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第十八章 封印された記憶

五百年前に終わったはずの戦いが、再び始まろうとしていた。


封印された過去を思い出したカエル。

そして、彼の中に眠っていた第五の王座の力。


果たしてカエルは、かつて自分自身が選んだ運命と向き合うことができるのか。


五つの王座が集い、古代から続く戦いの幕が再び上がる。

暗闇だった。


何も見えない。


何も聞こえない。


ただ、遠くから誰かの声だけが聞こえていた。


「……カエル。」


誰かが自分の名前を呼んでいる。


しかし、その声が誰のものなのか分からない。


「カエル……目を覚まして。」


ゆっくりと目を開く。


そこには――


見たことのない場所が広がっていた。


空は赤く染まり、大地には巨大な亀裂が走っている。


遠くには燃え上がる都市。


そして、その中央には巨大な黒い塔が立っていた。


カエルは周囲を見回す。


「ここは……どこだ?」


自分の声が妙に遠く聞こえる。


そのとき――


背後から足音がした。


カエルが振り返る。


そこに立っていたのは、一人の青年だった。


銀色の髪。


黒い服。


そして、カエルと同じ金色の紋章が右手に刻まれている。


カエルは警戒して剣を構えた。


「お前は誰だ?」


青年は答えなかった。


ただ静かにカエルを見つめている。


やがて、青年は口を開いた。


「……やっとここまで来たか。」


カエルの眉が動く。


「どういう意味だ?」


「お前は何も覚えていない。」


青年はゆっくりと歩き始めた。


「自分がなぜ第五の王座に選ばれたのか。」


「なぜお前だけが複数の属性を扱えるのか。」


「そして――」


青年が振り返る。


「なぜ、お前が一度死んでいるのか。」


カエルの表情が固まった。


「……死んでいる?」


「そうだ。」


青年は淡々と答える。


「今のお前は、本来なら存在してはいけない。」


突然、頭の中に激しい痛みが走った。


「ぐっ……!」


カエルは頭を押さえる。


大量の映像が脳裏を駆け巡った。


古代の戦場。


四人の戦士。


巨大な黒い怪物。


そして――


その前に立つ、一人の少年。


少年はカエルと同じ剣を持っていた。


「これは……僕?」


青年は静かに答える。


「そうだ。」


「かつて、お前は第五の王座を継承した。」


「そして四つの王座と共に、あの存在と戦った。」


カエルは信じられなかった。


「そんな記憶……僕にはない。」


「当然だ。」


青年は手を伸ばした。


「お前自身が封印したのだから。」


その瞬間――


空間全体が大きく揺れた。


ドクン。


遠くの黒い塔が脈打つ。


青年の表情が変わった。


「時間がない。」


「目覚めが始まった。」


カエルは剣を握り直す。


「どうすればいい?」


青年は答えた。


「戻れ。」


「そして、四つの王座を集めろ。」


「レオンハルト。」


「アリア。」


「セレナ。」


「エリオス。」


四人の名前が告げられるたびに、カエルの頭の中に不思議な感覚が生まれる。


まるで――


ずっと昔から知っていたような感覚。


青年は最後にカエルを見つめた。


「五つの王座が揃ったとき、お前はすべてを思い出す。」


「そして、その時に選ばなければならない。」


カエルは尋ねる。


「何を?」


青年は悲しそうに笑った。


「世界を救うか。」


「それとも――」


黒い塔を見上げる。


「世界そのものを終わらせるか。」


カエルの目が見開かれた。


その瞬間、空間が崩れ始めた。


「待て!」


カエルが青年へ手を伸ばす。


しかし、青年の身体は光へ変わっていく。


最後に青年は言った。


「カエル……。」


「次に会う時、お前はすべてを知ることになる。」


「その時こそ――」


「本当の戦いが始まる。」


視界が白く染まった。



---


「カエル!」


突然、現実へ引き戻された。


カエルは大きく息を吸い込んだ。


目の前にはアリアがいる。


その隣にはレオンハルトとエリオス。


セレナも少し離れた場所に立っている。


カエルは周囲を見回した。


「……ここは?」


「学院の塔の上よ。」


アリアが答える。


「突然動かなくなったから、心配したの。」


カエルは自分の右手を見る。


第五の紋章が、まだ強く輝いていた。


レオンハルトが尋ねる。


「何を見た?」


カエルはしばらく黙っていた。


そして――


「僕は……以前にも、この世界で戦っていたらしい。」


四人の表情が変わった。


「そして、僕自身がその記憶を封印した。」


エリオスが静かに尋ねる。


「なぜ?」


カエルは首を横に振る。


「まだ分からない。」


その直後――


黒い塔から再び巨大な魔力が放たれた。


ゴォォォォン!!


