あと191日/進路相談室
「失礼しまー……」
カラリと扉が開く。そこには、目を丸くした神楽が立っていた。
「あれ? 先生?」
「なんだ、神楽か」
「なんでいんの? 進路相談してくれんの?」
「こんなのただの持ち回りだ。俺に相談すんなよ。ちゃんとした先生にしろ」
「あんたはちゃんとした先生じゃねぇのかよ……」
「教師が全員ちゃんとしてたらニュースになんかなんねぇんだよ」
「仮にも先生がそういうこと言うな」
軽口を叩きながら、神楽は泉の向かいの椅子に座る。
泉は引き出しを開けて、『進路相談シート』とプリントされた紙を一枚取り出した。
「おらよ」
「えー、めんどくさ」
「決まりだ。書け」
少し強く言うと、神楽は渋々ペンを取った。
「『神楽悠斗』、『3-A』、『18歳』。……あ? お前、誕生日終わってたのか」
「うん、そう。俺の誕生日って夏休みなんだよね」
「成人じゃん。おめでとう」
「祝ってくれんならモノをくれ。点数でもいい」
「金って言わねぇだけマシか」
頬杖をついて、筆圧の高い丸めの文字が書き込まれていくのを見守る。
神楽はやりにくそうにしながら、『相談内容』の項目に『専門学校の資料がほしい』と書き込んだ。
「神楽は専門学校志望か」
「だって、俺Ωだからさ。頭も良くないし、手に職付けた方がいいと思って」
「……お前、意外にちゃんと考えてんのな」
「意外って言うな」
「専門学校って一口に言っても多種多様あるぞ。どういう系統がいいんだ?」
人差し指で『相談内容』の部分をトントン、と叩くと、その指を捉える手がある。
泉は指先に落とした視線を、ゆっくりと上げた。
「先生は」
俯いていて表情は見えないが、項まで赤くなっているのは分かる。
「なんで、バレーボール辞めた?」
ピクリ、と泉の指が反応した。
誤魔化すように神楽の指を握り返して。
「……んなの聞いてどうすんだ」
「いや、参考までにさ」
困っている素振りではあるが、神楽は手を引っ込めようとはしない。
「向いてねぇからだよ」
「え、嘘。あんなに上手いのに」
「おう。俺は上手いぞ」
「自分で言うな」
「俺が上手いだけじゃ成り立たねぇんだよ。団体競技ってやつは」
「……あー、先生、協調性なさそう」
視線を伏せたまま笑う神楽。
動きに合わせて震える睫毛は、思ったよりも長かった。
「図星を突いてくんじゃねぇ。特にバレーボールは、チームワークと雰囲気がものを言う種目だからな」
触れ合った手のひらに、じわりと熱が滲む。
「じゃあ、先生になったのって……」
「コートの外からなら言いたいこと言えんだろ」
手を緩めて「参考になったか」と問えば、頷きと同時にするりと熱い指が逃げていった。
(お前の弱点を補う方法は、俺が持ってんだけどな)




