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第一部   第一章    Na

 十月△□日

 …。その甥っ子の誕生日ならそろそろの筈だったから、俺も何を買おうか考えていたところだった。だが、恥ずかしがりやの甥っ子に珍しく、その時は自分で、図体がでかい俺の所に来て、言ったんだ。

 「おじちゃん。新型のカラクリ飛獣(フレマー)が欲しい。」

 色んな意味で驚いたよ。あれから一週間が経っていたが、まだ、覚えている。それ以外でも、妙な一日だったな、て思いたくなるような日だったから、尚更頭から離れないんだ。樽の中から飛び出した、アレのことは。そのまま扉を押して外に出ていっちゃって、それを誰に聞いても、

 「知らないぞ。」 「何だ、それ?」

ていう返事。

-中略-

 それ以来、少々恐ろしくなっていた時だったから、甥っ子に対してとっさに変なごまかしをしてしまったんだ。

 「ああ…あれなあ、夜中にいきなり飛び跳ねるから、止めたほうがいいぞ。」って、あれは恥ずかしいことだが、自分がうなされてそうなっただけなんだけどな。

 近くに居た嫁がそれを聞いてて、「分かった。買ってあげる。」って言ってくれた時は、何と言うか、救われた気分だったな。 -日記・「サントスの『しょくざい』」、より抜粋-

 数分後、門兵と話をしていた運送業者が話を終えて馬車の所に戻ってきた。


 「よし、運び入れるか。」非常に通りの良い低い声が少年の耳に聞こえてきた。そして、再び、何かがやって来る音が聞こえてきた。これは間違いなく、二人居る内の一人が向かってきているものだった。大き目の影が一緒に動いているのが、少年には見えた。その者は樽を退かしながら荷台の方に近づいてきた。樽を持ち上げる度に、「セイッ」という声が微かに出ているのが聞こえた。六回その声がしたところで、その者は動きを停めたようだった。今、彼は、陰に少年が隠れている樽の隣に居た。少年側から見て、右側の樽だった。運送業者の彼はズボンのポケットから樽の色と同じ茶色の手袋を取り出して素早く両方の手に着けた。そして、右の手で二度ほどトントンと蓋を叩いた。一拍の間を置いてから、彼はその樽に両手を掛けようと腰を落とし始めた。


 「(行ける!)」ソイソーはそう感じた。そこからの少年の動きはとても(ユマン)のものとは思えないものであった。業者が樽を持ち上げたのと同時に、少年はまずその樽の陰へと素早く身を移し、持ち上がった樽の上部が荷台の底からある程度の高さ、荷台に居る子供がその陰でしゃがんで半身だけ隠れる程度の所までになったら、勢いよく飛び上がった。


 「(おっと…、危ない危ない。またやるところだった。)」ソイソーは飛び上がる時に業者の持った樽と強く触れてしまった。樽は少々業者の方に傾いてその彼が足元をふらつかせたが、立派な筋肉を持った足で踏ん張ってすぐに体勢を元に戻した。「ふぅー、今日もか…。」樽はゆっくりと荷台に置かれた。


 「(まったく、あれを立ててから奥に運ぶようにしてくれるとこっちも助かるんだけどなあ。)」樽に続いて業者も荷台に上がった。彼は樽を横に寝かせるとそのまま転がして奥まで持っていき、そこで樽を元の立った状態にした。そして、彼は二個目を取りに戻っていった。


 「(よし、今だ。)」少年は再びその身を樽の陰に移した。業者が地面に降りたその時を見計らって、その音を旨く消すことにも成功して、見事にソイソーは馬車に潜り込むことができたのだった。


 「さーて、少しの間休憩しますか。」


 最初に、ソイソーは身を小さく屈めた状態になって飛び上がった。だが、このまま荷台に到達しても業者と鉢合わせになってしまう少年は、その小さく丸まった体が荷台に達するまでに、宙で僅かに前転をしていたのだった。そして、荷台に体が達したその瞬間に、頭と足を結ぶ線は地面と平行になった。まず、足を荷台に伸ばした。それから、残った浮いてる上体を支える為に、ソイソーは樽に少しだけ手を当てた。業者の彼がよろめいたのはその為で、今日は僅かだが、余計に力が入ってしまったのだった。雨の日だった時は、当てた力が弱かったのだけれども地面が濡れていた為に、この時以上に業者は体勢を崩したのだった。怪我をしなくてよかった、と思うほどであった。ソイソーはそうして自分の体勢を整えてから、全身を荷台に持っていった。