王都全体が揺れる。


遠くから鐘の音が鳴り響く。


学院の教師たちが叫び始めた。


「全員、避難しろ!」


「王都の結界が破られるぞ!」


カエルは黒い塔を見つめた。


先ほどの夢の中で見たものと同じ。


あの塔。


あの怪物。


そして――


自分自身。


カエルはゆっくりと剣を抜いた。


「行こう。」


レオンハルトが笑う。


「どこへ?」


「黒い塔へ。」


カエルは真っ直ぐ前を見る。


「僕の過去があそこにある。」


「そして、あの塔の中には――」


金色の魔力が剣を包み込む。


「僕たちが倒さなければならない敵がいる。」


四人の継承者たちも、それぞれ武器を構えた。


五つの王座。


五人の継承者。


そして――


まだ誰も知らない、過去の真実。


カエルたちは黒い塔へ向かって走り出した。


しかし彼らは知らなかった。


塔の最深部で、すでに誰かが彼らを待っていることを。


そしてその人物が――


カエルの過去を知る、最後の生存者であることを。


王立学院の塔を出たカエルたちは、黒い塔へ向かって走っていた。


王都の街は、すでに混乱に包まれていた。


空には黒い霧が広がり、建物の間からは時々、巨大な魔力の波が吹き抜けていく。


そのたびに地面が震える。


「急いで!」


アリアが叫んだ。


カエルは前を見ながら走る。


しかし、頭の中には先ほど見た光景が残っていた。


古代の戦場。


四人の戦士。


第五の王座。


そして――自分自身。


「……僕は本当に、昔この世界で戦っていたのか?」


カエルが小さく呟く。


隣を走っていたエリオスが答えた。


「可能性は高いと思います。」


「どうして?」


「第五の王座について残されている記録は、ほとんどありません。」


エリオスは黒い塔を見上げる。


「ですが、古代文献には一つだけ共通して書かれていることがあります。」


「何?」


「第五の王座は、一度だけ世界から消えた。」


カエルの足が一瞬止まりそうになる。


「……消えた?」


「ああ。」


レオンハルトが続けた。


「そして、その時期と同じ頃に、古代文明が滅びた。」


カエルは黙り込んだ。


自分の過去と、古代文明の滅亡。


もし本当に関係があるのなら――


自分はいったい何者なのか。


その疑問が頭から離れなかった。


その時。


ドンッ!!


前方の道路が突然崩れた。


巨大な黒い腕が地面から突き出してくる。


「全員、止まれ!」


セレナが叫んだ。


黒い腕が振り下ろされる。


カエルは剣を抜いた。


「下がって!」


雷が全身を包む。


バチバチッ!


カエルは地面を蹴った。


「雷歩!」


一瞬で腕の前へ移動する。


剣に金色の魔力を集中させる。


「はあああっ!」


ズガァァン!!


黒い腕に斬撃が入った。


しかし――


傷は浅かった。


カエルは驚く。


「硬い……!」


レオンハルトが前へ出る。


「なら、俺の番だ!」


炎の剣を振り抜く。


「紅蓮斬!」


巨大な炎が黒い腕を包み込む。


ゴォォォォッ!!


続いてセレナが魔力を解放する。


紫色の雷が空から降り注ぐ。


バリバリバリッ!!


そしてエリオスが光の魔法を放つ。


四つの力が重なり、黒い腕を押し返した。


「今だ!」


カエルが叫ぶ。


五つ目の金色の光が剣へ集まる。


「これで……!」


カエルが斬り下ろした。


ドォォォォン!!


黒い腕が崩れ落ちる。


しかし――


その瞬間。


黒い霧の中から声が聞こえた。


「……第五の王座。」


全員が振り返る。


霧の向こうに、一人の人影が立っていた。


黒いローブ。


長い銀髪。


顔の半分を黒い仮面で覆っている。


その人物はゆっくりと歩いてくる。


カエルは剣を構えた。


「お前は誰だ?」


男は答えない。


代わりに、カエルの右手に刻まれた紋章を見つめた。


「やはり……。」


「その紋章が戻ってきたか。」


カエルの表情が険しくなる。


「僕を知っているのか?」


男は静かに笑った。


「知っている。」


「いや――」


「正確には、お前が生まれる前から知っている。」


レオンハルトが炎の剣を構える。


「何を言っている?」


男はレオンハルトを見る。


「紅蓮の王座。」


「お前もまだ何も知らないようだな。」


「何だと?」


レオンハルトが一歩踏み出す。


しかし男は手を上げただけだった。


ズンッ!


