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第一話   再会

第一話 「再会」


 西暦2100世紀、人類は終わることのない宇宙戦争(第十七次宇宙大戦)を六十年ほどに渡り適当に続けていた。長きに渡る戦いの末に戦線は星系規模にまで広がり、誰もがこの大戦の終結を諦めていた。これはそんな時期に現れた二人の若きパイロットの物語である。


 第一衛星「タルミ」のカスミガオ基地の中はとある噂で持ち切りであった。なんでも軍部はカーベ連合の精鋭兵を集めた新設部隊で戦況を打開しようというのだ。そして、その精鋭部隊がカスミガオ基地で集合するというのだ。


 カスミガオ基地で人気スポットの「滑走路の見える露天風呂」でも当然のようにこの話題が出てくるのだ。

「いや~昨日が集合の日だそうで、明日には全員揃いそうですかなぁ」

 五十代の少将のおじさんが心配そうに尋ねた。もちろん例の部隊のことである。

「まぁ、もう七割ほど到着済みだからな、明日には全員集まるだろう」

 憂鬱そうに答えたのは六十代の中将のおじさんである。

「だったらいいんですけどね。どうですかもう一杯」

 と言って小将は中将にビン入りの酒を進める。

「いやぁもう酒はうんざりだ。週一回しか見たくない」

「医者にでも止められましたかな」

 すると中将は鼻息を荒くして語り始める。

「実はな、先日私の退役記念のパーティーだと言われて軍司令部に呼び出されたんだがね、嫌というほど酒をのまされて、そのままどさくさまぎれに今回の精鋭部隊の隊長をやる書類にサインさせられたってわけだね」

 中将は興奮して目から火花を出しながら、ビン入りの酒を奪って飲み干した。

「それで退役できずってわけですか、でもよかったじゃないですか。今回の精鋭部隊には美少女エースパイロットがいるって噂ですな」

「美少女か、美少女はいかんぞ。あれは私がまだ若いころだったかな……」

 中将がハロゲン扇風機を美少女に買わされた時の話が始まったので、少将は風呂場からうんざりして引き上げた。


 脱衣所では全裸の中年紳士が鏡の前でポーズをとっていた。少将は見なかったことにして体重計に座ろうとしたのだが、中年紳士がこちらへ迫ってくると

「おお、初めまして基地長殿、わたくしはこの度新設部隊に配属されましたイヌワン・ケイビ大佐と申します。どうぞよろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

 なんだか一緒に居たくない暑苦しそうなタイプの中年紳士だったため、小将は服を着るのも忘れて速やかに脱衣所から出て行ってしまった。


 その後、ラウンジの自販機でヤギ牛乳を買おうとした時にサイフを忘れたことに気が付いた。

「しまったな、サイフを脱衣所に忘れたようだ」

 その時であった、女性の悲鳴が聞こえたのは。

「キャー」

 どうやら声はすぐ近くのようだ。基地内で女性兵士に危険が迫っているとあっては、少将はいてもたってもいられなくなったのだ。

「何事かぁ、大丈夫かね」

「きゃー、なんかものすごいヘンタイよ」

 と十代のメガネをかけたオペレーター顔の女性兵士が悲鳴をあげる。

「変態だと、さては……」

 少将の脳裏には、さっき遭遇した全裸紳士の姿がよぎった。

「なんてことだ、あの変態め。ついに犯罪に走ったのか、こうしてはおれん」


 少将は走った。基地内に緊急警報を出すつもりである。その途中でチャラ男兵士に写メを撮られた上にパートのおばちゃんには変な目で見られた。小将は走りながらではあるが、この基地の規律の乱れ方に少しあきれた。上官がこんなにも焦った顔で走っているというのに、部下はそれを気にとめるどころか、どこか他人行儀ですらあるのだから。


 放送室まであと少しというところであった。少将は最後のコーナーを猛スピードで曲がったところで何かと正面衝突をした。

「なんだね、気をつけたまえ。ここは基地内だぞ」

 少将は焦りを怒りに変えてつい怒鳴ってしまった。これも、彼の部下を変態から守りたいという思いのせいだろう。そして、理不尽に怒鳴られたのはまだ十代も半ばの美少女女性兵士である。しかも、ブロンドの髪と蒼く透き通った瞳を持つ、美少女の中の美少女であった。

 次の瞬間二人の目が合う。

「すいまきゃぁぁぁん」

 と謝罪と悲鳴を同時に済ませると、彼女はまるで変態でも見たかのような顔をして逃げ去っていった。


「まったくこれだから最近の若い娘は……」

 などと不満を漏らしながら少将は放送室へと入っていった。

「少将殿、今日はハロウィンの日でしたかな」

 と若い兵士に尋ねられた。どうやら若い兵士達は館内のモニター放送でカラオケ大会をしているようだ。

「何を寝ぼけたことを言っている、緊急事態だ。マイクとカメラを貸せ」

 マイクとカメラを戸惑う兵士達から奪うと少将は(全裸の)自分を館内の緊急通信に写した。

「緊急連絡だ。現在、基地内に変態がいるようだ。新設精鋭部隊は今すぐ放送室まで駆けつけるように」

 少将は精鋭部隊の実力を試すいい機会だと考えたのだ。


 それから十分ほどたっただろうか、放送室にはおよそ五十名の隊員が集まった。その中には随分と見覚えのある顔ぶれが揃っていた。中将を始め、さっきすれ違ったチャラ男やパートのおばちゃん、コーナーでぶつかった女性兵士とオペレーター顔の女性兵士、そして、例の中年紳士(服は着ている)の姿を見つけた。

