悪役令嬢は婚約者と策を練る
「父上。明日の晩餐会には、こちらの方をご招待ください」
「ふむ? みな隣国との繋がりの深い者だな」
「えぇ。リザーフと共に策を考えたのです。炙り出しを行いたいと思いまして……。あと、同時に、ヒロインが王族として離宮に過ごすことになるとご公表ください」
「そ、それは……」
「ご歓談中の皆様、失礼致します。国王陛下がご到着なさいました」
「皆の者、よく集まってくれた。今から、大切な発表がある。前に集まってくれ」
国王陛下の言葉に、全体がざわりとする。
リザーフとファスターは、人目を避けて配置についた。
「実は、聖魔法を持つ者が発見された。その者には、王族として離宮を与え、そちらで国のために過ごしてもらうこととなった。後ほど、紹介の場を与えよう。そうだな……婚約者として、ワイマー公爵家、タル公爵家、ナバラライト家の中から候補を出し、相性を見て決定したい」
国王陛下の言葉に
「へ、陛下。差し出がましいことを申し上げているかとは思いますが、なぜ、我がサシャール公爵家とユタ公爵家は入れてもらえないのでしょうか?」
「そうですよ! 公爵四家のうち、二家が入っているのに、我が家とサシャール公爵家が入れてもらえないのはなぜですか!?」
「聖魔法を使える彼の者に、合う候補がいないからだ」
「た、確かに。我がユタ公爵家の直系の者は、婚約者がいる者しかおりません。ですが、親戚筋から連れてくることもできます!」
「陛下! お言葉ながら、我が家には長男の他に、次男がおります。なぜ、次男を入れてもらえないのでしょうか?」
「ふむ……そういえばそうだな。検討しておこう」
二家の反論はあったものの、晩餐会は順調に進んで行った。
「では、皆に紹介しよう。聖魔法の使い手、ヒロだ」
国王陛下の指差す先には、漆黒のスーツを見に纏ったヒロインことヒロがいた。長い髪をウィッグに隠し、メイクで中性的な雰囲気を纏わせた美少年姿だ。
「これは美しい……いや、麗しい」
「男性だったとは。我が娘も婚約者に入れてもらいたい」
「お父様。私も彼の方と添い遂げたいですわ」
ざわつく人々をにやりと見つめるのは、リザーフだ。彼女の前世の趣味の一つに、詐欺メイクがあった。そんなリザーフの手にかかれば、美少女を美少年に変えることくらい容易だった。
「ヒロは今後、離宮で過ごすこととなる。なお、形式上の王族にはなるが、王位継承権は持たない予定だ。……婚約者候補について。サシャール公爵。後ほど少し時間をいただいてもいいだろうか? その後、ユタ公爵も」
「……もちろんでございます、国王陛下」
自身の失言に気付いたのか、顔を顰めたサシャール公爵が国王陛下に礼をとる。
その姿を見て、外に退出する一人の影をファスターとリザーフは見逃すことはなかった。
「ごきげんよう。ユタ公爵夫人」
「ファスター殿下にリザーフ嬢。どうなさったのですか?」
「ユタ公爵は、まだ中にいらっしゃいますよ?」
「えぇ。少し体調が悪いようで先に退出させていただいたんですわ」
「夫であるユタ公爵と従兄弟であるサシャール公爵が、この後、国王陛下とお話しされるのに、ですか?」
「……今日は、娘も体調を崩して家で休んでいるから、早く帰ってあげたいんです」
「それは大変だ。リザーフ、例のお香を差し上げたらどうだ? 安眠にいいんだろ? 聖魔法がこもっているとかいうお香だ」
「そうですね、ファスター様。私たちもお香を焚いた夜は、寝過ぎてしまって元気になりましたの。そうですわ、体調が悪いのでしたら、馬車の中で炊かれたらいかがかしら? 移動用のお香セットも持ってきておりますの。お乗りになる前にすぐにご用意いたしますわ」
リザーフのそのセリフを聞いたユタ公爵夫人は、顔を青くしたり赤くしたり忙しそうだ。ただ、リザーフがお香に火をつけることは慌てて止めた。
「大丈夫です、リザーフ嬢。酔いやすくて、お香を馬車で焚くのは少し……」「では、こちらで焚いたものを香ってから馬車にお乗りになってください。顔色が悪くて心配ですから、ゆっくり馬車でお眠りになられた方がいいですわ」
そう言ったリザーフが満面の笑みでお香に火をつけ、ユタ公爵夫人に押し付けて離れた。
「ま、待ってください! これをこんなところで! もう大丈夫ですから!」
「……ジサン様」
「ど、どなたですか?」
近づいてきたヒロの姿のヒロインに、ユタ公爵夫人はそっと後退りする。
「ずっとお慕いしてました」
「待って、今この場でそんなこと言ったらダメ。息は吸わないで」
「ジサン様ですよね?」
「そうよ! そうだから! 離れなさい!」
「やっぱりあなたがヒロを使って私を殺そうとしたんですね」
「……殺そうとしたわけではないわ。婚約者から外れてもらおうと思ったのよ。とりあえず、そのお香をすぐに消してください」
「このお香は、ラベンダーのお香でリラックス効果のあるものですよ」
「へ?」
「ヒロインの作った聖魔法のこもったお香……という名のあなたがヒロインに持たせた媚薬効果のあるお香ではございません」
「このお香をヒロインに持たせてどうするつもりだったんだ?」
「……ヒロインが皇太子と結ばれて欲しかったんです。白宮だけじゃなくて、全てのゲームの中で最推しカップルだったんです。二人が結ばれないなんて、許せなかったんです」
「それだけ?」
「はい、それだけです」
「それだけであれだけ大掛かりなことをしたの?」
「はい」
ユタ公爵夫人の言葉に、リザーフは絶句した。そして、問いかけた。
「ここまで言っておいてあれだけど、あなたも転生者ね?」
「リザーフ嬢もやはり転生者でいらっしゃいましたか」
「私の存在でストーリーが変わったと?」
「ゲームではあり得ない動きばかりしていらっしゃるのは、あなただけましたから」
「氷結令嬢としては正しく動いていたわよ?」
「ゲームの中では、もっと悪どい氷結令嬢でした」
二人で盛り上がる中、ヒロがそっとユタ公爵夫人に近寄る。
「ジサン様……いえ、ユタ公爵夫人。僕をここまで育ててくれてありがとうございます。あなたのことはお慕いしております」
「まって、ヒロインですよね? イケメンすぎていけない扉が開いてしまいそう……」
「ヒロイン×悪役? いや、ヒーロー×悪役?」
「よくわからないが、リザーフ。ヒロインは育ての親への想いが溢れかえっているだけでそういうのではないと思うから、仲裁してこい」
「はぁい……私も一途な思いを見せたら一発いけるかな?」
「おい」
リザーフが次回作戦を思いついたところで、話し合いが行われ、リザーフとの諸々の交渉の末、ユタ公爵夫人は形式上は無罪放免とされたのだった。
といっても、全ての連絡手段等を取り上げた状態で、侍女として、ヒロインを拘束する塔に閉じ込められることとなったのだが。




