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第一部   第三章    Tsu

 目の前の奴が何者であろうと、そいつを斬らなくちゃ終わりはない。そのような意識だけで少年は動き始めていた。

 今、この広間にたった一体だけとなった悪魔(ビル)は、更に口から黒い極小のものを吐き出しながら喋り続けた。


「オ前の言ったコトは間違イだらけだ。おマエの言ったことノナカで正しいコトは、『少々』という言葉を除イテ私が上等な悪魔(ビル)デアルトいうコトだ。」通路から来る、底から引きずり込むような力を持った風の量が少なくなり始めた。古の悪魔(ビル)は口を動かし続けた。「ソウ、私は上等の悪魔(ビル)だ。だから、自分自身を霧に戻して、その中で眠りながら力を蓄えることもできる。そう、私はツヨイのだ。かつてのあの赤いバケモノと戦った時よりもイマの私は強い。ソノ強さが私にその小さな存在を気付かせたのダ。」


 アーマスは途中で口を開けようかと考えたが、それは余計な体力を使うだけだ、と判断してそのまま聞き流していた。テリーは目付きを鋭くして黙って聞くだけだった。ソイソーは右腕を横に出した。その場で右足を一歩摺り足で引いて、少年は右腕の近くに左手を持っていった。しかし、


 「あ……しまった、」


 「お前はアクマで私と戦おうというのだな。」ソイソーは一瞬、その手の平が予想外に熱くなるのを感じた。しかし、悪魔(ビル)の今の声とその次に取った行動は、その熱を瞬時に奪っていった。


 「フンッ、自分の得物の場所を見失うか。」悪魔(ビル)がそう言ったかと思うと、奴の右手は素早く真下へと動いていき、そこにあった一本の刀を拾い上げてそのまま放り投げたのだった。それは其奴の体から比べれば短刀も同然のソイソーの刀であった。刀は静かな回転をしながら高い軌道を通っていき、ソイソーの目の前で見事な音を立てて突き刺さった。少年は目の前の刀に目を丸くしながらも、ゆっくりと柄に手を掛けていった。一つ年上の少年も一連の動きの中で、えっ、と思うところがあった。


 「弱く見せてる……だけなのか?」思わず声に出たが、小さすぎてそれが聞こえた者は居なかった。悪魔(ビル)はソイソーの刀を拾ったが、それは地に立てられていた物などではなく、横になって置かれていたものであった。先までの悪魔(ビル)なら -そもそも取りもしないだろう、とテリーは思ったが- それを普通に屈んで取るのだろうと思ったが、今、相手は、腕の長さをおよそ倍にしてそこに手を到達させる、という手段を取ったのだった。アーマスただ一人だけが、まるで蛇のようだ、という感想を持った。


 テリーも少々剣を持つ手が熱くなるのを感じ出した。それでソイソーに声を掛けようとしたが、先にソイソーが悪魔(ビル)に向かって切り出していった。


 「どういうことだよ。」


 「言っただろう、お前とは刃を交えてから生を奪ってやる、と。(むな)しく『1』を書き続けていた先の時とは違い、今のお前は、お前なりに自由に刃を操ることができる。それが生み出すものというのはまだ限定的なものなのであろうが、私はすでに何かしらの力を予感している。だから、私は、私の刃でお前のその刃を正確に捉え、遂にはその力を奪い去ってやるのだ。当然、一騎打ちでだ。」


 「ふざけるな。何が一騎打ちだ。」

 「大丈夫だよ、テリー。僕は、………負けない!」


 テリーが前に出ようとするのをソイソーは、そう言ってから、手で止めた。右腕を横に伸ばすという格好だった。その後すぐに、その右手には左手から刀が手渡された。刃は刀背が下を向いていて、刀自体も刀の持つ独特の形状のせいではなく、確実に、僅かではあるが、水平より下に向けられていた。刃先にはソイソーの言葉を感じるだけのものは輝いていたが、その大きさは、刃の後ろに居るテリーが何とか分かる程度のものだった。しかし、そのことに気付いていたテリーは目で悪魔(ビル)にもう一度一喝してから、右手にある剣を左手に移して勢いよく相手の刃先の上へと掲げた。そこでテリーは少しの間目を瞑ると、そのままの状態で軽く一つ振り下ろした。


 キンッ。


 気持ちのいい音を響かせて両者は刃を引いていった。その時の、小さい方の刃は線を描いたかもしれないし、半円を描いたかもしれなかった。そして、音は得体の知れないものを切った時のもののようであった。ソイソーは握っているものを、左手が鍔の近く、右手が(かしら)の近くとなるように持ち、右肩が前に来るように半身になった。一方のテリーは目を開けると、剣の持ち手を変えることなくそのまま刃を下ろしていった。刃先が描いた線はまだ少しだけぶれていた。背後に居たショー=サナエは一連の二人の行動を、嘴をきっちりと閉ざした状態で見詰め、刃が離れていくその瞬間になると、その嘴は四度ほど、開けては閉めて、を繰り返した。


 前方では、奴は瞳の確認できないその顔で首を動かさずにその様子を眺めていた。その周囲には影も形もない近くて遠くにある炎が、二つの風を含めて広間の様子をうかがっていた。兄は静かな風の流れる通路を、拳を握りながら眩しいのを我慢して見ていた。彼には珍しく、槍を持つ手の指が頻りに左右に動いていた。古の悪魔(ビル)はソイソーが構えの姿勢を作った直後に、右足だけ一歩進めた。黒い体を覆う黒い毛のようなものはほとんど全てが下を向いていて、ある意味自然な状態となっていた。骸骨顔の者は静かにその口を大きめに開いて奇妙なまでの白い歯を見せつけると、一言、言い放った。


 「始めヨウカ。」

 これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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