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素直になりたい白上さん  作者: 星乃ヨナ


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22/22

最終話 新しい一年

クリスマスが終わってから、数日が過ぎた。


冬休みだから、学校には行かない。


いつもなら、朝起きて、制服に着替えて、学校へ向かう。教室に着けば、木下くんがいて。


「おはよう」


そう声をかけてくれる。


そんな毎日だった。


でも、今は冬休み。


朝起きても、木下くんには会えない。


……付き合い始めたのに。


そう思うと、少し変な感じがした。


布団の中で携帯を見る。


画面には、昨夜の木下くんとのやり取りが残っていた。


『おやすみ』


『おやすみ。また明日』


たったそれだけのメッセージなのに、何度も読み返してしまう。


付き合う前と、していることはそれほど変わらない。


メッセージをして。


少し話して。


学校のことを話して。


それだけなのに。


「……恋人、なんだ」


小さく呟く。


口にすると、やっぱり恥ずかしかった。


クリスマスの日。


雪の降る中で、木下くんに告白した。


そして、木下くんも私のことが好きだと言ってくれた。


思い出すだけで、胸の奥が少し苦しくなる。


嫌な苦しさではない。


嬉しくて、落ち着かなくて。


それでも、どこか安心するような気持ちだった。


私は携帯を胸元に置いて、目を閉じる。


春の頃には、こんな冬を迎えるなんて思ってもいなかった。


誰かとメッセージを交わして、返事を待って、届いた言葉を何度も読み返す。


そんなことさえ、私には遠いものだった。


冬休みは、思っていたより早く過ぎていった。


佐々木さんや田中くんともメッセージをした。


四人のグループでも、何度か話した。


ある日、佐々木さんからメッセージが届いた。


『クリスマスの日、二人で帰ったんでしょ?』


どう返せばいいのか分からなくなって、しばらく画面を見つめる。


『うん』


とだけ返すと、すぐに次のメッセージが届いた。


『どうだった?』


私はまた、しばらく考えた。


それから、


『……ちゃんと話せた』


と返した。


それ以上は、恥ずかしくて書けなかった。


でも、佐々木さんにはそれだけで伝わったらしい。


『そっか。よかったね』


その言葉を見たとき、胸の奥が温かくなった。


私はもう、前みたいに一人で過ごしているわけじゃない。


そう思えた。


そんなふうに毎日を過ごしているうちに、今年最後の日になった。


十二月三十一日。


朝から家の中では、母が年末の準備をしていた。


私は手伝いながら、何度も時計を見る。


「どうしたの?」


母に聞かれて、少し慌てた。


「……なんでもない」


「そう?」


「うん」


本当は、夜になったら木下くんから連絡が来ないかなと思っていた。


付き合って初めて迎える大晦日。


でも、自分から連絡する勇気は、まだなかった。


夕方になって。


晩ご飯を食べて。


テレビを見たり、母と話したりして。


気づけば、もう夜だった。


時計を見る。


十一時を少し過ぎている。


「……もうこんな時間」


私は自分の部屋に戻った。


ベッドに座り、携帯を見る。


特に連絡はない。


少しだけ残念に思った。


でも、木下くんも家族と過ごしているのかもしれない。


そう考えて、携帯を置こうとした、そのとき。


着信音が鳴った。


「……!」


画面を見る。


木下くんからだった。


一瞬、どうしていいのか分からなくなる。


メッセージではなく、電話。


心臓が急に速くなった。


少し迷ってから、通話ボタンを押す。


「もしもし……」


『もしもし、白上さん?』


「……うん」


木下くんの声が聞こえる。


それだけで、少し安心した。


『今、大丈夫?』


「うん。大丈夫」


『よかった』


短い沈黙が落ちる。


電話なのに、顔が見えない。


いつもなら、表情を見れば少しは分かることも、声だけだと余計に緊張した。


「……どうしたの?」


『えっと……』


木下くんも、少し言いにくそうだった。


『もう今年も終わるじゃん』


「……うん」


『だから、ちょっと話したくなって』


胸の奥が、ゆっくり温かくなる。


「……私も」


『ほんと?』


「うん」


それから、二人でいろいろな話をした。


『今年、本当にいろいろあったな』


木下くんが言った。


「……うん」


『春の頃は、こんなことになるなんて思ってなかった』


「私も」


『最初に話したときなんて、教科書を借りただけだったし』


「……そうだったね」


思い出して、少し笑う。


『あのとき、白上さん、すごく緊張してたよね』


「……してた」


『俺も、結構緊張してた』


「……そうなの?」


『うん。話しかけていいのかなって』


「……知らなかった」


『言ってなかったからね』


二人で笑う。


電話越しの笑い声が、静かな部屋に響いた。


思い出すたびに、胸の奥が少しずつ明るくなる。


どれも、最初から特別だったわけではない。


