先輩、ボクと生きてください
二年ぶりに会う父だった。
「なんでこんなところに……」
二年どころではない、十年も経ったかのように老け込んだ父は、なんだかキョロキョロしながら話を続けた。
「俺はこっちで今の嫁の実家の会社を継いでるからな。優生は何で……?」
「部活の大会で遠征……」
「ふーん……。おまえ、やっぱそういう感じになったんか……キモ……」
「え……」
母の殴り込みで立場がなくなって、会社を辞めて不倫相手とその実家に引っ越したんだっけ? ずっと前にそんな話を聞いた気がする。こっちに住んでたのか。なんだかどう見ても、うまく行ってそうも無い。
また、そういう鬱憤をボクにぶつける気なのかも知れない。
「あなたにそんな風に言われる筋合いない。ボクには頑張り屋の母さんしかいない。いまさら他人にどうこう言われたくない」
「男同士なんて、キモいに決まっ……て……え?」
座っていた小太郎先輩が立ち上がると、父より頭一つ以上大きい。小太郎先輩が立ち上がるにつれて、父の声が力無くなる。
「優生くんのお父さん、僕、優生くんと付き合ってる加賀美小太郎と言います。優生くんは優しくて、人の気持ちに敏感で、僕を助けてくれたりもする素晴らしい人です」
立ち上がったせいで離れた所にいた他の学校の弓道部員とかの目に留まって、「加賀美くんだ」「日本一の子だ」「弓道界の怪物」とかいう声が聞こえる。父も聞こえたらしく、更にオドオドし出した。そこへ先輩が続けて言った。
「勿論、そんなことは十数年育てて来られたお父さんはご存知でしょうが」
「いや……まぁ……、それとは別に、男同士で……とか……」
「僕は、自分の責任も果たさず、不倫して家庭を壊すような行為の方が問題だと思いますけどね」
そう言うと、小太郎先輩はボクの手を握った。
「ボクもボクがキモいとか汚いって思ってた」
父の事をなんて呼ぼうか少し考えて、
「川嶋さん、ボクは自分のことがキモいって思っていた事があったんです、自分の父親に言われて。でも違った」
もう父はニヤニヤしたりしていなかった。
「周りの誰もボクにそんなこと言わなかった。そんなのただの価値観の押し付け。百歩譲って、そう思ったとしても口に出すことないですよね」
小太郎先輩と目を合わせて、少し優しい気持ちを取り戻してから、最後に言った。
「好きになったのが男性だっただけ。尊敬できる人だから」
入り口に駅までのシャトルバスが停まった。エントランスからホテルの人の案内する声が聞こえた。
「先輩、行きましょう。顧問もみんな乗り込みましたよ」
荷物を持って、父の前を通り過ぎながら言った。
「川嶋さん、人生頑張ってください。じゃあ」
通り過ぎる時に、すごく小さな声で、幸せにな……って言われた気がした。
駅までのバスの中で小太郎先輩の肩に頭を預けて、少し泣いた。
小太郎先輩は、優生くんどうした? って聞かれてたけど、なんか眠いみたいって答えていた。
新幹線に乗る頃にはもう、皆でわいわい楽しんだ。
帰ってもボクは母にこの話はしないかも知れない。いつか話すかもだけど。
新幹線の中で駅で買った駅弁を食べる。小太郎先輩と苦手な物を押し付け合って、好きな物を分け合って。
これからの長い人生を、ずっとそんな風に生きていけたら。それでもう――百点だ。
最後までお付き合いありがとうございました。
弓道を全く知らずに書き始めました。チャレンジャー過ぎる……。だって、カッコいいから。
少しでもお心に響くものがありましたら、評価・ブクマ・感想等をいただけたらと思います。
皆さまの貴重な読書時間をこの作品に使っていただけたこと、とても嬉しく思っています。
本当にありがとうございました。