 しかし、このままでも、少年の存在はすぐに業者にばれてしまうのだった。だから、ソイソーは息吐く暇もなく、次の行動に出ていた。そして、その行動が終わった時には、業者の視界は樽から馬車の中に移っていたが、そこにはただ奥行きがあるだけであった。少年は業者の頭の上に居た。ソイソーは更に上、天井に跳んでいたのだった。


 業者が荷台に乗った後、業者が樽と共に奥へと進んでいくのに合わせて、ソイソーも、まるで蜘蛛のように天井に張り付いたまま二本の手と足をゆっくりと器用に動かして、男の上を進んでいった。因みに、お腹は上を向いた状態だった。樽が所定の場所に置かれた後は、そこの陰になる位置に下りる時に気付かれないようにすればいいだけで、そこのところも無事に成功したソイソーは、馬車が出発するまでじっとしていればいいはずであった。


 「やっぱり、あの樽は何かおかしい。」 「(えっ?)」


 次の樽を荷台の上に載せたところで、業者の彼が言った。「(バレた?)」ソイソーは焦った。確かに、樽の位置を少しだけ変えていたのだった。だが、ほんの少しだけだった。ソイソーは事前に、自分の柔らかい体をどう巧く使えばこの小さな空間に入り込めるんだろうか、ということも考えに考え抜いていた。そして、その答えが樽の数センチメートルの移動であるはずだった。信頼できる人にも保証して貰ったものであった。業者の彼が向かってきている音だろうか、コツコツという音、ガサガサという音が少年の耳に聞こえてきた。馬車の外で隠れん坊し始めてから一度も彼の顔を見ていない、いや、見えない位置に居続けてるはずだった。それじゃあどうして、と少年は考えた。分からなかった。段々と色々な音がしてきた。ガシャガシャという音、ザザザという音、サナという音と共に樽が勝手に揺れ始めた。「(サナ?)」


 「誰だ! その中に居るのは?」彼の低い怒鳴り声に呼応するように、樽は一層激しく動き出した。その陰では少年が必死に倒れないようにとそれを掴んでいて、傍から見ると、それは不自然な揺れ方であったが、彼はそのことに気付いていないようであった。混ざり合った音が今、一段と大きくなった。そして、次の瞬間、樽の蓋が勢いよく上に吹っ飛んだ。


 「サナエー!!」 「(やっぱり……。)」


 「何だ? いつの間にこ…このようなものが入っていたのか。」中から出てきた全体的に白くて翼を持った、業者の彼が思わずその場に立ち尽くしてしまうほどに可愛い顔をしたこの生き物は、翼を羽ばたかせることなく飛び出すと、ドンッ、という音を立てて彼の前に降りてきた。直後、その小さな者は左斜め前に居る大柄な男には目も呉れず、何処となくだが颯爽と駆け出していった。そして、そのまま、ドンッ、という音と共に馬車から降りていくと、業者の彼もその姿を見失ってしまった。少年はその姿を見ようとはせず、下を向いたままジーッとしていた。


 「…何だったんだ、いったい?」


 「おーい、何かあったのか? 急がないと時間に遅れるぞー。」白い飛獣(フレマー)みたいなのが今、と荷台の上に立っている男が言おうとしたのだが、彼の口は不自然な動きを伴いながら閉じていった。そのまま彼は左に置かれている樽をやや乱暴に寝かせると手早く奥に転がしていって、最初に置いた樽の隣でそれをぞんざいに立てた。彼はゆっくり振り返ると、平然と次の作業に向かっていった。


 「(取り敢えず…、助かった…かな。)」

 そろそろ一章が終わりますが、まだまだこれからも頑張っていきます。

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