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第一部   第二章    Ro

 こういう行為って気が引けるなあ。最初は、新しい魔法だからと思って、記してあるとおりに「魔法言語」を述べた後は久しぶりに気持ちの高ぶりを抱いてスペルを口にした訳だが、……。

 フーッ、いずれはこんな仕事をする時も来るんだろうな。いや、できることならこういうものだけは避けたいところだな、親の力を借りてでも。

 ………何か今変なことを思ったような気が…。集中しないと、魔法が切れてしまう。一度切れたらこんな高度なもの、今日中に二度は使えないだろうからな。…だが、せめて、この愚痴を実際声に出して言いたかった。余計な言葉を発したら、そこで魔法が解除だからな。


 では、本文をどうぞ。

 「誰も居ないじゃないか…待てよ、そうか。やっとあいつが来たのか。」


 彼の目に入ったのは、少年の膝ほどの高さにも満たない大きさの岩と、そこから十メートルくらい行ったところにある、縦長で彼の背ほどの高さもあり上の部分が少々丸みを帯びた、変わった形をしていると彼の感じた、岩であった。もう少し進むとアピルースの森があった。彼はタオルと地図を置いて立ち上がり、言った。


 「そんな所で何してんだよ。早く来いよ。」ようやく遅刻魔が来たか、と彼は思った。首に下げている懐中時計を少し見たが、約束の正午からまもなく一時間が経とうとしていた。いつもなら、「またかよ」の一言で始まって、若干の喧嘩口調になって言葉を放ち続けるところであったが、今回は、待っている時間に色々と得るものがあった彼なので、それは無しにしよう、と決めていたのだった。


 「(それにしても、気配丸出しであんな所に隠れるなんて、あいつらしくないな。)」そう思いながら彼は、近くの岩を無視して奥の縦長の岩へと歩いていった。一個目の岩を通り過ぎる時に、その近くにあった石粒が彼とは逆の方へと転がっていった。ちょうど山からの風も止んでいたので、途切れ途切れながらもその音はこの辺りを支配した。彼の歩調はゆっくりとしたものだった。


 「(驚かそうとしているのなら、それに引っ掛かってやるのが年上の貫禄だな。)」とも彼は思っていた。アピルースの森の樹なら大きくて隠れるのも簡単そうであったが、彼はその可能性を無視した。彼が縦長の岩へと近づくにつれて様々な音が聞こえてきた。ササ…サササ…、という音がして、岩の陰から僅かな砂埃が上がった。コロコロ…コロ…、とそこから幾つかの小石が現れた。彼の後ろへと行ってしまった小石はちょうどこの時に極小さな傾斜に掛かって、一時の支配が終わりを迎えたところだった。


 彼は岩の前で停まった。更に少しだけ二つの音がして、それらは止んだ。彼は一つ咳払いをした。その場で数秒留まった。陰からは、パタパタ、という音が聞こえた。


 「何してんだよ? ソイソー、お前なんだろ?」その声が響き始めた途端、パタパタ、の音は激しさを増していった。テリーは少々大き目に息を一つ吐いた。彼は岩の右側を見た。この辺りは空の青さを確認できるのだが、陽の光が今一つ強くなかった。影のでき方も半端なものではあったが、彼は視線の先に二つのものを確認していた。一つは自分の目の前のもので、もう一つは、その大きさから推測すれば、自分の近くに居るものなのであった。彼はもう一つ咳払いをした。そして、彼は左に足を踏み出した。


 「隠れるの下手になったな、ソイ………、な……何だ、お前!?」


 そこに居た者は、全くテリーの予想していなかった者であった。全身は真っ白で体長は五十センチメートルほど。顔には特徴的な黄色い嘴があって、白さから突き出るようにして生えていた。二つの目は驚くほど真ん丸で、その者の顔付きは、一般的に言えば「可愛い」と評される部類に入るものであった。テリーが見ていても、ここに来た目的を忘れてしまいそうな、そんな思いにさせる所があった。そして、「(いったい何でできているんだ?)」と思うくらいの、同じくこちらも大変に丸くてたっぷりの羽毛に包まれた体は、彼にとっては特にだが、何故だか分からないくらいに神秘的な雰囲気を持ちながら、きっとあるだろう足を隠す形で、痩せた大地の上にあった。


 「……、…? …、……うん。」要するに、取り敢えず何か声を掛けてみようとテリーは思った。どんな者であろうと、こんな小さな子を、いや、すでに成熟している身かもしれないが、この場所に一羽、いや、一体でそのままにしておく訳にはいかない、とテリーの良心は訴えてきたのだった。「…。」今、その者はテリーから見て左に体を向けていた。相手の目は見ないようにして、テリーはそっと近づいていった。


 「えーっと…、ここは…危険だか…、」

 「(ピョン)」 「うわあ……っと…。」


 テリーは相手がこちらに向かってきたように見えた。しかし、その者の居る所には、か細くて黄色い足に合うような足跡は無かった。「(落ち着け、冷静になるんだ。)」そう彼は自分に言い聞かせた。緊張感の取れない表情のままテリーは三回深呼吸をした。鼓動が小さくなるのを感じてから、再び声を掛ける為に彼は一歩下がった。


