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第一部   第三章    Ni

 子供が刃を握らない世界を想像することは難しい。だが、そのような考えを持つことが非常に難しくなるような世界こそ、我々の理想と言えよう。

 古を生きた彼は今、何を感じているのだろう。

 「油断するなよ、ソイソー。」


 「えっ、どういうこと?」


 黒く長い物が二つ、それぞれ大きな半円を描いた。その時も、空気を押し分ける音さえしなかった。ソイソーは今の相手の動きに合わせて刀に手を伸ばした。


 「これが、僕の『三度目の抜刀』だ。凄い記念日だよ。」

 「律儀だな、そういうところは。それが本当に記念と思えるようになればいいけどな。」


 「三度目の抜刀」とは、フォーダースの世界で、とある古豪の剣士が残した教えである。



 初めての抜刀は手にしたばかりの時で嬉しさがあり、二度目の抜刀は最初の練習時で気合が籠もる。しかし、三度目の抜刀はまず、手に馴染む心地が初心の喜びを遠ざけ、刃の振る舞いに感じて心が緩むもの。故に、ここで真剣に宿す新たな魂の形こそが、その者の剣士 -解釈によっては戦士とも- としての生涯の姿になるであろう。 -カット=ソーンダース-



 但し、彼の生きた時代は八百年以上も昔のことであり、ソイソー達の時代では、子供剣士の「記念日」として使われている。特に真剣に関してなのことである。


 ソイソーの一度目は、やはり、買ってすぐの時。二度目は、今から半年ほど前に、父親と初めての練習の時だった。そして、ソイソーは、三度目をこのようにして迎えようとは思ってもないことであった。仙人探しの途中でうっかり悪魔(ビル)と鉢合わせしてしまったとしても、別に持ってきていた短刀で応戦するつもりでいて、刀を抜くのは絶体絶命が近い時だ、と決めていたのだった。


 「これが仙人様だったらよかったのにな。」

 「馬鹿言ってんじゃないぞ。奴の右の武器に気をつけろ。」それを聞いてすぐ、ソイソーの刀を抜く手が震えた。少年は思わず後退りしながらも相手を思いっきり睨みつけた。二人は今、悪魔(ビル)の顔を見ていた。顔以外はまだ煙の中だった。この奇妙な状況の中で見えているその顔は、肉や皮膚の付いていない呪われた表情なのだった。


 「悪魔(ビル)………。」


 ソイソーの声に合わせて、ショー=サナエは口をパクパクと動かした。


 黒く長い物が再び動きを見せた。今度の動きは半円に(とど)まらず真円を描いていった。テリーは軽く目線を左にずらして、刀を刃先がソイソーに見えるように掲げた。ソイソーはそれを見ると、数回瞬きをした後で、慌てて柄から左手を離して、自分の刀の刃先を相手のそれに近づけた。


 キンッ!


 両者の間で血と炎の色が確認されて、祈りが込められた。


 円を描くに連れてその速度が上がっていった。円は悪魔(ビル)の黒い像を挟んで左右に描かれていたが、それも速度の上昇に伴い動き出していった。それぞれは互いを引きつけ合うようにしてゆっくり近づいていった。そして、二つの円が今にも重なろうとしたその時、


 「構えろ!」テリーが少し擦れた感じの大きな声を出した。同時に、彼は剣を右手に持ち替えて二つの刃をバツ印に掲げた。ソイソーもその場の勢いに任せて刀を抜いて、顔の高さで横一線にして構えた。


 ガキンッ、という音と共に、骸骨顔の悪魔(ビル)が煙に巻かれていた部分を一気に晒しだした。大きな歩幅ですぐさま間合いを詰めると、テリーの言う「右の武器」は回転をしたままソイソーに向かってきて、間近に来てから瞬時に、直線的に振り下ろされた。左の武器はテリーに向けられたが、テリーはそれを上手く押し出すようにして一撃で弾き返した。「くっ…。」ソイソーは受け止めたままその場に踏み止まった。口が結ばれたままだが、目を大きくして、刀背に右手を添えて何とか踏ん張っていた。一杯に開かれた視界には至近距離から見ても黒いままの縦長な物があった。少年は気付かなかったが、悪魔(ビル)の顔はただ水平方向を向いていて、対する者の顔を見ていないようであった。黒いだけの大きな目の先には壁があるだけだった。ソイソーは鼻息と共に口を開けた。


 「一つ目…、剣?」金属を感じさせない、墨にも似た刃がソイソーの銀色の刃と交わっていた。目を一瞬だけ上に向けると、かなりの高さまでその刃は伸びていた。ちょっとだけ下に目をやると、その武器を握る悪魔(ビル)の手があった。握っている柄は濃い灰色といったところだった。「長い柄……?」


 「後ろに跳べ!」テリーの声と共に柄の下の方が妖しく光ったように見えた。ソイソーは咄嗟に、テリーの言うこととは逆に、剣を持つ手を上に残したまま中腰になり、柄に体当たりをした。その衝撃で悪魔(ビル)は武器を持つ手を緩め、その隙にソイソーは黒い刃を弾き返して二歩、三歩と後ろへ跳んだ。ショー=サナエは今の一連の動きを微動だにしないで見ていた。


 「武器が三つって、こういうことなんだ。」

 「そうだ。まったく、今の、無茶するよな。」外に通じる路から僅かに風が流れてきた。辺りに漂っていた煙は追いやられるように壁際へと散っていった。

 これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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