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10. ユミル編 ⑨ 祝賀会――馬子にも衣裳とはこのことか

 ガラガラと馬車が会場へと走っていく。その馬車の中に二人の姿。即ち、


(い、いよいよ邪竜討伐の祝賀会……こ、怖いな……)


 王都で購入したドレスを身に纏ったユミルに、


「大丈夫かい?」


 クスッと笑いかける金糸による刺繍が施された礼服姿のレイクリウス。


「あ、はい。何とか……」

「大丈夫。綺麗だよ」

「っ……あ、ありがとうございます……」


 さらりと褒められ赤面するユミル。


(レイクリウスさんも、かっこいいな……)


 白を基調とした礼服姿の金髪碧眼のレイクリウス。その姿はまさに童話に出て来る王子様そのもの。


「今日の祝賀会……やっぱり来る人達は皆貴族様ばかり……なんでしょうか?」

「うん、そりゃあね。貴族でもないと、こんなパーティーに参加出来ないから」

「そう、ですか……そうですよね……」

(どうしよう……頑張って作法とか教えて貰ったけど、貴族の人に田舎娘がって怒られた挙句放り出されたりしないといいけど)


 緊張するユミルをレイクリウスは見透かし、笑いかける。


「大丈夫。俺も出来る限りフォローするから」

「っ! あ、ありがとうございます……」

(うう、私ったら足手まといで迷惑しかかけないな……でもちょっと嬉しい)


 そうこうして居る内に馬車が止まり、パーティーが開かれる建物へと到着する。そのまま案内され、階段を上がって会場の大広間へと通された。


「わあ……!」


 思わず感嘆の声を漏らすユミル。そこには大勢の貴族達がひしめき合い、豪華な料理や酒が用意されている。その様、まさに豪華絢爛の一言に尽きる。


(す、凄い……世界が違うわ……)


 育った村でのパーティーと全く違うその会場の様相に飲み込まれるユミル。


「ユミル。一緒に」

「あ、はい……」


 レイクリウスに手を繋がれ、エスコートされるユミル。会場の入口から数歩足を踏み出す、と。


「おお! レイクリウス様!」

「〝勇者〟様!」

「お会いできて光栄ですな!」

「是非とも一曲ご一緒に!」

(うわっ⁉)


 一斉に貴族達が群がり始める。知らずレイクリウスの手を握り締めるユミル。


「これは皆様……いつもお世話になっております」


 杓子定規な言葉を述べるレイクリウス。その隣、ユミルもぎこちなく笑みを浮かべて会釈する。


「レイクリウス様、此度の邪竜討伐の一件お見事で御座いました。ただ、レイクリウス様の陛下への褒美として、爵位や金銭ではなく平穏に暮らしたいと申し上げたと聞いておりますが……もしこの先過ごされる場所など未定でしたら、是非とも我が領地に……」

(す、すごい下心が見えてる……あからさま過ぎない⁉)


 口元が引くつくユミル。どこぞの貴族が述べた瞬間、周りの他の貴族が一斉にぎろりとその貴族を睨んだのが分かった。


「はっはっは。面白い話ですな。しかしそれでしたら我が領地の方が……」

「いえいえ、此処は温泉で有名な我が領地に……」

「レイクリウス様、どうぞこの後私めの娘と一曲踊ってもらえませんかな? 実は娘が貴公の大ファンでして……」


 堰を切ったかのごとく行われるレイクリウスへの下心満載の勧誘合戦。あまりの熱の入り様に思わずユミルは呆気にとられる。


「そういえばレイクリウス様。こちらの女性は?」


 とある豪奢なドレスに身を包んだ女性(例に漏れず貴族)がちらりとユミルの方を向く。その顔には笑みが浮かんではいるが、瞳にはギロリと嫉妬の炎を秘めている。


「あ、いや……私、は……」

「彼女はユミル。この度私がエスコートさせて頂くことになった女性です」

「ユミル、様? 外国の方でしょうか。この国の貴族の子女にいらっしゃったかしら?」


 ふうんと値踏みするかのような視線を向けて来る女性。ハラハラとどうにか笑みを保ったまま早く終わってくれと願いつつどうにか対面を保つユミル。


「はっはっは。彼女はこういう場は初めてでして。どうぞお手柔らかにお願いしますよ」


 にっこりと笑うレイクリウス。何処か凄みのようなものを感じさせる笑みに、


「そう、ですか……」


 ユミルを値踏みしていた女性もそれ以上は突っ込むことなく会釈し下がる。


(な、なんとか誤魔化せた……?)

