おっさんの思い出話の日々
俺が冒険者ギルドへ行ってもう2か月が過ぎた。
次の更新がもう一カ月を切っていると思うと憂鬱になる。
毎日夜は早く寝て昼過ぎに起きるという睡眠時間を数えたくない日々をすごしている。
そんなある日、夜も遅い時間に誰かの話声で目が覚めた。
隣の部屋から女同士の金切り声が聞こえる。
喧嘩なのか、女将が宥めている声も聞こえるが火に油どころかガソリン入れている感じにスグにヒートアップして取っ組み合いが始まった。
音もスゴイが振動も凄い。
俺は布団を頭まで被って再び夢の中に旅立とうとしていた。
その時、壁が壊れベットごと吹き飛ばされた。
超痛い。おじさん、泣きそう。
さらに、うつぶせに倒れている俺に誰かが倒れてきた。
重い。あと、すごく酒臭い。
伸し掛かっている女を見ると、見知った顔だった。
「………えーっと、あれだ。あの時の。」
誰だっけ?とっさの事に言葉が出てこないのがおっさんだ。
「!お、お前は!見つけたぞ!勝負しろ!」
ああ、勝負で思い出した。
初めてあったのは10年くらい前だ。
たしか、数少ないAランクの冒険者で、やけに俺に絡んでくる女だったな。
ボンキュッボンのナイスバディで金髪、洋物のアレに出てきそうだ。
長剣を両手で振り回し高レベルの身体強化の魔法でドラゴン退治も経験があるとか。
そして、ソロでCランクを楽々クリアしていく俺に興味を持ったらしい。
当時は2週間に1回の頻度で依頼を受けていたから、目立っていたんだよな。
んで、目を付けられて勝負を挑まれたんだ。
当時はまだイケイケ路線だった俺は勝負に応じてしまった。
冒険者ギルトの訓練場を借り多くのギャラリーが見守る中、俺たちは勝負をした。
セクハラまがいに寝技に持ち込もうと下心まる出しだった徒手空拳の俺と、模造刀の彼女。
最初の攻撃を避け、捕まえ寝技に持ち込む。そのさいにどさくさに紛れてあんな所やこんな所を触ってやろうって思っていた。
が、最初の攻撃が避けられず、一発で終わった。
横なぎの剣撃は俺の腕と肋骨を折った。
あまりの痛さに三途の川の向こうから親父が手を振っている光景が見えた。
あ。親父死んでねぇや。
ギャラリーに居たヒーラーに回復魔法をかけてもらい、傷は完治したが、対戦相手の彼女は納得しなかった。
真面目に勝負しろと付きまとってくるようになった。
そこで、俺は冒険者ギルトに行くのを午後の時間にし、行く頻度も低くなっていくうちに、3カ月に一回という今の現状になった。
懐かしいな、って思い出に浸っている場合じゃないな。
「おい、どいてくれイリマ」
「私の名前はイリアだ!何度も間違えるな!」
ああ、そうだった。昔、入間市にいた事があったから、ついつい言い間違えてしまうんだ。
「んで、そのイリアさんが何でこんな所にいるんだ?」
「…隣の部屋は、私が長期で借りている部屋だ」
なるほど、気が付かなかった。
他の冒険者と会うのは彼らが休みの日だけだからな。休みの日でも活動的な人だったら朝から出かけていて
会うこともほとんどないからな。
イリアが俺の上から起きたんで、俺も起き上がった。
部屋の中が滅茶苦茶だ。ベットは壊れているが敷布団と掛布団に被害がなさそうだ。
「それで、喧嘩の原因はなんだ?おじさんに話してみろ。解決できるかもしれん」
「それは助かります。私はナーガと言います。そちらのイリアと一緒にパーティーを組んでいます。」
ナーガは亜麻色の髪をした細身の女だ。装備から察するに弓使いか。
「いいわね。ラグに答えを聞きましょう。それで、喧嘩の理由だけど…」
イリアが言い淀んだ。てか、腕を組んでいるから胸が強調されていてエロい。
「「どの男性が一番カッコいいかで喧嘩になったのよ」」
あちゃー、俺には解決できそうにないな。
「私は努力して結果を出してきた青年冒険者がカッコいいと思います」
ナーガが言う。わからんでもない。
「やっぱり、渋いオジサマとか素敵じゃない?頼れる男性って憧れるわ」
イリアが言う。まぁ若い女性が年上に憧れるのはありがちだよな?
「いえ、やっぱり年下の少年よね?夢と希望に溢れた感じがキュンとしちゃうわ」
…女将、お前もか。
「お前らの言いたいことは、よくわかった。俺が言えるのは自分の好みを相手に押し付けない事だ。いいか、よく考えてみろ。ベテランのおじさんの冒険者と彼に指導してもらっている青年冒険者がいたとする。そこで、出会った君たち2人。もし、お互いの好みが一緒の場合、これ以上の喧嘩になるかもしれない。今のようにそれぞれの好みが違えば、皆ハッピーになれるじゃないか?」
「「たしかに」」
「少年冒険者は出てこないの?」
女将よ、あんたは旦那もいて子供も3人いるんだ。見た目は若くて美人だが、不倫で刀傷事件だけは勘弁してくれ。
「…2人ともパーティーを組んでいるだ。お互いを尊重しあうのが仲間じゃないのか?」
「「………」」
イリアとナーガはお互い見つめ合って何か言いたそうだが言えない感じだ。
「今日はもう遅い、一旦休んで明日また話し合ったらどうだ?」
2人とも口を開きかけたが、俺が止めて何も言わせないまま、それぞれのベットへ入らせた。
俺の隣の部屋ってツインルームだったのか。初めて知ったぜ。
破壊された壁から自分の部屋に戻り布団を床に引き直し中に入った。
「で、私好みの少年冒険者はいつ出てくるの?」
女将…