強烈な魔力が周囲を押し潰す。


レオンハルトが地面へ片膝をついた。


「ぐっ……!」


アリアもセレナも動けない。


カエルだけが、かろうじて立っていた。


男は驚いた。


「……なるほど。」


「第五の王座が、お前を選んだ理由が分かった。」


カエルは歯を食いしばる。


「お前は……何者なんだ?」


男は仮面に手をかける。


ゆっくりと仮面を外した。


その顔を見た瞬間――


カエルの頭に激しい痛みが走った。


「うっ……!」


視界が歪む。


知らないはずの記憶が、一気に流れ込んでくる。


古代の城。


その城の中で笑う少年。


そして、その少年の隣に立っている――


目の前の男。


「……兄……さん?」


カエルの口から、無意識に言葉が漏れた。


男の表情が固まった。


「……今、何と言った?」


カエル自身も驚いていた。


なぜそんな言葉が出てきたのか分からない。


「僕は……」


再び頭の中に映像が流れる。


少年時代の自分。


男と一緒に剣を振っている。


二人で笑っている。


そして最後に――


燃え落ちる城。


泣き叫ぶ人々。


黒い怪物。


そして、自分の身体を貫く巨大な黒い剣。


カエルは膝をついた。


「ぐあああっ……!」


「カエル!」


アリアが駆け寄ろうとする。


しかし男が手を向ける。


「近づくな。」


「その記憶は、お前たちが触れていいものではない。」


エリオスが男を見る。


「あなたは……何者ですか?」


男は静かに答えた。


「俺の名はアベル。」


「かつて、第五の王座の継承者だった男だ。」


全員が息を呑んだ。


レオンハルトが驚く。


「第五の王座の……元継承者?」


アベルはカエルを見つめる。


「そして――」


「お前の兄だ。」


カエルの目が大きく開く。


「僕に……兄がいた?」


アベルは静かに頷いた。


「いた。」


「だが、俺たちは一度死んだ。」


カエルは震える声で尋ねる。


「一度……?」


アベルの視線が黒い塔へ向く。


「そうだ。」


「俺たちはあの塔の中で、世界を救うために戦った。」


「そして失敗した。」


黒い塔から、再び巨大な音が響く。


ドクン。


アベルの表情が変わる。


「もう時間がない。」


「封印が完全に壊れる。」


カエルは立ち上がる。


まだ頭痛は残っている。


それでも剣を握った。


「だったら……止める。」


アベルはカエルを見る。


「お前一人では無理だ。」


「だから、四つの王座を集める。」


アベルは初めて笑った。


「そうだ。」


「それが、かつて俺たちができなかったことだ。」


その瞬間――


黒い塔の頂上が大きく開いた。


巨大な黒い魔力が空へ噴き上がる。


王都全体が震える。


そして塔の奥から――


巨大な瞳が開いた。


アベルは静かに呟く。


「目覚めるぞ。」


カエルは黒い塔を見つめる。


その瞳と視線が重なった瞬間――


頭の中に、あの声が響いた。


『帰ってきたか……我が器よ。』


カエルの表情が凍る。


「……器?」


その言葉を聞いたアベルの顔から、初めて余裕が消えた。


「まさか……。」


「まだ、お前の中にいるのか……?」


カエルは自分の胸に手を当てる。


そこから――


微かな黒い光が漏れていた。


カエルの胸から漏れ出した黒い光は、少しずつ広がっていった。


まるで生き物のように身体の中を這い回り、金色の紋章を侵食しようとしている。


「カエル!」


アリアが叫ぶ。


しかし、アベルはすぐに彼女を止めた。


「触れるな!」


「今の状態で近づけば、あの力がお前にも移る!」


アリアは足を止めた。


「でも……!」


カエルは苦しみながらも立っていた。


「大丈夫……。」


「僕はまだ……僕だ。」


その言葉とは裏腹に、黒い光はさらに強くなっていく。


ドクン。


心臓が大きく鳴った。


そして――


カエルの視界が再び暗闇に染まった。



---


そこは五百年前の世界だった。


燃え上がる城。


崩壊する街。


空を覆う黒い雲。


そして、戦場の中央に立つ一人の少年。


昔のカエルだった。


その隣にはアベルが立っている。


「もう時間がない。」


アベルが言った。


「このままでは、全員死ぬ。」


少年だったカエルは黒い塔を見つめていた。


「分かってる。」


「だから僕がやる。」


アベルが振り返る。


「やめろ、カエル。」


「お前があれを受け入れれば、二度と戻れなくなる。」


少年は静かに笑った。


「それでもいい。」


「僕には守りたい人たちがいる。」


アベルは拳を握りしめた。


「俺も一緒に戦う。」


