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最弱の魔王候補  作者: 木魚
第一章 最弱の行く道
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割り箸の悪夢

 時は少し進み、アレンとセバスの師弟コンビの現在地は『決別の森』。人間界、魔界を通しても五本の指に入るであろう過酷な地だが、セバス曰く「魔獣以外誰もいないから修行するには打ってつけの優良地」という事で、二人の本拠地に決まったのだ。

 無論、異常なほどの気温の高さは体力を見る見るうちに奪うが、これまたセバスが言うには「魔法でドーピングできるのだからむしろ好都合」とのことらしい。

 このようなセバスの超理論により、アレンは恐らく最も過酷であろう環境で鍛錬を積むことになってしまっていた。


「さて、時間が勿体無いですし早速始めましょうか。まずは、魔王の力に慣れてもらわなければ」


 次々と襲いかかる魔獣を軽く払いながら、セバスはそう言った。


「魔王、の力って……っとあぶねぇ! なんでそっから、始めん、の……っと」


 セバスが仕留めきれていない(というより狙って逃がしている)魔獣の攻撃を避けながらアレンは聞き返した。魔王の力に慣れるより先に、まずは体づくりや体術を優先した方がいいのではないか、と思ったからだ。


「魔王の力は、覚醒すればするほど身体能力、精神力を底上げする他に、もともとの才能を目覚めさせるという特性を持っています。まずは才能を完全に覚醒させ、そこから一気に地力を高める。これが私のやり方です。それに、激情に頼ってばかりで己の意思で覚醒できないようじゃあ、話になりませんからね」

「なる、ほど、なっ。それで、具体、的に……はどうすれ、ば、良いんだよ。怒れなん、て、突然言われ、ても……無理っだぜ」


 セバスはずれた眼鏡を直すとパン、と手を合わせた。まるで祈りのようなその体形をつくると、今度は両腕を左右へ大きく開いた。瞬間、セバスの手から透明の刃が無数に放たれた。放たれた刃は右へ左へ上へ下へ四方八方に散らばり、魔獣の体を引き裂き、殲滅していく。

 刃が魔獣たちの命を刈り取ること数秒、周辺の魔獣が全滅すると、こともなげにセバスは口を開いた。


「さて、五月蠅いのが片付きましたし始めますか。とりあえずは――」


 今度は右手を地面へくっ付ける。すると、魔法陣が浮かび上がり煙と共にいろんな料理が並べられているちゃぶ台が出てきた。ご丁寧に座布団も用意してある。 

 

「――お昼ご飯にしましょうか」

「……はあ? 何の冗談だよ」

「冗談ではありませんよ。腹が減っては戦は出来ぬ。まずは体力を回復せねば」


 セバスは座るように促した。しばし躊躇していたアレンだが、諦めたのか舌打ちを一つ打つと、渋々といった感じで座布団へ腰を落とした。セバスから割り箸を受け取り、割ろうとする。

 が、不自然なことが起こった。割り箸があまりにも可笑しな形に割れたのだ。片方半分のところで折れてしまっている。これでは箸として機能しないので仕方なくもう一本取る。しかし、これもうまく割れない。もう一本割ってみるが又もや歪な形になる。

 これは何かおかしい。そう思い、旨そうに料理に舌鼓を打っているセバスに聞いてみる。


「なあセバス。割り箸が割れないんだが……なんか細工したのか」

「別に何もしてませんよ。まさか十にもなって割り箸も割れないのですか? アレン様」


 何も細工してないはずがない。本当にそうならば、割り箸がこんな割れ方をするはずがない。しかし、問い詰めていても仕方が無いのでもう一本割ってみる。当然のようにうまく割れない。何本も割ってみるが、割れども割れども失敗する。

 これにより、アレンの中には自分でも気づかない内に、相当のイラつきが溜まってしまっている。何を狙っているのか分からない唐突に始まった昼食への疑問。その答えをはぐらかすセバスへのイラつき。さらに時間がないというのに呑気に食事をしているこの状況へのイラつき。全てが相乗し、さらに溜まっていく。イラつきが溜まれば、まだ幼いアレンがその内爆発するのは当然だ。

 アレンはちゃぶ台を叩いて立ち上がった。


「いい加減にしろ。いったい何が目的だ!! 俺には時間がないんだよ!! 魔王になるために……強くならなくちゃならねえんだよ!! あんたマジで――」


 次の瞬間、野鳥が何処かで飛び去った。セバスはニヤリと笑みを浮かべた。


「殺すぞ!! ……って、え?」


 アレンの髪と目は黒く染まっていた。

 魔王の力を覚醒させる最も手取り早い方法は、感情を荒ぶらせること。しかし、それは何だっていいのだ。復讐心だろうが、殺意だろうが、何かの欲求だろうが、悲しみだろうが、純粋な怒りだろうがなんだっていい。そう、一見くだらない、割り箸が上手く割れない事への苛立ちだろうと、十分覚醒への足掛けになる。

 これこそがセバスの狙いだったのだ。

 

「忘れないようにしてください、その感覚を。あなたなら、直ぐに習得できるはず」

「……回りくどいやり方すんなあ。まあでも、改めて冷静になってみるとはっきり分かるな。これが魔王の力か。意外とやれそうだな」


 アレンは髪色を金に、眼の色を銀にそれぞれ戻した。そして目を瞑り、あの独特の感覚を思い浮かべ一気に開いた。


「……できた。出来たぞセバス!!」

「そうですね。では、力試しにやつらを片付けましょうか」


 セバスはいつの間にか群がっていた魔獣を見渡した。先程蹴散らした魔獣たちの血の臭いに釣られてやってきたのだ。


「うへ~マジかよ」


 言いながらも、アレンは駆けだした。今のアレンなら、集団は無理でも一体ずつならばなんとかなる。殴り、蹴り、着実にダメージを蓄積させていく。

 

 そして数時間後、魔獣たちの死体の山が積み重なった。上がった息を整えながら、アレンはふと気が付いた。


「そういや俺、結局なんも食ってねえし」


 日が暮れはじめた決別の森に、腹の音が響いた。それを聞くと、余計に腹が減ってくるのだから不思議だ。しかし無理も無い。決別の森特有の炎天下、湿度、そしてその中で何時間も闘っていたのだから。


「……少し早いですが、晩ご飯にしましょうか」

 

 この時アレンは知らなかった。魔界の割り箸は特殊で、持ち手の方を自分へ向けなければ上手く割れないという事を。そう、セバスは本当に細工してなかったのだ。つまり、


 割り箸の悪夢、再来。 

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