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序   勇者 出会いし時

 仰け(のっけ)から盛大なあらすじ、申し訳ないです。

 自分が小学生の時に弟とレゴを使って遊んだ時の、いわゆる「ごっこ遊び」が元ネタです。

 文系というだけで、過去にそれ以上「文章」というものと縁の無かった者が書いたものですから、低俗な物であると感じられるとは思いますが、どうか、ご覧になってください。


 カシャカシャ……カサカサ…タッタッタッ…。一人の少年が雨水の漏れ落ちる薄暗い森の中を走っていた。辺りには靴音の他に、降っていたものが止んでいく時のような、頭の先から抜け出る感覚で妙に通りが良い、そんな雨音も聞こえていた。少年が履いてる靴の色は元々茶色であった。だが、今は、それが本当に生地の色か、あるいは、舗装されていないぬかるんだ砂利道を通ってきたせいであるのかが、判らないくらいの状態になっていた。


 「ハァハァ…、やっと見つけたぞ! あの山に本物の仙人が住んでいるに違いないぞ! これでテリーより先に修業してもらえるぞ!! クゥー、次の休みの日が楽しみだなー。」


 ジャッジャッ…ガシャ。足場の悪い中、少年の走る速度は増していった。少年は好きで砂と泥だけの場所を通っているわけではなかった。意図して近道を走っている訳でもなかった。この森は「城下町キィーバ」の西部に位置する、『アピルースの森』と呼ばれる場所である。ここは城下町から周辺の人里へと行くのに通る場所ではないので、いわゆる「道」というものが整備されてこなかった。雲ひとつ無い晴れの日のこの森はまるで深い霧がかかったように薄暗く、雨の日のこの森はより一層その暗さを増すのだが、不思議と雨の粒が、ザーザー、と地面へと落ちてくることは無かった。それは、この森を成す木々の葉一枚一枚が雨水を小さな小さな口でしっかりと受け止めて、木々がその体中全てに蓄えておくからなのである。だが、中には、生まれて間もない小さな葉や、年を重ねたことで今にも落ちそうな葉が幾らかあった。それらが吸収できなかった少量の雨水や、また、蓄えられていた木々の水が僅かに地表へ湧き出てくることで、この森の足場は常に湿った状態となっていた。その為に、森のどこを通ろうとも、大半の履物は元の色を留めておくことができないのであった。少年がこの日、茶色の靴を履いてきたのは偶々であったが、心の隅では、母さんにそこまでうるさく言われなくて済みそうだな、と少し安心していた。


 道が無ければ標は無く、乱立する木々はその高さも姿かたちも似かよっている為に、城下町近くの森といえども、迷ってしまって外に出ることができない、という事柄が多くあった。一年が約三百日のこの星だが、去年は、この森で六十二人が命を落としたという。しかし、この少年には右も左も無かった。時間の経過と共に上にも下にも行きかねないこの森を、少年は脇目も振らずにただ一直線に走っていた。その様は、異国の軽業剣士を思わせる風であったが、この少年、生まれ持った方向感覚はまるで野生の動物のようであり、少年が今よりさらに小さい頃は、町の市場で親との買い物中にはぐれても、少年の方が先に家に帰っていたりする、といったことなどは度々であった。


 少年は今、口から白い息を吐いていた。そして、森の出口、視界から木々だらけの情景が消えて城下町が見えるようになる場所までの、その最短経路をほとんど無意識のうちに走っていた。

 すると…、


 「…ナ…」


 突然、何か不思議な音が少年の耳に聞こえてきた。その音は、森の地面に僅かに湧き出る水の音に少々割り込むぐらいの大きさのものであった。少年は、自分でも何故だか分からなかったが、不意に足を止めた。

 「誰?」

 そう口にはするが、そんなことを言った自分に少年は驚きを感じていた。だが、すぐに、それが虫の動いた音であるとか、葉の舞う音などではないということを感じた。(ユマン)かどうかは分からないけど何かが居る、少年にはそう感じられた。

 

