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第一部   第一章    Ro

 一日前。「序」の続きです。家も猫欲しいなあ…。


 一日前。


 まずは母親が相手だった。少年は見事に濡れた状態で家の前に居た。さっきまで止んでたのに、と思いながら、恨めしげな目で空を見た。靴がどうこうの話ではなかった。ショー=サナエは、ソイソーが屈むような体勢で抱えてきたので、全く濡れていなかった。少年はくしゃみを二回した。そして、戸をあけた。


 「この雨の中どこに行ってたの!」と叱られながらも、腕に抱えている真ん丸な瞳の可愛らしい存在のほうへと視線が移っていくにつれて、母親の表情は緩んでいった。ソイソーは言った。


 「森の中……、…で一…羽(?)だけで居たの。だから、可哀想だし、嫌がんなかった…というか、喜んでた…、」言い終える前に母親は口をあけた。

 「本当に可愛いわねえ。うん、いいわよ。一緒に暮らしても。」母さんを説得することは簡単だ、と思っていた少年であったから、取り敢えず、ホッとしたところであった。それも、お父さんが云々、ということを言わなかったところは、ソイソーにとっていい誤算であった。


 次は兄。兄は同じ学院に通っていて年は二つ違った。三ヶ月間、三歳差になることがあった。少し前までは、そんな下らないことでも喧嘩が始まる二人であったが、今は知り合いに言われても、そんなこともあったね、と笑って返せるようになっていた。兄は休日ながら学院に行っていた。家に帰ってきたのは弟が帰宅した一時間後であった。多少濡れた所はあったが、かなり綺麗なものであった。


 「ただいま…?」目の前には見たこともない存在が居た。両者は互いに少しの間だけ見詰め合った。そして、一言「サナエ」という声だけがその場に響き渡った。その姿が非常に可愛いと感じられたので、弟のお願いに対して、

「父さんが、良い、って言えばいいんじゃないのか。」という返事を出した。


 その父親が最後の相手だった。その交渉は難しくなると、少年は予想していた。ショー=サナエが、もし、飛獣(フレマー)であるならば、それは、他所の子供と家で一緒に暮らしてもいいか、と聞くようなものだからであった。少年はそのことをよく分かっていた。キィーバは(ユマン)が数多く占める場所であるが、フォーダースという視点で見れば、四歳の子供でもその意識は持っているのであった。でも、そちらの方は大丈夫かもしれない、と扉を開けながら少年は思っていた。簡単にお許しをもらえたからな、というのが理由だった。


 それとは別に、少年は自分の父のことを考えていた。その為に頭の中を歩いていると、ふと、顔がにやにやし始めた。「あの猫も可愛かったなあ。」まだまだ短いソイソーの人生だが、一人自分の部屋で椅子に座って机に向かいながら考え事をする、というのは非常に珍しいことだった。本当なら、寝台の布団の上に跳び込みたいところだった。眼を瞑りながらちょっと時間が経って、ソイソーは連れの顔を見ようと横を向いた。


 「あれ?」部屋は自分ひとりであった。その時、父親の声がした。少年が思うよりもずっと早く帰ってきたのだった。ソイソーはそこで気付いた。


 「ショー=サナエ玄関だ。」ソイソーはショー=サナエを部屋に連れてきたつもりになっていた。しかし、少年は自分の着替えを持って階段を上がっていったのだった。ソイソーは慌てて部屋から飛び出していった。余計なお叱りを受けるくらいに音を立てて玄関へと向かっていった。運よく、母親は庭の方に行っていたが、階段の先にはしっかりとショー=サナエが座っていた。最後の一段で下りる速度が一気に下がっていった。目の前のショー=サナエがひとりでに浮き上がっていったように見えたのだった。そして、兄の階段を下りる音に覆いかぶさるように、陰から思いがけない言葉が聞こえてきた。


 「おお、可愛いね。近々、小鳥を飼おうと思ってところだったんだ。おーい、エレナ。この子は子供達の友達か?」ソイソーは計ったようなところで玄関に姿を見せた。おかえりなさい、の後に、これこれこういうことでと説明すると、最後の難題は簡単に終えることができたのだった。ショー=サナエはそのまま父親に担がれた状態で居間のほうへと行った。


 夕食は、新しい家族であるショー=サナエと一緒に、いつも以上に楽しく過ごすことになった。母親が、サナエちゃんのために、ということで、急遽、その日二度目の買い物へと行ってきたのだった。おかげで、食卓には普段中々見ることのない魚料理が出てきて、父親は、祝い事の時の為に取って置いた、ストルアン産の高級スパークリングワインを開けた。食後には、上物の「チベタンフルーツ」が出てきた。これは、見た目は葡萄のようであり、味もそれに近くて大変甘く、大きさは蜜柑より少し大きいくらいの物である。キィーバでこれが嫌いな者は居なかった。ショー=サナエはご丁寧に椅子に座っての食事で、もちろん、ワイン以外だが、いずれもおいしそうに食べていった。翼を使ってフォークやナイフを持つことはなかったが、嘴できちんと切り分けながら食べていくその姿は、ソイソーに嬉しさと不思議な安心感をもたらしたのだった。


 「ごちそうさまー。」そう言って、今日は、珍しく、自分から食器を台所へと持っていった。だが、「みんなの分も持ってきてくれると助かるのになあ。」と言われると、案の定、口を膨らませたソイソーだった。テーブルが片付いて次の注文が来ない内に、ソイソーはショー=サナエを抱えた。振り返って居間を離れようとすると、今度は、別の声が聞こえた。


 「そうだ、ソイソー。アーマスにも言っといて欲しいんだけどな、明日は、城に特別電車が来ることになってるんだ。だから、朝乗る電車には気をつけろよ。」若干だが父親の口調は陽気になっていた。兄のアーマスとは違って弟は腕白少年で、今は、満腹大満足の状態であった。


 「分かってるよ!」という返事をして、ソイソーはそのまま部屋へと向かっていった。その後、少年が部屋から出たのは風呂に行く時だけであった。


 次の日、母・エレナは普段通りにソイソーを起こしにいった。ソイソーの兄であるアーマスを起こすことはしなかった。それがいつものことだったからである。そして、ソイソーが起こされる時間には、アーマスは一階で食事をしているはずであった。そのアーマスをエレナはまだ見ていなかったが、彼女は「サナエちゃん」のご飯を用意することに気を取られていてそのことに気が付かなかった。気が付いていれば、アーマスも起こしにいって、そのしっかり者の兄から次のような事を再度聞けたはずであった。


 「今日の授業は二時間遅れだよ。」


 忙しそうな息子の動きを何事もなかったかのように送り出したエレナの後ろには、パジャマ姿のアーマスが立っていた。腕にはショー=サナエを抱えていてその頭を撫でながら不思議そうな顔をして母親に言った。


 「あいつ、今日、そんなに急いでるんだ。」


 前回「I」で、今回「Ro」。こういう続き方って変ですかね?

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