、ニヤニヤ男を上から下までスキャンすると、首を傾げた。魅力はどこ? と今にも問いかけそうだ。
「し、失礼な! 貴族でもない女に手を差し伸べてやろうとしてやったのに!」
求めてないし頼んでないわ。どんだけ上から目線なんだよ無能。バカにされたのに気づいても、ここは流さないといけないとこだろうに。
周りみんな見てるよ? 女性を蔑む発言は時と場合を考えないと不利になるよ。
「貴族ではないが、彼女は私の部下としての出席だ。なにか貴殿からの助けがいる状況だろうか」
静かに、宰相閣下の声が落ちる。ニヤニヤ親子の顔がさぁっと青ざめた。遅いわ。私の周りを見ようよ、この国のトップにいる方々だよ? そこにいる私がただの庶民なわけないじゃんか。
いや、この国ではただの庶民だけどね。元貴族なだけで。
似たようなことを考えていたと思われる、何人かのお貴族さま方が、顔色をなくして数歩下がった。シンクロ率高いなー。
「ハリェス嬢に声をかけたくば、わたくし達を納得させてくださいな」
シーラさまの鶴の一声に、エナさまが艶やかに微笑んだ。
……高笑いはしちゃダメだと思うんだ、うん。
ご心配いただきありがとうございます。