「…ナエ」


 声の主は近くに居る、そう思って少年は耳を澄ませながら周りを見廻した。しかし、辺りには森の木々があるばかりで、狐一匹見当たらなかった。少年は慎重に歩を進めつつ耳をそば立てた。冬が過ぎて春になったばかりのこの時期、少年は半袖と膝までのズボンという服装で、しかも、森の外の様子を想像させるほどにそれらは濡れていた。そのような格好でただ歩いているだけというところに、悪天候で冷えた森の空気が容赦の無い攻撃を仕掛けていた。それでも、少年は手を擦ったり軽く飛び跳ねたりしてその攻撃に耐えようとするだけで、早く町に帰ろう、という気にはならなかった。


 「…サナエ」今、少年の耳には何となくとそう聞こえた。それがどういう者の声かということは分からないが、少年はとにかくその方向に走っていった。カシャ…クチャ…。ぬかるんだ地面に接触する靴の音は先の時よりいっそう軽快で且つ音も小さくなっていた。少年が家を出てから五時間近く経っていた。そのほとんどの時間走りっぱなしであったが、今も、全く疲れている様子が無かった。食べ物と飲み物を準備してきた為、それらが無い今のほうが走り初めの時よりもずっと走りやすい、ということもあるようだった。まもなく、これらのただ殺風景なだけの木々の中にあって一際目立つ巨大な樹が、少年の視界に入り込んできた。


 「サナエ!」


 声はここからしているようであった。それにしても変な木だ、と少年は感じた。森にある他の木々は、それが緑の葉を付けているかどうかをかろうじて確認できるくらいに、高い所から枝葉が出てきていた。ところが、目の前にある樹は、身の丈120センチメートルの少年が、後十年成長すれば跳んで届くくらいの位置に緑の葉があり、それでいて、他の木々の十倍近くの太さと天まで伸びていそうなくらいの大きな幹を持っているのであった。


 少年は足元を気にしながらその巨大な樹を見上げて歩き始めた。けれども、比較的低い所から枝葉が出ていることもあって、中々、枝と枝の間や上のほうが見えなかった。少年は、その声が飛獣(フレマー) -翼を持つ種族- の子供の鳴声ではないかと思っていた。というのは、最初に聞こえてきた時に、その声が甲高く心地いい響きのあるものだったからであった。少年が感じた根拠はそれだけで、大変曖昧なものであったが、少年はとても勘の良い子供であり、大体いつもそのようになっていたのだった。そして、少年は、その飛獣(フレマー)が翼を怪我して木に落ちてしまっている、そう感じているのであった。


 「あっ、」ふと、何かに足が掛かってその場に転んでしまった。運動神経の良い少年には珍しいことであった。その時に、ほとんど音無く少年はうつ伏せの状態となったが、すぐに、立ち上がった。


 「痛えー。何だよ、これ? どうしてここだけへこんでるんだ? あれ…、この光、何だろう?」そう思って少年は足元を見た。ちょうどこの樹を見廻して一周したところであった。そこは1メートル四方くらいの広さの窪みになっていて周りから二十センチメートルくらい沈んでいた。そこには少年の小さな手の平ほどの大きさに輝いている不思議な光があった。少年はその光を見ているだけで何か懐かしい気持ちになった。この冷たい空気のあふれるアピルースの森から、遥か彼方、暖かきエクノアの地へと飛び立っていくような、そんな感じにさせるとても不思議な光であった。そのような夢心地のまま少年はその光の中に吸い込まれるように手を伸ばしていった。


 「あ、光が…。」再びこの薄暗い森へと戻ってきた時には、目の前にあるその光が音もなく小さくなっていくところであった。突然に訪れた不思議な感覚がぼんやりとした残像を頭の中に置いていった為か、少年はその様子をただジーっと眺めているだけであった。


 「(何だよ、『エクノア』って…。)」


 ゴォーッ……。


 光が消えたのと同時に、少年の居る石畳が地響きと共に突然下がり始めた。少年は慌ててそこから立ち上がろうとしたが、体の自由が利かなかった。この揺れの為か、それとも別の何かか。いずれにしても、少年は地震の起こらない国で暮らしているので、この揺れに正しく対処する術を知らなかった。少年は呆然とするだけで、石畳の向かう場所へと進むしかなかった。


