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……………… 前期中間試験

 試験の初日。

 あれ? 梅雨っていつからだっけ? って言うくらい毎日晴天。もう夏のような日差しだ。

 バス通りから学校へ向かう緩い坂道。両脇の木の木漏れ日が輝く朝。見上げると学校の四階のベランダから懸垂幕が揺れている。

 『嶺南高校弓道部男子団体 関東大会三位』

 『弓道部二年 加賀美小太郎 関東大会個人準優勝』

 あれ、ボクの先輩のことだよ。ってなんだか自分まで誇らしい。高校総体(インターハイ)の懸垂幕も出ますように。


 何はともあれ、前期中間試験だ。

 現国は若干テスト範囲を間違えた。数一はまぁまぁ、保健は簡単だった。

 学区一の進学校だから、各中学の成績の良かった者が来ている。ここではなんか、ボク勉強できない方なんじゃないかと思える。みんな頭良さそう。

 明日明後日、頑張ろう。


 昇降口でさくら先輩を待つ。試験には来ているはずだから。

「あれ? 優生くん、どうした? 加賀美くんに用事?」

 二年生側の昇降口の外で待っていると、さくら先輩が見つけてくれた。

「いえ、これさくら先輩に」

「ヤバッ、何? プレゼント?」

「お見舞いです。早く復帰できるように」

「おーーなんだろ?あ、握り革じゃん」

「弓具店で見つけて、さくら先輩に似合いそうって思って。これ麻の葉模様なんですが、健康を祈る意味があるって祖母が言ってました」

 昔は赤ちゃんのオムツや服にこの柄を使ったりしたのよって、うちの和菓子店のこの模様のコースターを見ながら言ってたっけ。

「ありがとう。夏休みの前には部活動に復帰できると思うんだけど。この青、良い色だね。あ、そのお婆様は?」

「生きてますよ。今日も元気に和菓子作ってます」

「あはは。良かった」


「優生くん」

「お疲れ様です」

 通りすがりの小太郎先輩が声を掛けてくれた。

「それ、貰ったの? お見舞いに? いいね。ぜひ、早く復帰してほしい」

「優しい優生くんがくれました〜、あ、紬! ここだよ」

 髪を緩いおさげに結った二年女子が輪の中に入った。

日下紬(くさか つむぎ)、幼馴染なんだ。中学時代は一緒に弓道やってた。紬、こっちが優生くんだよ」

「こんにちは。日下紬です。おー、ももが言った通りの子だ」

「あれ? さくら先輩をさくらって呼び始めた人なんでは?」

「そうなんだけど、皆が呼ぶようになったら、紬だけ、ももに戻ってんの」

「え、だって、特別感が欲しいじゃん?」

 さくら先輩はなんか少し慌てて、

「紬はそんなだし、加賀美くんはフルネーム呼び……あれ? 優生くんの事は名前で呼んでるよね?」

 小太郎先輩は少しだけ笑って、

「特別感はともかく、負けるわけにいきませんから」

「「ウケる」」

 さくら先輩と紬さんが同時に言った。

「なんの勝負よ」

「へぇ、私のはさ、他の皆に対しての特別感だけど、加賀美くんのは自分の中の特別感じゃん」

「優生くんは僕にとって弟みたいなものですから」

「「ほーん……」」

 さくら先輩と紬さんの息がピッタリ。

 

 小太郎先輩は時間が……とか言って帰った。

「慌てて帰るとか、人間らしくなってきたじゃん」

 紬さんが小太郎先輩の後ろ姿を見送りながら言った。

「あの澄ました顔の生真面目くんも揺さぶられて根っこが太くなる時が来たんよ」

 キョトン顔のボクに、二人は微笑み掛けた。

「えっと、お二人は小太郎先輩と仲が良いんです……よね?」

「え?悪そうに見えた?」

 紬さんがクスッと笑って言った。

「良いよ。同志ってくらい」

 さくら先輩も笑った。

 『恋人』ではなく、『同志』か……。それもまた貴重な縁だな。

 『弟』と『同志』ならどっちがいいかな……って思ったけど、わからない。


 中間試験の残り二日間も終わった。

 ボクだって、毎日家に帰ってから二時間は机に向かっていたのに、思ったよりも手応えがなかった。

 二時間の中に、毎日の予習復習と宿題も含むからか……。みんなどうやって時間作ってるんだろう?ひょっとしたら、ボク以外の人は一日が三十時間とかあるのかも知れない……そんな訳ない。ちゃんとやり方を考えよう。


 一週間ぶりに弓道場に行った。まだ練習が足りなくて、着替えに時間がかかるから弓道着は持って来ていない。着るのも畳むのも時間と場所を取る。試験が終わったから、祖父母の前で一日十回とか着替えて、畳む練習しよう。着方は祖父、畳み方は祖母が教えてくれる。一週間、七十回も着たらきっと上手くなるはず。


 弓道場には小太郎先輩がいて、もう支度を終えて弓を構えていた。

 先輩の着付け、皺の一本も見えない。でも動きを邪魔しない。

 小太郎先輩は、的に向かえば誰が入ってきても乱れることがない。

 明日からの高校総体(インターハイ)県大会で出場する先輩たちが次々と支度を終えて射位についた。今日のところは僕たち後輩は柔軟とかストレッチをして、邪魔にならないようにした。その分、絵に描いたように美しい、小太郎先輩のフォームを堪能した。


「お疲れ様でした」

 久しぶりに一緒に帰る。

「ごめんね、今日は一二年生は練習出来なかったね」

「小太郎先輩の綺麗な所作を近距離で堪能しました。明日、いよいよですね。応援行きます」

高校総体(インターハイ)は高校弓道部で一番の大会だからね。気を入れて頑張るよ」

「小太郎先輩、今ボク着付けの練習してるんですけど、先輩いつも綺麗に着てますよね。コツとかありますか?」

「……もう十年とか着てるから全然意識してないんだけど、ボクに限って言えば、『迷わないこと』かな」

「……無理ですね、それ」

「いや、着ながらなら説明できるから、今度説明するよ。慣れすぎて、流れになっちゃって」

 これは天才に凡人にわかる説明をしろって言っても無理って感じか。そりゃそうだな。


「ありがとうございました。おやすみなさい」

 明日の小太郎先輩の活躍も楽しみだ。

 

 

 

 

 

 


 



 

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