……………… 弓道部
十日ほど経つと、新入部員も裏方の仕事に慣れてきた。さらに片付けが早くなった。ここまでで、新入部員は三名減って十二名になっていた。先輩達はそんなモンだから大丈夫だよ、元々今年は人数が多いしって言ってるけど。
残った新入部員達も練習内容が進化した。
ゴム弓で構えの練習をする。腕を伸ばして、弓を構えるのは嬉しかったり、恥ずかしかったり。
先輩たちが姿勢を整えてくれるんだけど、ショーゲン先輩が近づいて来そうになると、さりげなく、さくら先輩が入ってくれる。なんとなく少し緊張してしまうので有り難い。ただ、さくら先輩が無理してそうで申し訳ない。
二年・三年生は各大会の練習と、人によっては昇段試験もあるので皆真面目に部活に来る。一年生も夏にはなんとか様になるように、部内で級位試験を受ける。希望者は初段を取ったり、秋に新人戦に出たりするらしい。……そんなに早く進化できる気がしない。
小太郎先輩はもう参段を持っていて、秋に四段に挑戦するって話だ。部内に参段はニ名。もう一人は三年の山老主将だ。
新入部員の中にも男女一人ずつ、中学でも弓道をやっていて、もう初段を持っている子もいた。慣れている子たちは自分の弓道着で自分の弓で先輩たちに混じって実際に矢を射っていた。追いつける気がしない。ボクはボクのできる事をするだけだけど。
「優生くん、頑張ってるね」
小太郎先輩が帰りのバスで話だした。ボクと先輩は部活中はほとんどすれ違うくらいで、話はできない。
「道のりが遠くて、ため息です……」
「この調子なら、秋の新人戦にも出られると思うよ」
まだゴム弓の超初心者にそんな甘いことを……。
「言われたことはすぐ覚えるし、勘がいいと思う」
「本当ですか?」
「体の使い方がいいから、すぐ上達しそう」
「ホントに?」
「まぁ多分四月いっぱいは基礎練習、姿勢の練習なんだけどね。射ち始めたら早いよ。そうだ、見て思ったんだけど、左の膝を気持ち開いたほうがいいよ、バランスが良くなる」
「左の膝……」
「そう、内側に入り気味だから。ほんの少し意識して開くと重心が決まって格段に良くなる」
「ありがとうございます、やってみます」
翌日、鏡前の姿勢練習で左の膝を意識したら、ピタッと決まった気がした。
「あれ? 今日すごくいいね。ずっと言ってた左足のつま先の向きが良くなってる」
さくら先輩がうんうん頷きながら言った。
「昨日、加賀美先輩に左膝を開くように言われたんです」
「膝だったか……さすが加賀美君」
ゴム弓で弓引き姿勢を見てもらいながら、
「さくら先輩、加賀美先輩と同クラなんですよね?」
「そう、あの生真面目君と一緒。あんなガチガチ真面目、疲れると思うよね」
ボクのいる普通科も成績の良い特進クラスがあるけど(ボクは普通科普通クラス)理数科は元々偏差値がさらに高い。二クラスしかないけど、学年ごとに成績でクラスが変わる。二人のいるクラスは成績が良い方。
「加賀美先輩一人だけ、あだ名呼びしないですもんね」
「私のことを『さくら』って呼び始めたのは中学の同級生だった女子で、普通科クラスなんだけど、一緒に入ったのに弓道部やめちゃってね」
「残念でしたね……。そうだ、ボク、もう大丈夫なんでさくら先輩、自分の練習やって下さい」
「ん?」
「なんか、いつもガードしてもらってる気がして、気まずくないかな?と思ってたんです」
「あぁ、私、春の昇段試験受けないから。まだ初段になってから規定の期間経ってなくて。後、ショーゲン先輩については悪い人ではないけど、相手の気持ちに気が付かないとこあるから。私も今年は『先輩』として出来ることはやるよ」
次の段の試験を受けるのに、半年くらい開けないといけないらしい。時間はあるから大丈夫ってことだと思う。去年は一年生で友達を守りきれなかったのかな?
ここまでで、他の部員が来たので話を止めた。
ショーゲン先輩はボクにかまってくるのをやめていた。春の昇段試験を受けるらしい。他の新入部員の指導もそこそこに、自分の練習をしていた。時折、背中に視線を感じるような気もするけれど。
「はい、これ」
小太郎先輩から渡されたのは、『弓道教本』と『弓道読本』。教本は部費で用意されたものが部室にもあるけど、今年の新入部員全員には足らないので、部室にある分と元々持っている人以外の分は、新たに買い足された。ボクは小太郎先輩が使っていた物を頂いた。弓道の試験に筆記もあるとは驚きだ。読本の方はこっちの方がきっと初心者にはわかりやすいと思うって推薦された。
「小太郎先輩、もう使わないんですか?」
「うん。もう覚えちゃったよ。使い古しでごめんね」
「いえ、ありがたいです」
多分、小学生くらいの頃の先輩の書き込みがあって、ドキドキする。小さい頃から真面目って言うのがわかる、きっちりした文字のきっちりした言葉の書き込みだ。
「地区予選大会ですよね、来週から。応援してます」
県内のスポーツセンターの弓道場で行われる予選に弓道部の全員が行く。朝、六時半学校集合だ。
母が作ったお弁当を持って、早朝学校へ。学校前のバスの待機所にいたバスに自分の荷物をとりあえず置いて、持っていく道具を取りに部室へ行く。前日に指示された荷物を一年生の数人でバスへ運ぶ。先輩たちに荷物の不足はないか確認して貰い、バスに乗ると、ボクが荷物を置いた席の隣の席にショーゲン先輩が乗っていた。