 ゴー…、クォーン・・・。


 森に突如として現れた石の昇降機は、少年が思うよりも早くに停止した。上を見た感じだと、どうやら外から二階分の高さだけ地面の下へと降りてきたようだった。そこは地面の下だというのにあまり暗くなかった。家の物置部屋みたいに狭い所だったが、奥に(みち)があった。地上の明るさがここに入ってきている、という訳ではなかった。この先にある通路の方も、はっきりではないが、その様子が分かる程度の明るさがあった。


 少年はゆっくりと足を踏み出した。この先に居るに違いない、少年は強くそう感じていた。まるでもっと昔からそれを知っていたかのようにも、少年は感じていた。少し進むと、通路は緩やかな右の曲線状になっていた。少年は今、普段歩く速さの半分くらいでその通路を歩いていた。天井の高さが気になっていたからであった。通路は少年が立ったままでぎりぎり歩けるくらいの高さしかなかった。いつもなら、大巨人に成れたみたいだ、凄いとこだなー、とかを思うような少年だったが、そう感じることは全く無く、むしろ、自らの体の大きさを考えている自分が体のどこかに居る、そういった妙な意識があるのだった。


 右の曲線を進んでいって、ちょうど入った時と逆の方向に向く形になったところで、通路は曲線が終わって再び直線になっていた。そして、同時に、その奥に明るくなっている広間があるのを、少年は確認できた。少年は急に、駆け足になった。そこには何が居るのか、その気持ちと自分でも分からないあの光への渇望が、少年の心を昂らせていった。

 「サナエ」少年の耳に声が入ってきた。この小さな洞窟に入ってくる前と変わらない声の大きさであったが、少年はその事には全く気付かずに広間に走っていった。


 「サナエ!」


 そこには可愛らしい姿があった。全身には白い羽毛が生えていた。頭にはこぶにも似た小さなトサカがあり、丸い顔には真ん丸の目が、もちろん、二つあって、その下で黄色の嘴がパクパクと動いていた。嘴は、少年の拳が二個入るくらいの長さと大きさがあった。体は曲線を描いていて、こちらの方は少し横に長く若干の奥行きもあった。足はあるのだろうが、柔らかそうな体に隠れて見えないでいるのが、愛くるしい姿をより一層引き立てていた。そして、その愛らしい存在は、少年が予想していたように、翼を持っていた。少年の姿を目にして嬉しいのか、体の側面を ぎりぎり覆っているその楕円形の翼を数回バタつかせて、


 「サナエ、サナエ。」と言った。


 「可愛いなー。お前、こんな所で一人ぼっちなのかい?」少年は近所のちびっ子を相手するかのように話しかけた。

 「サナエ、サナエ。」少年には相手が頷いているように見えた。少年が軽くその頭を撫でると、相手は目を細めて嬉しそうな表情を見せた。そして、足を折りたたんで座っていたと思われる体勢から、立ち上がる仕草を見せ、その非常に短い足と決して大きくはない翼を使って、歩くというよりは、むしろ、飛び跳ねるような格好で少年の方に進んできた。少年の足のところまで来るとそこで体をくっ付けて少年に寄り添い始めたのだった。その光景はあたかも親の愛情を求める子供のようであったが、少年は、逆に、自分に触れているこの小さな体に非常に暖かな温もりを感じているのであった。


 「独りぼっちは嫌だよなー。よし、これからは一緒に暮らそう!」

 「サナエ!」少年の声を聞いて、その場で翼を使って数回跳ね上がった。そのような仕草を見ているだけで少年は自然に嬉しくなっていった。


 少年はゆっくりとしゃがんでそっとその可愛らしい存在を持ち上げた。立ち上がる時に、少年は少しふらついてしまった。その存在は体の割りに意外と重かったのだった。少年は一度両手と体でしっかりと抱え直した。その時の体中を覆う白い羽毛が腕を包み込むようなその感触は、何ともこの世のものとは思えないほど素晴らしいものであった。それは文字通りで、少年にとってはその表現は難しいものであったが、自分とこの可愛らしい子は同じだったに違いない、という感覚が沸いてきそうな瞬間であった。


