悪役令嬢はヒロインと画策する
「自称聖女を釈放して、王族として塔に幽閉するってどういうことですか! 父上! 隣国と共謀して、リザーフの暗殺をしかけたり、私たちを誘拐したりしたんですよ!? 斬首刑物ですよ!」
「落ち着け、ファスター。本当は離宮で教育が終わったら、こちらで共に暮らす予定だったが、あの事件があったから、塔に幽閉することとした」
「いや、だから、甘すぎますって! せめて国外追放を!」
「彼女の力は、本物なのだ。幸運にも、先日の事件の関係者は全て捕縛できた。彼ら以外に目撃者はいない。ここまで言えば、わかるだろう?」
「しかし、隣国と共謀して、」
「彼女は騙されただけであったようだ。妻を全て彼女になすりつけられるように、な。黒幕がわかるまで生かしておかねば。彼女の存在が、証拠になる可能性もあるだろう?」
「……まだリザーフが襲われる可能性がある、と」
「……そうとも言えるが、お前の頭の中にはリザーフ嬢しかおらんのか? まぁ、あれだけ楽しんでいたらなぁ……」
「父上! 私たちはまだ清い関係です! あと発言が気持ち悪いです」
「き、き、もち、わる、い……」
国王陛下の心へ大きなダメージを与えて、親子の会話は終わった。
「あなた、転生者なの?」
城の地下牢に忍び込んだリザーフは、ヒロインに問いかける。俯いてしゃがみ込んでいたヒロインは顔を上げ、答えた。
「リザーフ様……転生者ってなんですか?」
「え? ヒロインでしょう? あのセリフは転生者しか知らないものでしょう?」
「よくわかりませんが、すべての人が幸せになるには、このように行動しろと言われて育ちましたの。私が、私の王子様と結ばれることこそが、この世界の救いだ、と」
「育てられた? いったい誰に?」
「……本当のお名前もお顔も存じ上げません。ただ、ア・シナガ・オー・ジサンという名だとおっしゃり、自分のことはジサンと呼べと」
「あしながおじさんなんて、意味を履き違えてるわね……。あなたに見せていた外見は、男なの?」
「ジサン様……いえ、あの方の性別は、わかりません」
「声とか、体格とかあるじゃない?」
「声はおそらく魔術が使われていて、記憶に残らない声をなさっていました。外見は男性にも女性にも見受けられました。顔は常に仮面で隠していらっしゃいました」
「……あなた、庇っているの?」
「いえ。たとえ、すべての人が幸せになるためでも、私は人を殺したくはありませんので。あの方のことを育ての親として、お慕い申し上げておりますし、感謝もしておりますが、聞かれたことには答えさせていただきます」
そう言い切るヒロインの顔に嘘偽りはなさそうであった。
「あなたは、“すべての人が幸せになるため”っていう、そいつの戯言を、まだ信じているのね?」
「……リザーフ様が王妃になったら、民は幸せになれるのですか?」
実際、白宮の悪役令嬢リザーフは、婚約者として傍若無人な振る舞いをした。元々、仲の悪かったファスターが、ヒロインとの距離を詰める度に、婚約者としての権利を主張し、散財した。また、氷結令嬢の名の通りに、逆らう使用人たちを北国に送り込み続けたのだ。
「精一杯、私のできることをして、国を発展させると誓うわ」
例え、人を救おうと政策を作り上げても、その政策がすべての人を救うことは決してないだろう。すべての人を救うという誰も実現できない目標に折れることなく進み続けることこそ、王族の義務である。ただ、できないことをできると誓うということは、リザーフにはできなかった。前世の知識や伯爵令嬢という地位、王妃という地位を生かして、国を発展させると誓うにとどめたのだ。
「……あなた様はきっとよき王妃になられますわ。私も、塔の上から祈り続けます」
「……ちなみに、聖魔法って夜の方には効果ある?」
「まぁ。皇太子にお子が産まれないのはトラブルの種ですね。魔力を込めておきますので、こちらをどうぞ」
「……ありがとう。恩に切るわ」