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死にかけネクロマンス  作者: 絹のタオル
第ーーー章
9/12

物は使い様

 まずは、この柵をどうにかしなければ。


 現実逃避から帰ってきた僕は壊してしまった柵について対処することにした。

 とは言っても、三歳の僕に大工仕事はできないし、まずするべきことといえばクシナ母さんを呼ぶことだろうか。

 だが、家の一部を壊したとはいえ、まだ魔法院で仕事をしているであろう母さんの邪魔をするのはさすがに心苦しい。

 ここは別の対処の仕方も考えてみるか。


 そんなことを考えながら、周りの様子を確認しつつ、ヒルダの様子を見てみる。

 ヒルダの方をみてみると現実逃避しているというよりは、何かにおびえて震えているようだった。

 震えながらも先ほどの魔法を放った自分の手を見開いた目で見つめていた。


 思うに、さすがに軽く放っただけの魔法があれだけの威力を持っていたことに恐怖を感じたのかもしれない。

 いくら一番弱い部類のものだったとはいえ、攻撃魔法と呼ばれているものを小さい子に教えるのは僕の考えが足りなかったように思える。


 魔法を教えた者として、いや、それ以前に僕自身の気持ちとして、この子が今後魔法に対して過剰な恐怖心を抱いてしまうのは忍びない。

 この子が魔法への興味をなくさないように、魔法への恐怖心をどうにかして適当な形に収めなければ。

 今回の経験を魔法を使うことそのものへの恐怖にしてしまっては今後支障が出るだろうが、魔法を適切に使うことの教訓として覚えてもらうのならばちょうどいいと思う。


 そう思った僕はヒルダのそばに寄って背伸びをすると、ヒルダがぼんやりと眺めていた両手をとって尋ねた。


「ヒルダお姉さん、大丈夫ですか?」

「う、うん、ちょっとびっくりしちゃったけど、大丈夫...」

「無理しなくていいですよ。さっきの魔法はさすがに僕もびっくりしました。」

「でも、ダイ君のお家の柵が」

「あの柵を狙うようにいったのは僕ですよ。

正直へし折れるとは思ってませんでしたけど、それでも、魔法の標的にしたからには壊れることも考えてましたし。」


 実際は、ボールをぶつける程度の威力の魔法であの丈夫な柵が壊れるなんて全く思っていなかったが、ここは壊れることも想定済みだったと言って安心させよう。


「それにヒルダお姉さんとは今日あったばかりですけど、物を壊そうとして魔法を唱えるような人じゃないことは今の様子でわかりますよ。

 それより、ヒルダお姉さんはあれだけの魔法を使って大丈夫でしたか?たぶんかなりの魔力を使ったと思いますが。」

「う~ん?疲れたりしてないよ。怪我もないみたいだし。

 それよりも、柵こわしちゃって本当にごめんなさい。」

「柵のことは気にしなくていいですって言ってるのに。

でも、体に異常がなくて安心しました。魔法を撃ってみた感覚の方はどうでした?

本に書いてあるよりも強力でしたけど、さっきまで使ってたほかの魔法と違う感じとかありました?」


 あれが暴走とかそういった制御化にない現象ならば、今後また暴発して怪我をすることになったらそれこそトラウマになりかねない。

 それだけは今のうちに確認しておかねば。


「ううん。ほとんどさっきまでの魔法と一緒で、風が手のひらにスッと集まってくる感じが強かっただけだよ?

さっきまでの魔法より強い魔法だって聞いてたからこれがそうなのかな?って思ってたんだけど、どうやら違ったみたい。」


 僕は異常がなかったことにほっとしていた一方、ヒルダは釈然としないようだった。

 象耳はぺたんと垂れ下がり、ヒルダは自分が魔法の威力を調節できなかったことにしょげているようだった。


「まぁ、魔法を使えない僕が言うことじゃないかもしれませんが、初めてのことだったのですし仕方のないことだと思いますよ。

それよりも、ヒルダさんはさっきの魔法をこれからどうしたいと思ってますか?」

「え?どうしたいかって...よくわからないよ。」

「さっき自分の手を見て震えてましたよね?あの魔法が怖くないですか?」

「それは...だってあれをもし柵に向けて撃ってなかったら大変なことになってたもの。

魔法の名前だけを聞いて唱えてみようと思った時なんてどこに向けるかなんて考えてもいなかったし。」


 まあ、考えれば考えるほど怖くなっちゃうよな、こういう事故の類は。

 だからこそ僕にはこの子に伝えなくてはいけないことがある。


「うん、怖いですよね。その怖いという気持ちは忘れないでください。

でも、魔法を使うこともやめないでください。」

「え?二度と使わないようにするんじゃないの?」

「確かにあれを人にぶつければ、大惨事になると思います。

でも、クシナお姉さんは狩りで魔法を使おうと、おばあさんの手伝いをしたいと思って勉強したんですよね?