 少年はその場で右回りの反転をした。今日この日に得ることができた全てのものに対する満足感というのを、顔全体で表現しながら通路へと歩いていった。その広間の小さな可愛らしい存在が居た辺りには、小さく輝くものがあった。しかし、少年はそれに一切気付くことは無く、その輝きは地の中に消えていった。


 少年は出口の所までやって来た。通路は入ってきた時より少し暗くなっていたが、ウキウキ状態で且つ運動神経、方向感覚が抜群の少年には、それは何でもないことであった。入って来た時に使った石の昇降機は、少年が通路の左曲線部を過ぎたところで、上からゆっくりと降りてきていた。音を立てて地面にその石畳が着いたところで、少年の足はちょうどその一歩手前を踏んだところだった。後ろを振り返ることなく、そして、体勢が崩れることなく少年は大きな石の上に乗った。石の昇降機は降りてきた時と同じような揺れと音を出してゆっくりと上昇していった。少年は前を見ていて、腕の中の小さな存在は上の方を見ていた。


 ゴォーッ……。


 外の空気を感じるのは昇り始めてすぐであった。地面の下といっても比較的浅いものであったので、外の風景もすぐに見えてきたのだった。少し明るくなっている気が、少年にはした。


 ゴー…、クォーン・・・。


 やはり、周りの土よりも少し低い位置で、石畳は動きを止めた。すると、昇降機は、何の合図も示さずに、少年の目に留まることもなく、その色を灰色からこの森の地面と同じ色である薄茶色へと変化させていったのだった。少年達が忘れてしまったなら、その場所が地面の下へと通じている昇降機となっていることを、誰もが認識できない状態へとなってしまったのだった。


 「よし、それじゃあ家に帰ろう。僕の家はねえ、えーっと…、こっちだよ。」少年は、この目立つ巨大な樹以外は、ひょっとしたら、枯れているのではないか、と思うくらいに、低い位置に緑が存在しない木々が沢山あるこの風景を、一通り見渡してから、ただ一点を指差して、当初の半分くらいの速さで走り出した。腕の中の小さな存在は首を左右に廻しながら周りを観察している風であった。時々、一転をジーっと見ては動かなくなることがあったが、それはいずれも上を見ているときであった。下を見て止まったのは少年が走り出してすぐの時だった。少年は、またも、何かに足をとられそうになったのだった。その時に、少年は重要なことを思い出した。走りながら少年は言った。


 「そうだそうだ、言い忘れていたね。僕の名前言うの。僕の名前はソイソー。

ソイソー=マルクス=ローレスっていうんだ。君は何ていう名前なの?」


 「サナエ!」今までに無く大きな声であった。


 「うーん、さっきからそれしか言わないよねえ。」ソイソーは足の動きを緩めていった。やがて、足の動きは完全に止まって、少年は右に左にと首を傾げ出した。そして、普段はあまり近づくことのない授業中の記憶を覗き込んだ。抱えられたままの「サナエ」としか言わないこの存在は、そのまま固まって動かなくなってしまったソイソーに、何かあったの、と聞くかのように翼で少年の腕を軽くパサパサと叩いていた。


 一分ほどして、少年はその中から抜け出してきた。口の中に必要なものを入れた状態であった。

 「よし、これから君の名前は、『小さい』を意味する『ショー』っていう魔法言葉 -正確には『魔法言語』- と、君の鳴声の『サナエ』を併せて、


ショー=サナエだ。」


 「サナエ!」


 ショー=サナエを抱えソイソーは再び走り始めた。先ほどよりも速く、ショー=サナエと出会う前よりも速く、今日一番の速さで以って、足を動かしていた。目の前から紅い光が見え始めていた。森の出口はすぐそこなのであった。

 登場人物の名前に、「これ、・・・に出てくる奴じゃね?」というのもあるかと思いますが、ほとんどは、様々なジャンル(スポーツに偏り有)の有名人を参考にしたものです。

 因みに、「ソイソー」という名前。これは正直言います。借りました。

 スイマセン。

 裏話になりますが、父親が「○○剣士」とうことを意識していて付けました。そこまでをお借りした訳で、それ以上の接点はありません。

 どうぞ、ご容赦を。

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