小さな出来事が重なって、いつの間にか大切なものになっていた。


「……でも」


少し考えてから、私は言った。


「木下くんと話せてよかった」


『俺も』


「……最初は、学校で誰かと話すのも苦手だったから」


『うん』


「でも、木下くんが話しかけてくれて」


『うん』


「それから、いろんなことが楽しくなった」


電話の向こうが静かになる。


私は少し恥ずかしくなって、声を小さくした。


「……だから、ありがとう」


『……俺もありがとう』


「え?」


『白上さんと友達になれてよかった』


少し間があってから、木下くんが続けた。


『それに……今は、彼女になってくれて嬉しい』


顔が熱くなる。


電話なのに。


顔が見えていないのに。


恥ずかしかった。


「……私も」


それだけ言うのが精一杯だった。


しばらく話していると、時計の針が進んでいた。


十一時五十分。


「……あと十分だね」


『ほんとだ』


「今年、終わっちゃう」


『早かったな』


「……うん」


少しだけ寂しくなる。


でも、年が変わっても、木下くんとの関係がなくなるわけではない。


そう思うと、すぐに安心した。


『白上さん』


「……なに?」


『来年も、よろしくね』


「……うん」


少し考えてから、私は続けた。


「来年も……一緒にいたい」


言ったあと、急に恥ずかしくなる。


けれど、木下くんはすぐに答えてくれた。


『うん。俺も』


その声を聞いて、自然と笑ってしまう。


時計を見る。


あと一分。


二人とも、なんとなく黙った。


遠くからテレビの音が聞こえる。


時計の秒針が、静かに進んでいく。


「……あと少し」


『うん』


「…………」


『…………』


そして、時計の針が十二時を指した。


「……あ」


『年明けた』


「……うん」


少しだけ笑って、二人で同じ言葉を口にする。


「「あけましておめでとう」」


声が重なった。


『今年もよろしく』


「……こちらこそ、よろしくお願いします」


『なんか、ちゃんと言うと恥ずかしいな』


「……私も」


二人で笑う。


電話越しなのに、まるで隣にいるみたいだった。


『今年も、いっぱい話そう』


「うん」


『また一緒に遊ぼう』


「……うん」


『学校が始まったら、また一緒に帰ろう』


「……うん」


一つ一つの言葉が嬉しかった。


電話を切る時間が近づいてくる。


『じゃあ、そろそろ寝る?』


「……うん」


『遅くまで付き合わせちゃってごめん』


「……ううん。私も話したかったから」


『そっか』


「……おやすみ」


『おやすみ、白上さん』


「……うん。またね」


『またね』


通話が終わる。


静かになった部屋で、私は携帯を見つめた。


画面には、通話終了の表示が残っている。


少しだけ寂しい。


でも、今までとは違った。


昔なら、こういう夜も一人だった。


誰かと話したいと思っても、自分から声をかけることなんてできなかった。


けれど今は。


友達がいる。


一緒に過ごせる人がいる。


そして、好きな人がいる。


私は携帯を胸元に置いた。


窓の外を見る。


夜の空は暗く、雪は降っていない。


静かな新年だった。


ふと、机の上に置いた猫のキーホルダーが目に入る。


クリスマスに佐々木さんからもらったものだ。


小さな猫が、街灯の光を受けて淡く光っている。


春の頃の私は、誰かと一緒にいることを知らなかった。


夏には、隣で花火を見る人ができた。


秋には、同じ目標に向かって笑い合える友達ができた。


冬には、自分の気持ちを伝えることができた。


そして今。


新しい年を、誰かと一緒に迎えている。


私はベッドに入った。


明日になれば、また新しい一日が始まる。


冬休みが終われば、学校が始まる。


また教室で木下くんに会える。


そのとき、今までと同じように「おはよう」と言えるだろうか。


それとも、少しだけ違う気持ちになるのだろうか。


考えていると、自然と笑ってしまう。


春は、嫌いだった。


新しいクラス。


知らない人。


変わってしまう毎日。


そういうものが、怖かった。


でも、今は少し違う。


新しい一年が、楽しみだと思える。


きっと今年も、いろんなことがある。


楽しいことも。


大変なことも。


うまくいかない日も、きっとある。


それでも。


隣にいてくれる人がいる。


話をしてくれる友達がいる。


そして、私が大切に思う人がいる。


だから。


春が来るのを、少し楽しみにしている。


窓の外は、まだ暗い。


けれど、その向こうには、もう新しい朝が待っている。


「……おやすみ」


誰に言うでもなく、小さく呟く。


目を閉じる。


新しい一年が始まった。


これから先、どんな毎日が待っているのかは分からない。


でも、今はそれでいいと思う。


分からない明日を、怖がらなくてもいい。


きっと、また誰かと笑える。


きっと、また誰かと話せる。


私はもう、一人ではないから。


――春は、嫌いじゃない。


そう思いながら、私は静かに眠りについた。

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