……………… 小太郎先輩
弓道も高校総体があるんだよ。
新入部員への説明があった。そのほかにも関東大会とか、いろんな大会がある。でもなんと言っても高校総体。男女別で、二年と三年の部員、合わせて五名ずつが団体戦に参加するらしい。個人戦はその五名も含んだ三年生ほぼ全員。選ばれるのは団体では県代表一校、個人は県で数名だそうだ。
団体戦に参加する五人は固定ではなく、調子を見て決まるとのこと。
新人への指導は二年生の先輩方が担っている。三グループに分かれていて、三年生の先輩が一人ずつグループを見ている。新人の殆どが一から教わる素人なのに、根気強くて親切だ。
部員達は、それぞれ苗字で呼び合う。山田くん、佐々木さん、先輩には基本、苗字+先輩だ。例外はある。正式入部してすぐ、ボクは加賀美先輩に言われた。
「三崎君、あのね、三年生に同じ読みの苗字の人がいるから、正確にはその人は山に甲の岬なんだけど。三崎君のことは優生くんって呼ぶことになったから」
あんまり人と被ることない苗字なんだけど、お陰で名前で呼んでもらえるなんて光栄だ。加賀美先輩以外からもそう呼ばれるけど。
「だから、僕のことも名前で呼んでもいいよ」
「……小太郎先輩って?」
「そう」
「いや、それは……」
他の部員の手前、そう言う訳にはいかない。
「二人の時はそうしますね」
あと、心の中ではそう呼びますね。
ボク以外にも、鈴木と佐藤は複数いるので、名前呼びになった。
その他には、何人か例外がある。あだ名が呼び名になってたりする。家業がお茶屋さんの先輩が「茶舗」先輩。三年。響きが可愛い。がっしりした男の先輩だけど。お寺の跡取りの先輩が、名前は照元って言うらしいんだけど「照元」先輩って呼ばれてる。三年。そして、さくら先輩って、二年の女の先輩がいるんだけど、名前は斎藤桃子でどこにも「さくら」要素ないのにそう呼ばれている。あぁ、ね。
正式入部になると、部活のグループチャットに入る。顧問だけ、学校の外観のアイコンだ。他の部のグループチャットもそんな感じで、顧問個人ではなく学校内の先生達で共有してるのかも知れない。
小太郎先輩のアイコンは小太郎先輩のマイ矢の矢羽。小太郎先輩は部員が誰でも使える物じゃなくて、個人で弓も矢も持っている。本格的にやってる先輩達は皆そんな感じ。小太郎先輩の矢は濃い紅のシャフトに黒い矢羽。背が高いから、矢も長い。カッコいい。
ボクのアイコンは愛犬。黒豆柴の黒影号。お爺ちゃんのつけた名前が渋すぎるのでクーって呼んでるけど。ボクとよく似てるって言われる。
新入部員は覚えることが一杯。まずは裏方の準備や片付けを習ってる。
あとは、ストレッチとか軽いランニングの体づくり。それは新入部員以外もやるんだけど。
「優生くん、大丈夫?」
普段運動をしないボクには軽いランニングも辛い。ショーゲン先輩が顔を覗き込んで聞いてきた。
ショーゲン先輩は新入生数グループのうち、ボクのグループのリーダー。
「走ったら、脇腹痛くなっちゃって……」
「休んでいてもいいよ。ちょっとずつ慣れていこう」
そんな感じで、みんな優しい。
ボクは元々体が柔らかいので、柔軟なら得意。でも、腹筋も背筋も弱々だから、プランクはすぐ潰れる。体幹強くなって、小太郎先輩みたいな綺麗なフォームになりたい。
「顔真っ赤だけど、大丈夫?」
ショーゲン先輩だ。プランクで潰れたボクに声をかけてくれた。
「大丈夫です。力入ったから」
さくら先輩が、チラッとこちらを見て言った。
「えー……どれどれ、ほんと真っ赤だ。優生くん、深呼吸して」
多分ボクは、筋肉量が男子より女子に近いのかも。二の腕とかもあんまり筋肉が見えない。弓道部はあんまりムキムキの男子はいないけど。
「一度にできなくても、毎日少しずつ頑張っていこうね」
「はい」
「優生くんは色白だし、女子より可愛いもんなぁ」
「ショーゲン先輩、セクハラです」
ショーゲン先輩とさくら先輩のやりとりに、少し困るボク。
「セクハラ親父現る」
「セクハラ親父て……」
みんな笑ったけど、こんな時どうするのが正解なんだろう?ボクはボクの見かけの事を話されるのが苦手なんだけど、それをどう伝えるかが難しい。
この日はそのままいつも柔軟とかやっている特殊教室の前の廊下から、弓道場に移動した。この後、先輩達は弓を射る。新入部員は見学や補助や片付けをする。
新人教育に関わらない先輩達は、ここまででもう何射かしている。新入部員の指導をしていた先輩方は、ここから入れ替わりながら矢を射る。
先輩達は弓道場では、自分が予定していた本数しか射ることはない。沢山射れば良いということではなく、一本一本に集中することが練習なのだそうだ。
「お疲れ様でしたー」
先に射っていた先輩達が控えめな声で挨拶しながら、弓道場裏の部室で制服に着替える。そうしている間に、練習が終わる。新入部員は片付けをして、体操着から制服に着替える。十五人もいるから、片付けも早い。
「お疲れ様ー」「お疲れー」「お疲れ様です」
部室に鍵がかけられて、解散。教室にカバンを取りに行って、下校。
「優生くん!」
昇降口で声をかけて来たのはショーゲン先輩だった。
「地元なんだろ? 途中まで一緒に帰らない?」
「ボク……」
「少しこれからの新人の部活の流れとか教えるからさ」
必要なことは新入部員全体の前で発表されるよなぁ……なんて返すのが正解?
「あの、ボク、約束があって……」
「ごめん、待たせて。先生が捕まらなくて……」
小太郎先輩だ。なんとなく話を合わせてくれてる。
「布留川先輩、優生くんに用でしたか?」
「いや……なんでもない。お疲れ様」
小太郎先輩はショーゲン先輩を名字で呼んだ。
ショーゲン先輩は気まずい雰囲気のまま、帰って行った。
「「お疲れ様でしたー」」
ぼくと小太郎先輩の声がハモった。