「諸君、我が基地は緊急事態に陥った」

 緊急警報が鳴ったのは、少将がそう宣言した瞬間であった。

「敵襲だぁ」

「マリーネア帝国の戦艦を確認」

 と哨戒からの連絡が放送室の無線機に入ってきた。

「変態の次は、敵襲かぁ。きっと敵は変態だぞ。全員戦闘配置に着け」

 と少将は怒鳴る。精鋭部隊の隊員達はいまいち状況が理解出来なかったが、とりあえず敵が老化の始まった少将の中高年の脳を揺さぶってどうにかなったのだろう、と解釈することで無理やり納得した。ちなみにこれが新設精鋭部隊「ブリの翼」の初出撃であった。


 新設精鋭部隊「ブリの翼」が初出撃をした日は、十六歳の女性兵士ハーブ・ゴゼアにとっても少し不思議なことが起こる日であった。朝はセットしたはずの目覚まし時計が鳴らず、午前中は乗った電車がなぜか反対方向へ進んで行った。それから、午後はなぜか基地の少将が全裸で出撃命令を出していた。そして、これからも何か不思議なことが起こりそうだと、彼女は根拠も無く考えていた。

 出撃命令が出たのでハーブはすぐにマシン格納デッキへと向かう。その途中でトイレに入り、洗面台の鏡に自らの姿を映す。長いブロンドの髪を後ろへ束ねると白いリボンで結ぶ。これは出撃の際の必勝祈願の儀式のようなものである。おまじないが趣味なこともあって、士官学校時代から出撃前には毘沙門天に祈ってみたり黒い烏龍茶を息を止めて飲んでみたりと試してきたが、最終的に今の形にたどりついた。


 マシン格納デッキではあわただしく人々が蠢いていた。普段働かない分、戦闘準備では働いているように見せたいという兵士達の意気込みの現れである。ハーブは人の波をすり抜けて一機の人型の巨大ロボの前へと駆けた。

 この時代の戦争は宇宙戦艦とこの人型の巨大ロボで行われるのだ。全長はおよそ二十メートルほどで、材質はすごく硬くて軽い金属だ。もちろん大気圏内でも飛行可能である。

 ハーブはこの巨大ロボを見て驚いた。巨大ロボ自体は士官学校時代から操縦してはいたが、量産機以外の機体を見たのは初めてであった。それは、まぶしいほどの純白のボディに金のラインが入り、まさに戦う芸術品であった。


「それ、あなたの機体よ」

 ハーブは振り返った。声をかけたのは、どこかわざとらしい白衣を着た女性であった。

「私のっ!?あなたはっ!?なんでっ!?」

 ハーブの頭の中には一瞬にして色々な疑問が駆け巡った。

「なんでってあなたエースじゃない。あと、私はメカニック担当のアメリー・シュバルツティーガよ。ヨロシクね」

「あっどうも、ハーブ・ゴゼア少尉です。よろしくです」

「それにしてもなんかすごそうな機体ですね。なんかこう逆境とか覆しちゃいそうな感じ。写メ撮っておかなきゃっ」

 とハーブは一人で盛り上がっていた。

 そして、二人が悠長に雑談を交わしているうちに機体の準備が終わったらしい。

「それじゃあ、わたくし戦ってきま~す」

 とハーブは搭乗口へと踊りながら駆けだした。


 機内は新機体特有の揮発性有機化合物の臭いが漂っていた。

「うわっクサッ」

 ハーブは少しがっかりしながらも認証カードをセットしてシステムを起動する。モニターに写し出されたのは「Forse Of Reverse Air」のロゴである。

「……そっか、じゃあキミはシロって名前だね。よし、それじゃあ発進っ」

 シロは壁に一度衝突した後、射出カタパルトから飛び出した。

 基地を飛び出すと青空が広がっていた。モニターで眼下を確認すれば一面の大草原の中に浮かぶコンクリート外壁の要塞が見えた。


 前方700メートルほど先では既に戦闘が始まっていた。確認できたのは敵の戦艦と敵らしき機体が三機、交戦中の味方の機体が三機、そして、地面の上で煙を吹かせている味方の機体が六機という戦況である。どうやら、現在出撃中の味方は全て基地の守備隊のようだ。青い隊長専用機が煙を上げて転がっているところを見ると、味方の残り三機が撃墜されてしまうのも時間の問題である。


 ハーブが機体を加速させようとした時、後方からシロを一気に追い抜いていく機影が見えた。それは、既に撃墜されている隊長専用機と同機種のようで色はワインカラー。その機体はシロの前方へ出ると速度を合わせてくる。

