魔法修行開始
色々と詰め込みすぎたかも……
アレンが魔王の力の制御(セバスとアレンが苦悩の末、《トランス》と名付けた)に成功した時から、はや六ヶ月が経とうとしていた。この六ヶ月、セバス指導の下あらゆる格闘術、動作、型を学び、独自の戦闘方法を体得したアレンだが、元々が元々。半年掛かってようやくスタートライン、と言ったところだ。
「……で、今日から魔法の修行に入るのか」
「ええ。といってもまずは基礎用語の確認からですが」
決別の森最深部。世界有数の危険地域である決別の森でも、最も危険と言われる場所であり本来ならこのように呑気に話せる場所ではない。はずなのだが、その威厳もセバスと言う世界最強に近い人物の前では消え失せる。
邪魔をするな、という威圧感のみで魔獣たちを黙らせながらセバスは説明を始めた。
「まず、基礎的な用語として『マナ』『覇動』『魔力』の三つ。一つ目のマナとは、この世界全体に満ちている全ての元となるエネルギー。生物が生命を維持できるのも、大気が清潔に保られているのも全てこのマナの力によるもの。そして、そのマナを呼吸と共に人間が取り入れると『覇動』に、魔族が取り入れれば『魔力』となります。ここまで大丈夫ですか?」
「世界に満ちているのがマナ、人間が使うのが覇動、魔族が使うのが魔力ってことだろ。一応理解できたぜ」
セバスは頷き、ではと前置きし続けた。
「次は覇動と魔力の相違点について。これらの違いは二つ。一つは人間が使うか魔族が使うか。そして二つ目は……力の方向性」
アレンが眉をしかめ「方向性?」と呟いた。それを放置し、説明を続行する。
「覇動が回復や付加術、衝撃波などを扱う言わば――『防衛型』とすれば、対する魔力はほとんどが自然の属性による、殺傷能力の高い攻撃魔法であり言うなれば『攻撃型』。特性が真逆なのでございます」
「なるほど」
防衛に長けた人間と攻撃に長けた魔族。それはある意味、両種族の現状を表している。アレンはそんなことを心の片隅で思いながら、次のセバスの言葉に耳を傾けた。
「そして、人間が覇動を用い超常現象を起こした場合は『魔導』、魔族の場合は『魔法』とそれぞれ呼びます。例として、人間界の王が一人フウカの二つ名が《魔導王》なのに対し、魔界の最高幹部『五角魔将』のキリク様は『魔法王』と呼ばれています」
「紛らわしいな。そうまでして分けたいもんか?」
「そう言うものなんですよ。人間と魔族は争う事を宿命付けられていますからね。……話を戻します。次が最後ですよ。魔法の発動方法について説明します」
セバスはそこで言葉を切り、両手をパンと合わせた。直後、その手を地に付くと、複雑な構造をした魔法陣が広がりその上にちゃぶ台が出現した。
「これが、ある決まった動作を行う事で魔法を発動する方法――『フォーム』。ちなみに動作は人それぞれで絶対と言うものはありません。そして」
セバスは早口で何かを呟き始めた。すると、またもや同じような魔法陣が広がり、今度は大きめのタンスが現れた。何故こうも生活感あふれる物を出すのか、と疑問が沸くが心のうちにしまっておく。
「これが、呪文によって魔法を発動させる『スペル』。こちらも、特に決まった言葉はありません。また、フォームとスペルでは、スペルにより発動した魔法の方が効果は高くなります」
セバスは軽く手を振ると、召喚したちゃぶ台とタンスを消した。
「用語はこんなものですね。では次は、もう一歩踏み込んで属性について。属性は全部で八つ。火、水、土、雷、風、光、闇、無の八つです。同じ力で違う属性がぶつかった場合、火は水に勝ち、水は土に勝ち、土は雷に勝ち、雷は風に勝つ。そして、光と闇は他の六属性の影響を受けないかわりに、光は闇に、闇は光に、それぞれ途轍もなく弱くなります。最後の無はどの属性の影響も受けず、与えることもない。また、特定の属性を合体させることで特殊な属性の魔法――複合魔法というものもあります。……こんなところですね」
ほぼ一息に告げられた長文に、アレンは首をかしげた。
「まあ、ひとまずは属性が八つあること、無属性以外の属性には相性がある、という事を覚えておけば良いでしょう」
「ふーん。一応聞くけど、セバスの属性はなんなんだ?」
「私の属性は無ですよ。無とは魔力をそのまま扱う属性。攻撃に関して言えば、人間の使う魔導に近いですかね」
セバスは手を合わせた。フォームによる魔法で、魔力の刃を発生させる。出来上がった透明なそれを、手頃な魔獣に投げつける。回転しながら飛んだ刃は魔獣の皮膚を微かに切り裂き、蒸散するように空気へ溶けて行った。
「今のは、固形魔力を薄く引き伸ばし斬撃性能を付けたものです。私の属性も言いましたし、そろそろアレン様の属性を調べてみましょうか」
セバスは懐から白い紙を取り出した。縦十五センチ、横十センチほどの紙を強引にアレンに持たせると、再び口を開いた。
「これは、魔力審査札。対象者の魔力の属性、量、質を鑑定してくれる便利なものです。平民では一生かかっても手に入れることが出来ないほど高価なものですよ」
「そんな高いもんを使っていいのかよ」
「構いません。最弱とはいえ、魔王候補の育成にケチを出すほど、魔界も貧乏という訳ではありません」
「……分かったけど、こいつはどうやって使うんだよ」
「それは、こうやってです」
トン、とアレンの額に指を当てる。瞬間、アレンの体に何かが流れてきた。不快感はない。むしろ、微妙に温かいその何かは心地いいぐらいだ。
「これは……」
「今、私が魔力を直接流し込んでいます。あまりいい方法ではありませんが、時間がありませんので」
数秒そうして、セバスは指を外した。そして、アレンに手で持っている紙を見るよう指示した。言われた通り、アレンはジャッジカードを覗き込むと、驚きの声を上げた。
「なんか、いろいろ書いてあるぜ。上から魔力量7548、魔力質A+、属性は……なんだこれ?」
「属性は絵で表されていますからね。貸してみてください」
アレンはセバスにジャッジカードを手渡した。セバスは指を滑らすと、属性の項目を確認し目を見開いた。そこに印されているマークは魔法陣の上にたたずむ老人というもの。そのマークは魔法使い界隈ではある意味最も有名な物でもあった。
セバスはゆっくり告げた。
「……召喚。アレン様の属性は召喚でございます」
「召喚? さっきの説明に、そんなのあったか?」
「召喚は、そのあまりの希少性故に、基本の八属性とは別の……空間魔法、時間魔法と並び特殊属性と呼ばれております。空間魔法、時間魔法はその名の通り、空間と時間を司り操ることが出来ます。そして召喚魔法は――次元を飛び越えあらゆる生命を従えることが出来ます」
「じゃあ、いいんじゃ……」
割り込む用に「しかし」と前置きし言った。
「歴史上、召喚の属性を持った者は相当数おりましたが、その全員が――」
セバスの言い放った言葉は、あまりに重々しかった。
「己の呼んだ眷属を従えられず、殺されました」