なら、使わないようにするんじゃなくて、使いこなせるようになるべきです。」


「でも、また物を壊しちゃうかもしれないじゃないの。」

「なら壊さないように今度はもっと広くて壊れるもののないようなところで練習しましょう。

今のままだと、いざ魔法を使いたいって時になっても使えないままで悔しい思いをするだけです。

おばあちゃんが助けてほしいって時に助けることができないのは嫌ですよね?」

「うん。だけど、」


「大丈夫ですよ。」

「へ?」


 僕がそういうとヒルダは不思議そうな顔をしてこっちを見てきた。


「大丈夫ですよ。だって、柵を壊した後で『ごめんなさい』って言ってたじゃないですか。

物を壊してごめんなさいって言えるお姉さんなら、もう魔法を使うときは使った後で大変なことにならないかどうか考えられるようになってますよね?

それなら大丈夫ですよ、だってお姉さん自身がそうならないようにしてくれるんですから。」


 結局物は使い様だと思う。

 どうしたって何かをするときにはリスクを伴うときがある。

 けれど、だからと言って何もしなくていいわけじゃない。

 リスクを減らすために対策をして、結果を得るために試行錯誤することが大事なんだと思う。


 さすがにこのことを目の前の少女に伝えられる言葉はすぐに出てこなかったから変な言い回しになってしまったけれど、この気持ちが伝わってくると嬉しい。


「う~ん、ちょっと何言ってるのかわからないとこもあったけど...でも、そうね、私が使ってもいいかどうか考えればいいんだもんね。」


 やっぱりわかり難かったか...でも、なんとなく最低限伝えたいことは伝えられた気がする。

 今後は咄嗟に気の利いた言い方ができるように頑張らないといけないな。


「うん、だいぶ気が楽になったよ、ありがとね、ダイ君。」


 まぁ、今回は何とか伝えられたみたいだからよしとしようか。




 さて、それで次にこの壊した柵についてどうしたものか、ヒルダお姉さんと話し合ってみた。


「とりあえず、僕らだけじゃ直せませんし、ヒルダお姉さん、お母さんを呼んできてもらえますか?」

「え?こういう壁を直す呪文とかってないの?」


 あー、確かにさっき流し読みした中級の魔法書の目次に土壁を作る魔法があった気がするが、


「ヒルダお姉さんはさっきの後で、魔法を制御できる自信あります?」

「あ、ないね。うん、それはあきらめよう。


 でも、ダイ君をここに一人で置いていくのはできないよ。」


 え、なんで?魔法院なんてすぐ隣なのに。

 僕がそうやって不思議そうな顔をしていると、


「だって、魔物がくるかもしれないじゃない。

まあ、この村に魔物が入ってきたことなんて今までないらしいからまずないけど、おばあちゃんにいつも『子供を外に一人でいさせるんじゃない』って言われてるし。」


 ヒルダはおばあさんの真似(?)をしながらそう言った。


 たしかに、この柵がここまで頑丈に作られていたのは魔物対策の一つだったのだろうし、それが壊れた今、一人で留守番しているのは危ないな。

 けれど、


「僕まだ三歳ですよ?家の外に出るのはいけないんじゃないですか?」


 一応五歳まで家の外にでてはいけないはずならば、柵が壊れた程度で例外として外に出てもいいものだろうか?


「え?私が一緒に行けば何も問題ないよ?それよりもずっとこのままほうっておく方がまずいよ。ほら、早く行こう?」


 そういって、有無を言わさず玄関の方へ連れていかれる。


 あるぇー?いいのかな?お母さんの話していた感じだと誰かと一緒に行くのもいけないような気がするんだけれど。

 まあ、折角家の外の様子を見に行けるチャンスだし、ここは素直に連れていかれるとしようか。

 予定より二年も早く見れるとなると、アクシデントも悪いことばかりじゃないな。

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