「はは。皆さま、パーティーはまだ始まったばかり。他にも人が来ますし、お話は後程」


 そう言ってレイクリウスは強引にユミルの手を引いてスッと人の輪を抜けていく。


「ふう……」

「すまない。俺のせいで目立ってしまったな」

「い、いえ! レイクリウス様が悪い訳じゃ……」


 そんな会話をしながらパーティー会場の端に移動するユミルとレイクリウス。とはいえじっとりと主にレイクリウスへと向けられる視線が二人に突き刺さる。


「無粋な……仕方ない。少し向こうで一通り相手をしておくよ。ユミルは会場で料理でも食べて待っていてくれるかい?」

「は、はい! それは構いませんが……」

(〝勇者〟って大変なんだなあ……)


 ユミルが見ている前で人だかりに歩いて行き営業スマイルで話しかけるレイクリウス。


(ああいう所謂リップサービスとかお愛想とかいうのも貴族や英雄という人にとっては大事なんだろうな……)


 大変そうとレイクリウスに同情しつつ、取り合えず言われた通り料理を眺める。


(お皿を取って盛って食べたらいいのよね……大丈夫かな?)


 マナー合っている? 大丈夫? とびくつきながらも取り合えず少量更にいくつかの料理を盛って食べてみる。


「っ美味し!」

(流石国主催の祝賀会……美味しいわ……)


 おお、と感動する。が、


(王都の貴族になったら毎日こんな食事が食べれるのかしら……アルバス、も……)


 どうしても、そんな風に全てをアルバスに結びつけてしまう。


(こんな風な煌びやかな世界を見たら、村に戻りたいと思わないのも分かるな……)


 そんな風に自嘲すらしてしまう。と、


「皆様、大変長らくお待たせしました。プロスペリタース国が第一王女にして〝聖女〟、サクラ様の御来殿となります! どうか厳粛且つ盛大な拍手でお迎え下さい!」


 主催者だか執事だかの声と共に一斉に会場の空気が変わる。


「っ!」

(来、た……!)


 食器を専用のワゴンに置き振り返る。同時に、

 ギィィィイイイイイイイイイイイ……

 重たい扉が開かれる仰々しい音が嫌に大きく響き渡り、


(あれ、が……!)


 カツンカツンと、一歩一歩が重たく深く、そして世界を震わすかのように会場内に響いていく。全ての視線が会場内に設けられた二階にいる自分達よりもさらに上、三階部分の扉に注がれる。

 流れるような銀の長髪。それに映える豪奢でありながら全く下品さを感じさせないドレス。見事な衣装をしかし決して着られているといった印象を抱かせない整った花の(かんばせ)。そして見ている者の意識を吸い込み、決して偽りを述べることを許さないと言っているかのような強靭な意思を秘めた瞳。

 この国の第一王女にして邪竜討伐に置いて貢献した〝聖女〟、そして女性でありながら此度の功績と正室の子であることから次期女王と噂される才色兼備の女傑。

 

(〝聖女〟サクラ様……!)


 ごくりと息を飲む。ついでその隣に立って手を取ってエスコートする青年の姿。


(あれ、は……!)


 ゆっくり、ゆっくりと〝聖女〟と青年は二階から伸びるアーチ状の階段を下りていく。

 見慣れた黒髪に緊張した面持ち。服こそ豪華絢爛な物を着ているが……見間違えるはずもない。


(アル、バス……)


 〝聖騎士〟の名を取った幼馴染にして元婚約者の姿が、〝聖女〟サクラの傍にあった。


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