【第二十三話】瀬戸際の夜明け
195年 夏 弘農郡・曹陽澗
東澗での李傕・郭汜らの追撃を辛くも退けた献帝一行。だが、その代償はあまりに大きかった。
西園軍の馮芳・夏牟を失い、兵は半数を割る惨状。士気も限界に近づいていた。
「このままでは……いずれ追いつかれる」
焦燥をにじませる楊奉は、かつて自らが属していた河東の白波賊の存在を思い出し、救援を提案した。
「河東郡にかつての同志がいる。韓暹、李樂、胡才……彼らなら、この地に精通し、戦にも長ける。助力を請うてはどうか」
その提案に、名士・楊彪は苦悩の表情を浮かべる。
「帝を賊の手に委ねるなど、前代未聞……」
しかし、若き帝・劉協は静かに言った。
「彼らもまた漢の民。漢の民であることに、衣冠の士か、道に生きる者かは重要ではない」
その言葉に、楊彪は目を伏せ、やがてゆっくりと頷いた。
「……御意のままに」
楊奉はすぐさま白波賊のもとへ使者を送った。
三将は官軍との戦に当初及び腰であったが、官職授与等の恩賞を聞き出兵を受諾した。
韓暹・李樂・胡才の三将が一万の兵を率い、献帝救出に応じることとなった。
再び李・郭連合軍が迫る。
「今度こそ、逃がさんぞ!」
そう叫び進撃する郭汜軍に対し、白波賊の兵が山中から奇襲。奇襲を受けた連合軍は混乱に陥り、二度目の撃退に成功する。
勝利の風が一時、献帝に微笑みかけた。
だがそれも束の間。
「二度も敗れおって……!」
李傕は怒り心頭に達し、同盟者の張済に援軍を要請。張済は謀神として名高い軍師・賈詡を伴って参陣した。
賈詡は冷静に戦況を分析し、白波賊の特性を即座に見抜く。
「奴らは奇襲には長けるが、正面戦には脆い。騎兵をもって中央を穿てば、潰走必至」
その指示を受けた張繍率いる精鋭騎兵が突撃。
白波賊の兵は成す術なく蹂躙され、戦列は崩壊した。再び皇帝一行に迫る敵兵の刃。
その時――
「陛下、前方より軍旗! 予州の紋章です!」
乾坤を裂くような咆哮と共に、孫堅軍が戦場に出現した。
魏延の騎兵が風を切って張繍騎兵部隊に突撃、背後より呂蒙の軽弩隊が矢の雨を降らせる。
明け方の朝日を浴びる野に、今、新たな戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。