「兄さんは残って。」


「どうしてだ?」


「もし僕が失敗したら……」


少年は振り返った。


「その時は、僕を止めて。」


アベルの目が大きく開く。


「……カエル。」


少年は黒い塔へ歩いていく。


そして――


巨大な黒い影が現れた。


『人間よ。』


『我が力を受け入れるというのか?』


少年は剣を構えた。


「受け入れる。」


『ならば、お前は人間ではなくなる。』


少年は迷わなかった。


「それでも構わない。」


金色の紋章が輝く。


そして黒い力が少年の身体へ流れ込んだ。


ドォォォォン!!


巨大な爆発が起こった。


アベルが叫ぶ。


「カエル!!」


少年の身体は黒い光に包まれていった。


しかし――


その中心には、金色の光が残っていた。


それが第五の王座だった。



---


カエルは目を開けた。


「……そうだったのか。」


目の前にはアベルが立っている。


「思い出したのか?」


カエルはゆっくり頷いた。


「僕が……自分から選んだ。」


「第五の王座を使って、あいつを封印した。」


アベルは静かに答える。


「ああ。」


カエルは胸に手を当てる。


「じゃあ、今僕の中にある黒い力は……」


「五百年前に封印した、奴の一部だ。」


アベルが答える。


「そして今、その封印が壊れ始めている。」


その瞬間――


ドクン!!


カエルの身体から黒い魔力が爆発した。


「ぐっ……!」


地面が大きく揺れる。


アリアが叫ぶ。


「カエル!」


レオンハルトが炎の剣を構える。


「アベル! どうすればいい!」


アベルはカエルを見つめた。


「第五の王座を完全に目覚めさせる。」


エリオスが驚く。


「それは危険すぎます!」


「分かっている。」


アベルは答えた。


「だが、それしかない。」


セレナが尋ねる。


「完全に目覚めれば、何が起こる?」


アベルは静かに答えた。


「第五の王座が黒い力を支配する。」


「つまり――」


「カエル自身が、あの力の主人になる。」


カエルは剣を握った。


「なら、やる。」


アリアが振り返る。


「本当に大丈夫なの?」


カエルは彼女を見る。


「大丈夫じゃないかもしれない。」


「でも……。」


カエルは笑った。


「僕には、もう守りたいものがある。」


レオンハルトが笑う。


「それなら十分だ。」


エリオスも頷いた。


「僕たちも手伝います。」


セレナは静かに手を上げる。


紫色の雷がカエルの周囲に集まった。


「一人で背負う必要はない。」


四つの王座が同時に輝き始める。


赤。


青。


紫。


白。


そして――


中央にある金色の光。


五つの力が共鳴する。


ゴォォォォン!!


地下神殿全体が震えた。


黒い塔の奥から、巨大な声が響く。


『愚かな者たちよ……。』


『五百年前と同じことを繰り返すつもりか?』


カエルは黒い塔を見上げた。


「違う。」


「今回は――」


金色の光がさらに強くなる。


「僕一人じゃない。」


その瞬間、カエルの胸から黒い光が飛び出した。


巨大な黒い影となって、カエルの前に現れる。


二つの赤い目。


巨大な身体。


そして――


かつて世界を滅ぼしかけた存在。


アベルの表情が変わった。


「……来るぞ。」


黒い影がゆっくりと口を開く。


『我が力を返せ。』


カエルは剣を構える。


「嫌だ。」


『ならば、奪う。』


黒い魔力が一気に押し寄せる。


「全員、構えろ!」


レオンハルトの炎が燃え上がる。


アリアの氷が大地を覆う。


セレナの紫電が空を走る。


エリオスの光が地下神殿を照らす。


そしてカエルの全身から、金色と黒色の二つの力が同時に噴き出した。


五人は同時に前へ踏み出す。


「行くぞ!!」


その瞬間――


五百年前に終わらなかった戦いが、再び始まった。


そして今度こそ――


第五の王座が、その真の力を解放する。


第十八章 終

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


今回の第十八章では、カエルの五百年前の記憶が少しずつ明らかになり、第五の王座に隠された秘密も見えてきました。


そして、ついに五百年前に終わらなかった戦いが再び始まります。


これから物語はさらに大きく動いていきます。

カエルたちを待ち受ける運命がどうなっていくのか、ぜひ次の章も楽しみにしていてください。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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