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悪役令嬢はヒロインと出会う

「本当は明日の会議の議題に追加する予定なのだが、聖魔法を使える少女が見つかった」



 慌てて服を着たリザーフも2人の後を追いかけ、国王が突然ファスターの私室を訪れた理由を聞きに行った。



「それは……父上。国で保護するのでしょうか? それとも、養女として私の妹という形で囲い込むことになるのですか?」


「現状では、国で保護する予定だ」


「…………」


「どうしたんだ? リザーフ」


「なんでもありませんわ、ファスター様」


 本編が始まった。王宮に保護されたヒロインが王太子と恋に落ちる。


「間に合わなかったわ……」


 そっと肩を落とすリザーフの姿を、心配そうにファスターは見つめる。



「その少女の住居だが……離宮を与えようかと思っていてだな」


「え!?」


「ど、どうした? リザーフ嬢。不満か?」


「い、いえ」


「先日、リザーフ嬢が王宮の前で襲われた事件もあったしな。安全を確保したとはいえ、王宮に人を増やすことは避けたい」


「……父上、その心は?」


「息子夫婦がいちゃつきすぎてるから、まだ年若い少女の教育に良くない」


「いちゃ!? 父上、いちゃついてもないし、まだ夫婦でもありません!」


「国王陛下。僭越ながら申し上げますわ。まだいちゃつけておりませんの」


「ふむ。少女のことは気にせず、いちゃつくがよい」


「ありがとうございます」


「2人で話を進めないでください、父上!」


「とまぁ、実行犯たちの不思議な言葉の意味も指示役も明らかになってない中、人を増やすのは実際危険だからな」


「ヒロインのために……強制力? でも悪役令嬢を消しても……もしかして、私の存在がストーリーに何か影響を?」


「リザーフ、何を言っているんだ?」


「なんでもありませんわ」


「ともかく、2人とも身辺には注意して過ごすように」









「……なんで2人揃って誘拐されてますの?」


「仮にも皇太子が誘拐されるのはなぁ……伯爵令嬢で皇太子妃になる予定のリザーフが誘拐されるのも問題だけど」


「この国、警備体制ザルすぎません? そういえば、白宮の中でもこんなイベントありましたわ……はっ!」


「どうかしたのか? リザーフ」


「な、ななな、なんでもありませんわ!!!」



 白宮でのヒロイン誘拐イベントでは、2人の親密度に応じてイベント内容が変わる。最高値だと、口付けチャンスだ。



「ち、ちなみに、ファスター様。私のこと好きですか?」


「と、突然何を言う。……その、嫌いではない」


「……嫌いではない、ですか……」


 垂れた耳の幻覚が見えるくらいに落ち込むリザーフに、ファスターは思わず声をかける。


「いや、その、将来共に国を支えていきたいと思えるくらいには好いているぞ?」


「共に国を支えていきたい……」


「だからだな、例え国を捨てることになっても共に過ごしたいくらいは好きだ」


「国を捨てる……」



『君のためになら、国を捨てることだってできる』ファスターの好感度がそれなりに高いと引き出せるセリフだ。


「似たようなセリフを言ってもらえるなら、期待してもいいのかしら? いや、でも」


「リザーフ? 何をぶつぶつ言ってるんだ? 聞いているのか?」


「ありがとうございます、ファスター様! 元気が出ましたわ!」


 突然のリザーフの満面の笑みの破壊力に、ファスターは攻撃された。


「そ、それはよかった……」


 そんなことを話していると、2人を誘拐して移動していた馬車が止まった。








「ヒロインのために、ついてきてもらおうか」


「「……」」


 周囲を囲まれ、圧倒的な数に逆らうことのできない2人は、誘拐犯の後ろをついて行った。







「え? この国の王子様ですか?」


「あ、こいつ、さ絶対転生者ですわ」


 ふわふわの金髪にくりくりな瞳を持つヒロイン。首を傾げながら、ヒロインと皇太子の最初の出会いのセリフを再現するその姿を見て、リザーフはファスターにしか聞こえない声量でぼそりとつぶやいた。


「いや。皇太子だが」


 出会いのシーンと同じセリフを言うファスターの姿に不安を滲ませながら、リザーフはその姿を見つめる。


「まぁ! そうだったんですね」


「で、私たちを誘拐して何の用だ? 皇太子及びその婚約者で高位貴族のご令嬢を誘拐するとは、勇気があるんだな」


「私は先日、聖女として、って、え? ……私は、私の王子様に会いたいと言っただけで、この人たちが」


「隣国の暗殺者たちが? へー」


「り、隣国!? そんなこと知らないわ!」


「知らなくても共謀してるのは明らかだ。衛兵、連れて行け」


「……あっさり片付いたわ」


 ファスターの手際の良さに、リザーフはぽかんとした表情を浮かべる。


 全ての者が捕えられたところで、はっとして、叫んだ。


「誘拐イベントのちゅーは?!」


「よくわからんが、今回の件で、リザーフを絶対に失いたくないと認識した。だから、口付けならしてやるぞ?」


 ファスターがそう言って、リザーフの手を引っ張り、そっと口付けを落とした。



「満足か?」


「……ほっぺじゃないー!!!」

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