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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
7/80

最弱上等!!

「最……弱……?」


 呟きながら、アレンはダウトの言葉を思い出した。ランク付けは云わば、ふるいに掛けるようなものだと。言い換えれば、最後までしぶとく残る者が魔王、その他の落ちていく大多数の行く先は『死』ということだ。

 言わずもがな、ランク百位の生存率はほんの微々たるものとなる。実質、余命宣告だ。


「……ふざけんな」


 怒りの言葉は自然と洩れていた。突然両親を殺され、友人と引き離され、挙句の果てに魔王になれと言われたら今度はほぼ確実に死にますよ、との宣告。

 理不尽すぎる。何もかもが。

 その巨大な怒りに、魔王の血が反応する。瞳と髪が黒を帯び始め、力が止めどなく湧き上がる。躍動する血が力を開放しろと喚きたてる。破壊の衝動が以前よりも強く襲いかかる。力を開放したい欲求を抑えながら低い声で言う。


「約束したんだよ……いつか絶対、返るって。死ぬわけにはいかねえんだよ……」


 アレンの瞳と髪が完全な黒に染まった。漆黒の眼でアレクサンダーを睨みつけ、腰を落とす。

 そして次の瞬間、アレンは今まで必死で押さえつけていた全てを開放した。風のような速さで瞬く間に近付くと、鉄拳を一発アレクサンダーの顔面目掛け振り抜いた。

 当然の如く、右手でガードされるがそんなことお構いなしに左足での蹴りを放つ。しかし、顎目掛けて出された蹴りは、感慨もなく今度は左手に防がれた。


「……おい小僧。何のつもりだ」

「アレクサンダー……よく覚えておけ!! 俺は魔王になる。そして魔族と人間をまとめ上げる。争いのない……平和な世界を作り上げる!!」

「ガキが……やれると思ってんのか? そんなのはただの理想論だ。人間と魔族の共存が不可能だという事は、歴史が証明している」


 アレクサンダーがそう一蹴したが、アレンは不敵に微笑み言った。


「俺が……歴代の魔王全てを超えればいいだろ? 今までが無理でも、これからの可能性はあるはずだ。だったら、俺がその可能性を百にしてやるよ」


 そう言い切ったアレンだが、内心では少し後悔もしていた。こんな大見得を切った所で、達成できる可能性はほぼゼロ。加えてアレクサンダーはかなりご立腹のようだった。

 たっぷりの沈黙の後、果たして恐れていたことは起こってしまった。


「小僧……死にたいらしいな」


 アレクサンダーの周辺の空気がパチパチと放電を起こし始める。それは次第に強くなっていき、一つの形を作り始めた。高さは推定三メートルほど。その兵器に触れれば、半径四、五メートルは焼け焦げるだろう。

 数十万ボルトの塊が創りだした形は鎚。アレクサンダーは一指指を下へ曲げ呟いた。


「神の雷鎚ミョルニル


 凶悪すぎる力を持った神の鉄槌がアレン目掛けて襲いかかる。というのに、リアルすぎる死の予感に体は動かない。ただ呆然と見つめるしか出来ない。

 

 だが、そこに一人乱入者が現れる。


「そこまでです」

 

 その乱入者はアレンの間に現れると、横目で襲いかかる雷鎚をチラリと見やって手をかざした。瞬間、透明な何かが張られ衝突した。

 瞬間。轟音をまき散らしながら、雷鎚は打ち消された。あまりに呆気なく、そして唐突に去った命の危機にほっとしながらも、アレンは声を掛けた。


「なんつーか……ありがとう、でいいのか? セバス」

「礼には及びませんよ。主君を守るのは、世話係として当然の事ですので」


 当然そんなはずもないのだが、アレンは混乱しているのか納得した。そんなアレンの無事を確認したセバスはアレクサンダーの方へ体を向けた。そのまま無音で近付いていく。


「さて、事情を説明していただきましょうか。何があろうと手は出さない、と約束しましたが……これはどういうことです? 魔王様」

「っは。万が一の為にどうせ見てたんだろう。その小僧のどこが良いのかは知らんが」

「……まあ、言っても聞かないでしょうしね。別に良いでしょう」


 ジロリと睨んでおいて、セバスははあ、とため息を吐いた。流石の魔王もそれは気まずいのか、少し慌てたように、しかし確かな威厳を以て話を変えた。


「おい。龍人族ドラゴニュートの長。来ているんだろう。話がある」


 その声に、ダウトは一瞬で姿を現した。アレクサンダーの前で跪き、頭を垂れる。


「何で御座いましょう。魔王様」

「ああ、お前をある候補者の世話係に命じようと思ってな」

「は!? いやそれは……」


 ダウトは思わず顔を上げた。が、すぐに気付き再び頭を垂れた。それを見て、アレクサンダーは話し始めた。


「そこの小僧の世話係としてセバスとお前を配属することは、随分前から決まっていたことだが、状況が状況だ。いくら『あの方』の頼みだとしても、ランク百位に族長クラスは就けられん」

「しかし……!!」

「これは命令だ。お前には他の候補者へ就いてもらう。異論は認めんぞ」


 こう言われては、もう言い返すことは出来なかった。魔王の命令は絶対であり、覆ることはまずないのだ。ダウトは戸惑い、諦め、悔しさなどのあらゆる感情が入り混じった声で承諾した。









 


 時は進み、アレン、ダウト、セバスの三人は、魔王城より少しばかり離れた平地に来ていた。雨がポツポツと降り、三人を濡らす。これからダウトは向かうべき場所へ向かう。つまり、今後アレンとダウトは会うことはないかもしれないのだ。

 そんな状況で第一に口を開いたのは、ダウトだった。


「さて、あまり湿っぽくなってもな。俺はそろそろ行くよ」


 ダウトは少し笑って見せて、歩き出した。しかし、途中で立ち止まり振り返らずに言った。


「最後に一つ。独り言だと思って聞き流してくれても構わない。お前の両親についてだ」


 アレンはその言葉にピクリと反応し、眉を上げた。何か言いかけたが、寸でのところで我慢し、耳を傾ける。


「掟とはいえ、お前の両親については本当に済まないと思っている。本来なら、お前には俺の知る限りの知識を教えようと思っていたんだ。だが、それもできなくなってしまった」


 数秒の間をおいて、ダウトは噛みしめるように呟いた。


「許せとは言わん。恨まれても、殺されても文句は言わん。ただ、本当に済まないと思っている。……それだけだ」


 ダウトは歩みを再開した。アレンは声を掛けず、ただ見ていることしか出来なかった。それはアレン自身にも不思議だった。確かにダウトが憎いか、と聞かれればイエスだ。だが、なぜか実行に移そうという気にはなれないのだ。その変な感覚を紛らわすように、アレンはもう見えなくなっているダウトに向かい叫んだ。


「……やってやるよ、成り上がってやるさ!! 『最弱』の魔王候補? 上等だ!! どんな障害だろうと関係あるか! 全部乗り越えて、壊して……『最強』の魔王になってやるよ!!」


 

リメイク前と大分展開が変わってきました。次回は最近放置気味のあのキャラが出てきます。

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