「やはり、新機種の操縦は慣れませんかな」

 前方の機体からの通信である。声から推測すると相手は中年の紳士のようである。

「わたくしは新設部隊「ブリの翼」の戦闘隊長に任命されましたイヌワン・ケイビ大佐と申します。地元では紫芋の騎士などと呼ばれておりますが、何とでも呼んでくだされ」

「あっどうも、私はハーブ・ゴゼア少尉です。趣味はおまじないです」

「存じておりますぞ。なんでも初出撃で八機も撃墜されたそうではないですか。それではスーパールーキーの実力を拝見させていただきますぞぉ」

 大佐の機体は急加速して間近に迫った戦場目掛けて天を駆ける。この時味方の三機も撃墜されて煙を吹いて転がっていた。

「わたくしはピンクと緑の機体の相手をしましょう、ハーブ少尉は黒い機体の相手をしていただきたい」

「あっはい、あれですね」


 大佐の機体が二機の敵をおびき出すようにして飛んでいく。そして、シロの前には一機の黒い機体が現れた。見たところ量産機には見えない。しかし、帝国軍特有の無駄に派手な装飾もついていないので、ハーブは新型機であると判断した。そして、数分の間に三倍もの兵数の敵を倒してしまうのだからその実力は確かだろう。


 ハーブがそんなことを考えていると眼前の敵からの通信が入る。

「やあやあ、我こそは帝国軍砂漠のパンケーキ隊の布引乙音中尉である。いざ尋常に勝負致せ」

 声の主はハーブと同年代の少女のようだ。そして、ハーブもそれに応じて名乗りを上げる。

「我こそはカーベ連合軍ブリの翼隊のハーブ・ゴゼア少尉である。その勝負受けて立つ

「えっ」

 ハーブは勇ましく名乗り上げたのだが、彼女は未だにこのシロの武装について何も知らなかった。慌てて取扱い説明書のページをめくる。この時代の取扱い説明書は愚か者でも読めるように大半がイラストである。

「えっと、えっと武装ってこれだよね」

 取扱い説明書によればシロの武装は中口径ビームライフル一門に内臓ビーム砲一門、ダガーナイフ二本、安全シールド一枚である。

「ゴゼアさん、ゴゼアさんなのっ!?」

 ハーブは取扱い説明書に夢中で聞こえて無かったのだが、通信からはハーブを呼ぶ声が届いていた。目の前の機体にいる布引乙音中尉からである。

「聞こえてる……ゴゼアさん」

「えっなんですか」

「私よ。布引乙音よっゴゼアさん」

「えっ誰ですか」

「本当に分からないのっ、布引乙音よ」

 通信の相手は今にも泣きそうな声である。

「いや~ちょっと分からないですね。もしかして、私たちってネットオセロとかで会っちゃってましたか?」

 対照的にハーブの声は気楽なものである。

「そんなはずは無い。どうして私のことが分からないのっ」

 乙音と名乗る敵は叫んだ。通信機越しにもその悲しさが伝わるほどの悲痛な叫びである。

「うわぁ……とりあえずバトルしちゃいましょうよ」

「えっでも……そんな」

 問答無用でシロはビームライフルの引き金を引いた。しかし、その瞬間には敵の黒い機体は回避軌道をとっている。

「すいません。なんかまだこの機体使い慣れてなくて」

「やめてっゴゼアさん、私よ」

 使い慣れない機体でビームライフルを乱射するハーブと戸惑いながらも紙一重でそれをかわしていく乙音、二つの機影は青空の下で交差し、ぶつかり会う。

「えっちょっと……」

「本当にすいません。ぶつけてしまいましたぁ」

 ハーブが機体を衝突させてしまった拍子に乙音の機体はバランスを崩し、弾き飛ばされる。帝国軍の機体は重量が軽いのだ。なぜなら装甲が薄いからである。


「そうだ、これだよ」

 ハーブは内臓ビーム砲の存在を思い出した。このシロは、機体のビーム腹部にビーム砲が内臓されているのだ。取扱い説明書の通りにレバーを引くと、シロの腹部の装甲が開き銀に輝く砲口が現れる。

「ちょっと、そんな至近距離からそんなの撃ったら危ないじゃない」

 乙音の慌てた声が通信から飛び込む。

「えっそうなんですか。それより、なんか私の機体光ってません」

 シロの腹部の砲口が光っているのはビームを発射するためにエネルギーをため込んでいるからである。

「それじゃぁ発射ぁ」

 とハーブがレバーのボタンを押そうとした時である。同空域内の全ての機体に「ホタルの光」の音楽が流れた。

「あっもうすぐ定時だね」

「そうね、今日のところは一度引き上げるわ。でも……私諦めないから」

二人は定時が近いので一度退却した。二人だけではない、同空域内の全ての機体が退却したのだ。ハーブは基地へ帰還する間、乙音中尉の発言が心に引っかかって仕方がなかった。しかし、ハーブには心当たりが無かった。そんなことを考えているとシロは滑走路をそれて庭園の池に突っ込んだ。

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