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『離婚したので、すべて置いて辺境にきました──夫の浮気も介護も、さよならで!』  作者: 夢窓(ゆめまど)


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9/14

辺境での生活

ナンシーは、元婚家での生活を振り返った。

あの頃は、すべてがナンシーの責任にされていた。

「あなたの努力が足りないからよ」


姑のハリエッタの認知症が進み、自分のことができなくなった。ナンシーが必死に介護しても、周りは冷たかった。


「こうなったのは、ナンシーがちゃんとしなかったせいじゃないの?」


母親は普通だったのに、ナンシーが世話をするようになってから、手がつけられなくなった――そう言われた。


ナンシーは違うと言いたかった。

けれど、急に悪化した認知機能、おむつの問題、徘徊。すべてが一度に押し寄せて、何が正しいのか分からなくなっていた。

だから、「自分が悪い」と思う方が楽だった。


今は違う。

周りの人たちは、「ナンシーがよく頑張った」と言ってくれる。


母親の介護も、施設に任せるのが一番だと分かった。


あの頃、家族は「逃げられないように」と、ハリエッタを部屋から出さなかった。

ナンシーは、「やらなければならない」というみんなの押し付けに応えようと頑張って、崩れてしまった。


否定ばかりの介護だった。

今は、あそこから逃げて、自分を取り戻した。


辺境での1日


ナンシーは朝の掃除を終え、廊下の窓を拭こうとしたときだった。


「ナンシー!!」

どたどたどたっ──!

勢いよく走ってきた小さな金髪の塊が、そのままナンシーのスカートに”ぎゅむっ”としがみついた。


「お、おはようございます、ライナー様」

「様はいらないっ!ライナーって呼んで!」

(……まあ、かわいい)

ナンシーはしゃがみこんで、目線を合わせて微笑んだ。


「では、ライナー。今日も元気ね」

「うん!!ナンシーのとこ来たら、いいにおいした!」

(……掃除の石鹸の匂いかしら?)

ライナーがスカートを握りしめたまま、きらきらした目で言った。


「ねぇ、ナンシー、ぼくの係になって!!」

「係……?」

「そうっ!とうさまの係、クレインのおじちゃんの係、兵隊さんの係があるの!」

(係とは……この子独自の呼び方ね)

ライナーは無邪気に続ける。


「ナンシーの係はね──ぼくを毎日見てくれるおとな!!ね、いいでしょ!?ぼく、ナンシーじゃないといや!!」


ナンシーは思わず吹き出しそうになった。

「まぁ。そんな大役、私にできるかしら」

ライナーは真剣な顔でうなずいた。


「できる!!だってナンシー、やさしいもん。おこらないし、痛くないし、あと……あったかい!」 


(痛くない……?この子は誰かに強く扱われていたのかしら)

胸がきゅっとする。

「……では、今日から少しずつね。私はお掃除のお仕事もあるから、できる時間だけになるけれど」


ライナーはぱあっと花が咲いたように笑った。

「やった!!ナンシー、ぼくの係!!」

そこへ、ランドルが現れた。

「ライナー──廊下を走るなと……」

ランドルは途中まで叱る口調だったのに、息子がナンシーにぴったり貼りついているのを見て言葉を失った。


「……何をしている?」

「ライナーが”私を係にしたい”と……」

「係……? また変なことを……」

「とうさま!!ナンシーはぼくの係!!だから、きょうは一緒に朝ごはんたべるの!!」


「……ナンシーの仕事を増やすな」


「だってぼく、さみしいもん……」

その言葉にランドルの眉がぴくりと動く。

ナンシーは静かに申し出た。

「ランドル様、私ができる範囲でお相手します。お仕事に支障は出しませんわ」

ランドルはしばらく黙ったあと、小さく息をついた。


「……すまない。ライナーは母を亡くしている。甘えたいのだろう」

「ナンシー……いてね……?」

ナンシーは優しく頷く。

「ええ。私は逃げませんから」

その一言で、ライナーの顔がぱあっと明るくなった。


ランドルはその光景を見て、胸の奥がきゅっと締まるような感覚を覚えた。

(……ナンシーが来てくれて、本当に良かったのかもしれない)


ライナーにとって、ナンシーは初めての優しい大人だった。


ランドルの息子ライナー。

ランドルには妻がいない。


死んだとは聞いていない。もし亡くなっていたなら、お葬式のような行事があるはずだから、おそらく生きているのだろう。よく分からないが、とにかく今はいない。


男手一つで育てたせいか、ライナーは甘えん坊だった。

ナンシーには、すぐに懐いた。


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