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7. ユミル編 ⑥ ドレス選びってドキドキする(値段的な意味で)

「う、わあ……」


 翌朝。ふかふかすぎ折るベッドに驚いて眠れるか心配だったものの、やはりなれない旅の疲れからかぐっすりと寝入ってしまったユミル。レイクリウスの屋敷で出された朝食を食べた後(尚ユミル自身が作ろうと思っていたが朝早くから仕込みを開始している使用人たちの方が先に全ての準備を済ませてしまっていた)、レイクリウスと共にパーティーに参加するためのドレスを購入しに指定された服屋へとやって来たのだが。


「な、なんて見事な刺繍にフリル……!」

(これだけで幾らかかるんだろう)


 マネキンに着せたドレスの山に度肝を抜かれる。ドレスに刺繍とフリルにビーズをこれでもかと使っているのが一目で分かる。しかも派手すぎない上品な雰囲気も合わさり、自分の今まで見て来たドレスと明らかに格が違った。


(ビーズもくっきりと浮かび上がっているみたい……これが王都の貴族達が来ているドレスなのね……)


 思わず感嘆の溜息を吐く。服一枚にしても平民と貴族で此処まで差があるのかと改めて確かめさせられたかのよう。


(しかし……)

「値段も、すごい……!」


 書かれている名札を見て目玉が飛び出るとはこのことかとくらくらしながらそんなことを思ったりするユミル。明らかに桁が二つ、下手をすれば三つ違っていそうな商品もある。


「貴族御用達の服屋だからな。値も張るが……ま、それは気にしなくていいさ。国が払ってくれるからな」


 苦笑してフォロー(?)するレイクリウス。ユミルは改めて値段と商品を見比べて、


(これ……本当に私が買って……いや、着てもいいのかな?)


 思わずドレスを眺めながらそんなことを思ってしまう。だが、そんなユミルに構わずレイクリウスは店員を呼び、


「すまない、王宮の使い出来た。この娘に合うドレスを見繕って欲しいんだが……」

「ユミル様、ですね? はい、話は聞き及んでおります。かしこまりました」


 恭しく店員の女性は頷き、ユミルに近付き柔和な笑顔で話しかける。


「さ、ユミル様。こちらへどうぞ」

「え? あ、あの……私、こんな高いドレスを着たことなくて……」

「大丈夫ですよ。少々サイズの方を計測させて頂きますね」


 ユミルを姿見の前へと連れて行って懐から取り出したメジャーでユミルのサイズを測る女性店員。それに店長らしき初老の男性がやって来て女性店員と言葉を交わす。


「ふむふむ……ユミル様のサイズですとパーティーまでにご用意出来そうなのはこの辺りですな」


 そう言ってすっと幾つかマネキンの来ているドレスを指差す。


「あ、う、えっと……」


 言われてもどうしたものか分からず狼狽えるユミル。意を決してどうにか言葉を絞り出す。


「ぱ、パーティーとか出たことないので……ど、どういうのがいいのか……」

「おや、そうですか」

「固くならなくていいよ。適当に自分が良いと思ったのを選べばいいんだよ」


 ふむと頷く店主。そこにすかさずレイクリウスがフォローする。


「い、いっそレイクリウス様が選んでくれませんか……?」


 震える声で懇願するユミル。


「? 俺が、かい?」

「は、はい。私じゃ王都の流行とか分からないですし……レイクリウス様ならドレスとか見る機会も多いから私よりも分かるんじゃないか、と……」

(って、本当何から何までレイクリウスさん頼りだし……)


 とほほと心中で泣く。パーティーに来ていくドレスなんて買ったことも着た経験もない。田舎で暮らす自分でドレスと言えば、機能性と汚れてもいい普段着でしかないのだから、当然と言えば当然なのだが。


(情けないなあ、私……)

「そう、だな……俺なら……」


 そう言って、レイクリウスはそっとドレスを見比べ、店主にあれこれ質問し始めたのだった。




   ◇   ◇   ◇




「ありがとう、ございました……」

「うん……大丈夫か? ドレス選んだだけで疲労困憊っぽいが……」

「ドレス選ぶだけでも大仕事なんですね……学びました……」


 先ほどの服屋でどうにかドレスを選んだ後、屋敷から乗って来た馬車に再び乗って一息吐いたユミルは深々とお礼をレイクリウスへと述べた。


「はは。でも本当に良かったのかい? 俺が選んだドレスで?」

「ああ、はい。いいんです。あんな綺麗なドレスなんて、本来私が使う機会なんてそうないんですから。私の好みで買うより今度のパーティーで浮いたりしない方が大事なんです」


 パッカパッカと馬車の御者として馬を操るレイクリウスの問いに馬車の小さな窓越しにそう返すユミル。


(むしろ使う機会なんてこのパーティー以外思いつかない。村や友人の結婚式に着ていくとか考えたけど、あんな綺麗なドレス着て行ったら、花嫁以上に目立って仕方ないよね)


 はは、と空笑いする。本当、王都と住んでいた村では何もかもが違う。


(……というかあの値段のドレスを本当に貰えるの? レンタルじゃなく?)


 今更ながら値段を思い出してぞっとする。正直怖くて仕方ない。


(……アルバス)


 そしてやはりというべきか、どうしてもこうして自分をパーティーに呼んだ元婚約者のアルバスのことを思い浮かべてしまう。


(アルバスも、やっぱり……変わったの? 私達の村と王都で違うように、アルバスも……)


 どうにもアルバスの考えが読めず困惑し、物思いに沈む。と、


「見えたよ」

「え? あ……」


 レイクリウスの言葉で意識を浮上させ、御者との会話用ではない硝子の窓から建物を視界に捉える。


「これが……!」

「ああ。今王都で一番人気の、劇場さ」


 積み上げられた石造りの外観には色取り取りに飾られ、無数の人が入り乱れる。巨大ポスター貼られ、更には無数のビラが配られ、更に散らばる。華やかな王都でも、更に人が多く、また豪奢な服装から貴族らしき人が多い様子が見て取れる。

 レイクリウスとユミル、二人が見つめる先にはこの王都、否――国一番の巨大劇場がそびえ建っていた。

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