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素直になりたい白上さん  作者: 星乃ヨナ


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第一話 新学期

春は、嫌いだ。


 正確には、春そのものが嫌いなわけじゃない。


 桜は綺麗だと思うし、暖かくなっていく空気も嫌いじゃない。

 冬の間は冷たかった風が少しずつ柔らかくなって、道端に小さな花が咲き始める。


 そういうものを眺めるのは、好き。


 だけど。


 新学期だけは、嫌いだった。


「.............」


 私は教室の一番後ろ、窓際の席に座っていた。


 窓から差し込む春の日差しが、机の上に細長い光を作ってる。


 その光の中に、桜の花びらが一枚、ひらりと落ちてきた。


 私はそれを指先でつまんだ。


 薄い桃色。


 少しだけ眺めてから、机の端に置く。


 新しいクラス。


 新しい担任。


 そして、周りには知らない人ばかり。


 ......いや。


 正確には、去年から同じ学校にいる人たちもいる。


 顔を知っている人も何人かいる。


 でも、私に話しかけてくる人はいない。


「......はぁ」


 小さくため息をはく。


 すると、斜め前のほうから女子の声が聞こえてきた。


「ねぇ、あの子って去年も同じクラスだったよね?」


「うん。白上さんでしょ?」


「そうそう。なんか....ちょっと怖くない?」


「わかる。いつも機嫌悪そうな感じ顔にでてるよね。」


「なんか睨んでくるし、ちょー怖いわ。」


 聞こえている。


 全部、聞こえている。


 でも、振り向かない。


 反応して見てしまったら、余計に怖がられる。


 ......というより。


 どう接していいのかわからない。


「怒ってないのに......」


 私は小さく呟いた。


 もちろん、誰にも聞こえないくらいの声で。


 怒っているわけじゃない。


 ただ、人と話すのが苦手なだけ。


 何を話せばいいのかわからない。


 話かけられても、どう返したいいのかわからなくて、考えているうちに時間が過ぎる。


 だから私は、黙っていることが多い。


 すると周りからは、


 ーー怖い。


 ーー怒っている。


 ーー近寄りづらい。


 そう思われる。


 別に好きでこうなっているわけじゃない。


「......」


 机の下で、スカートの裾を少しだけ握る。


 今年も、去年と同じなのかな。


 誰とも仲良くなれないまま、また一年が終わるのかな。


 そんなことを考えていると、教室の前の扉が開いた。


「おーし、みんな席につけー」


 担任の先生が入ってきた。


 ざわざわしていた教室が、少しずつ静かになる。


 先生が教卓の前に立つ。


「みんな今日から二年生だ。まぁ、去年と同じ顔も多いけど、クラス替えもあったからな。改めて一年間よろしく。」


 そして先生が、黒板に今日の予定を書いていく。


「今日は、始業式だけだから、午前中で終わるぞ。始業式が終わったら教室に戻って、教科書配って、あとは少し話して終わりだ。」


「やったー!」


「早く帰れる!」


 教室のあちこちから声が上がる。


 今日は午前中だけ。


 それなら、少し気が楽だった。


 まだ新しいクラスの雰囲気にも慣れていなくて疲れた。


 長い一日にならなくてよかった。


 そう思いながら、私はもう一度、窓の外を見た。


 校庭の桜は、風が吹くたびに花びらを散らしている。


 今年も、また一年が始まる。


 去年と同じように、また独りぼっちで終わるかもしれない。


 そう考えると、少しだけ胸が重くなった。


「ねぇ」


「......?」


 突然、隣から声がした。


 私は少し驚いて、横を向く。


 隣の席に座っている男の子が、こちらを見ていた。


「......なに?」


 緊張のあまり思わず警戒するような声になってしまった。


 男の子は驚いたのか一瞬だけ目を丸くした。


 しまった。


 感じの悪い態度をとってしまった。


 そう思っていると、男の子は気にした様子もなく、少し笑った。


「俺、木下大樹」


「今日から隣の席だから、よろしく」


「......」


「......ぁ」


「よろしく......」


 緊張して上手く声が出ない。


「きみの名前教えてよ。」


 そうだった。


 まだちゃんと話していなかった。


 私は少しだけ姿勢を正した。


「......白上澪です。」


「そっか。白上さんか」


「じゃあ、今後ともよろしく!」


「......よろしく」


 短い挨拶。


 それだけだった。


 木下くんはそれ以上何もきいてこず、前を向いた。


 私も前を向く。


「..........」


 静かになった。


 たったそれだけの会話。


 なのに。


 なぜか、さっきまで感じていた胸の重さが少しだけ軽くなっていた。


 ....変なの。


 私はそう思いながら、窓の外を見る。


 彼がこれからの学校生活に、どれだけ大きな存在になっていくのかなんて、今の私には知るはずもなかった。

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