プロローグ 神話の記録
はるか昔。
人は海を空を地をすべてを支配していた。
鉄の鳥は雲を裂き、海の底さえも見通し、
星々に手を伸ばそうとしていた。
世界は、人のものだった。
だが
それは、長くは続かなかった。
欲望は際限なく膨らみ、争いは止まらず、
人は“見てはならないもの”に手を伸ばした。
そして生まれた。
それは、神でも悪魔でもない。
人の“内側”にあるもの。
恐怖、怒り、憎しみ、欲望。
それらを“増幅する存在”
人はそれを利用しようとした。
力に変えようとした。
だが
制御できなかった。
その結果。
大地は腐り、海は濁り、
空には黒い影が広がった。
巨大な虫が生まれ、異形の生物が地を這い、
世界はゆっくりと“死”に覆われていった。
人類は、ようやく気づく。
「これは、使ってはならないものだった」と。
生き残った者たちは、最後の力でそれを封じた。
一つの島に。
世界から切り離された場所に。
風も、海も、記録も届かない場所に。
そして建てられた。
空を貫く、一本の塔。
それは封印であり、
監視であり、祈りでもあった。
だが制御は完全ではなかった。
封印は、時とともに弱まり、
島は
“呼ぶ”ようになった。
欲望を持つ者を。
恐怖を抱える者を。
心に“隙”のある者を。
そして
選ばれた者だけが、
その島へと導かれる。
記録は残っている。
何度も。
何度も。
飛行機が消えた。
船が消えた。
人が消えた。
最後に残る言葉は、いつも同じ。
「……塔が見える」
黒い箱に残された声。
それは、警告ではない。
拒絶でもない。
――それでも来るのか――
――おまえたちは――
――まだ、欲しがるのか――
そして今。
再び、その時が来た。
ゴオオオオ……
空を飛ぶ、一機の旅客機。
その中には、
まだ何も知らない人間たち。
彼らは思っている。
これはただの旅だと。
休暇だと。
日常の延長だと。
だが違う。
それは“選別”の始まりだ。
島は、待っている。
封印が崩れる、その時を。
そして。
次に“選ばれる者”を。