 「んーっと、言葉は分かるかな? …ここはただの獣だけじゃなくて、悪魔(ビル)魔物(エヌスター)なんかも出る所なんだよ。だから、」

 「(バサバサバサ)」


 「おーい、おいおいおい。待て待て、ちょっと待て……、」テリーは苦戦していた。


 この小さな白い翼を持った者の、その表情には僅かな悪意も存在はしていなかった。ひょっとしてこれが「森の妖精」という奴か、と彼は一瞬だけ思った。翼を持ったそのような存在のちょっと仕草に、彼は早くも打ちのめされていた。自分でも気が付かない内に、十歩ほども後退していた。下と上を交互に向きながらテリーはもう何歩か下がって、急いで振り返ってタオルを手に取った。ごしごし顔を拭きながらまた前を向くと、それは雑に肩へと掛けられた。テリーは、もっと冷静になってあの子を見よう、と考えた。


 テリーの目の前に現れた予期せぬ来訪者は無邪気に、ピョンピョン、と跳ねているだけだった。彼には都合よく、縦長岩の陰に隠れることなく、その左側で不規則に動いていた。地面にその者の短い足が触れる度に、思いの外大きな音がして、はっきり判る量の乾いた砂も巻き上げていた。この鳥は見た目以上に重いんだな、とテリーは思った。


 「ん? こいつは鳥なのか? 何か違う気も…、」少しして、ちょっとだけ近づいていけるとテリーは思った。抜き足差し足、彼は進んでいった。一分掛けて縦長岩まで辿り着いた。そして、陰に手を当てて覗くような体勢になった。と、次の瞬間、その相手がテリーの方を振り向いた。


 「…!」彼の左足が咄嗟の反応を見せたが、今度は後退することはなかった。じっと一つの所を見詰めた後、白い翼の者はまた、ピョンピョン、と跳ねだして、キョロキョロ、と周りを見廻し始めた。この時、テリーはふと思った。「(今、何処見てたんだ?)」


 白い翼の者は、姿を見せてから初めて、テリーに背を向ける格好を取った。「しめた。」彼はゆっくりゆーっくりとその白い鳥、ないしは、他の何かに近づいていった。足元と相手を交互に見ながら、足を上げては、つま先からそっと地面に下ろしていった。六回この動きを繰り返したところで、テリーはようやく待ちに待ったものをその目に入れることになった。


 「あれ…あの子の下にあるの…、濡れた足跡? そうか、これはあいつの連れか。」


 「サナエ。」テリーの耳には、バレた、と言ったようにも聞こえた。サナエ、と言った者は再びピョンピョンと跳ねていった。そのまま一番近くの樹がある所へと進んでいった。そして、その陰からは、テリーからすれば、何を勘違いしているんだ、と思いたくなるくらいに堂々とした面持ちの少年が一人、姿を見せた。


 アピルースの森特有の水気を多く含んだ地面で長い間立っていた為か、少年の靴はグッショリと濡れていた。歩く度に、ビヂッ、という音がしていた。少年は、サナエ、と言った者の頭を軽く撫でてから更に数歩進んだ。同時に、テリーも少年の方に歩み寄った。二者の間は大股二歩分の距離になった。少年はちょうど間に背中の荷物を降ろした。それに合わせて、サナエ、と言った者が少年の足元にやって来た。少年はいつもの、申し訳なさそうな表情を取りながら頭を掻く、という分かりやすい謝罪の意思を示してから、足元に居る者を持ち上げた。手馴れた様子で素早く持ち上げていた。まず、少年から喋り始めた。


 「本当は、普通にうちのサナエを紹介するつもりだったんだけど、テリーがちょっとお出掛けしていたみたいだしね。」話しながらソイソーは、テリーから目線を外しては戻すということを繰り返していた。テリーはそれを見ながら薄目になって頷いていた。「この子は、ショー=サナエって言うんだ。どー? 可愛いでしょう? よく、母さんが美人だって言われるけど、ショー=サナエの方が可愛くて綺麗だよね。ん? 綺麗っていうのはちょっと違うか。でも、可愛いでしょ。…あれ? テリーどうしたの? 反応薄いよ。」テリーはもはや、頷いてさえいなかった。ソイソーは惚けた顔をして目をパチパチさせていた。


 「ひょっとして、これもダメ? ショー=サナエは違うと思うんだけどなあ。確かに、テリーはかなり鳥が苦…、」次の瞬間、テリーの目は見開かれた。


 「そんなことだろうと思ったよ、この遅刻魔ーー!!」


 少しの間、テリーはソイソーに対して、ガミガミ、と言葉の嵐を巻き起こした。少年はいつもの通り、下を向いて目を開け閉めしながら聞いていて、その数分後、二人は普段通りの仲が良い者同士な会話を行っていた。ショー=サナエは一旦地面に降ろされた。そして、そのままソイソーの後ろの方に歩いていった。そこで顔を上げながら体の向きを変えつつ頻りにキョロキョロとしていた。首の動きが止まった時などは、時折、まるで二人を急かすかのように、翼をバタつかせるという仕草を見せた。そんな様子をちょくちょく振り返って確認した後も、ソイソーはテリーとのお喋りを続け、その直後に黄色い嘴による注意を少年の足が受けたところで、ようやく二人は勝負の準備を始めたのだった。


 今後も、よろしくお願い致します。

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