第42話 新コンビ!召喚士&JK巫女(前編)
異世界20日め。午前中におれが王国議会から戻るとうちの事務所に来客があった。サラ・ダホップ。“5人のドラゴンスレイヤー”の時におれとパーティーを組んだ子で、確か王国領のどこかの地方の神殿で働いている巫女だ。17歳とのことだが年齢より幼く見える。
ミキオ「久しぶりだな、迷子にでもなったか」
サラ「うちそんな子供やないです〜」
ミキオ「ザザ、この子に飴かなんか出してあげて」
サラ「まだ童顔いじりします〜?」
ミキオ「冗談だ。今日は何かあったのか」
サラ「真顔で冗談言うひと怖いです〜。実は、うちとこの神殿があるコストー地方ヤシュロダ村にヘルハウンドが現れるようになって〜」
ミキオ「ヘルハウンド」
ザザ「ヘルハウンドってのは魔物の一種で、牛ほどもある巨大な犬だよ」
事務所スタッフ唯一の異世界人、エルフのザザが注釈してくれた。
ミキオ「大変じゃないか。ギルドに討伐依頼は出したのか」
サラ「出したんやけど、なかなか受けてくれる人がおらんくて〜。このままやと犠牲者が出るかもです」
ミキオ「わかった。じゃあ君のその村まで行って話を聞こう」
おれとサラのふたりは“逆召喚”で中央大陸連合王国領コストー地方のヤシュロダ村にやって来た。
ミキオ「ここがヤシュロダ村か…」
サラ「それどうしても言わなあかんのですか〜」
ミキオ「あ、いや、場面転換した感じが出るだろ」
神官「おお、サラ! 横にいてはるのは召喚士のセンセか?」
ミキオ「召喚士のミキオ・ツジムラだ」
神官「よう来てくれはった。わてはこのヤシュロダ村の村長で神殿の神官、そしてこのサラの祖父のゾフト・ザラッダちゅうもんです」
ミキオ「よろしく。詳しく話を訊きたい」
神官「では神殿へ」
おれはヤシュロダ村の神殿に案内された。寂れた村だが神殿はそこそこに大きくて立派だ。宗教施設以外にも村役場などとしても機能しているのだろう。神官のゾフト氏は声の大きい矍鑠とした老人で、ちょっと晩年の岡八郎師匠に似ている。
神官「何から話しまひょうかのう…あれはわてがハタチの時やった、うちの神殿にごってええ女の巫女がいてましてな、わても今はこんなんやけど昔は“ぬか六”と言われた男で…」
サラ「おじいちゃん、長なるから。要点だけ言おか〜」
神官「おおそうか」
サラ「すんません、おじいちゃん時々ボケるんですわ〜」
??? この場合どっちの意味だ?
神官「つまりやな、ここ最近森からヘルハウンドが出るようになったんですわ。それも数頭。必ず真夜中に統制の取れた行動で獲物を狩る。既に村の大事な鶏や羊が喰われとる。次は人を襲うんちゃうかとみんな心配しとるわけです」
ミキオ「かつてこの村にヘルハウンドの出現例は」
神官「わては今年80歳ですが、わての知る限りおまへん。明日は祭なんやが、一番人気の闘鶏の鶏も半分がた喰われてまいよりました、これでは開催の中止も視野に入れなあきません」
ミキオ「ふうむ、どうも腑に落ちないな…」
サラ「何がですか〜?」
オーヴァ「邪魔しまっせ! 神官はんいてはるか?」
おれがサラに答えようとしたその時、神殿の中に貴族らしき中年男が入ってきた。ちょび髭で奇妙な帽子を被っている。見るからに怪しげな風体だ。
神官「領主はん、何しに来ましたんや。移住はせえへんと言うた筈でっせ」
オーヴァ「まあそんな早々に話を決めるもんやないがな」
ミキオ「失礼、ちょっといいか」
オーヴァ「なんや君は」
ミキオ「マギ地方ウルッシャマー地域領主のミキオ・ツジムラ男爵だ」
オーヴァ「こりゃどーも。僕はこの村を含む3村の領主でオーヴァ・ティアンノ・ポタポターキ子爵と言います。よその領主さんが何の用でっか」
ミキオ「今回は召喚士として来た。移住、と聞いたが」
オーヴァ「いや、僕の職業は“霊能力者”でね。この村の森からものすごい異様な霊気が出てるんで落ち着くまでしばらく移住しなはれと言うとるんです。もちろん移住の費用は領主の僕が工面しますよって」
神官「霊気なんて出てまへんがな。神官のわてが言うてるんでっせ」
オーヴァ「特殊な霊気やからあんたには感知できませんのや。ヘルハウンドみたいな変な魔物が出てきてるんやろ」
ミキオ「ちょっと待て、めちゃくちゃ怪しいなあんた」
オーヴァ「何ちゅうこと言うんや。君は男爵! 僕は子爵やで、どっちが上やと思ってるんや!」
ミキオ「おれの二つ名は“最上級召喚士”でな。魔獣から概念までなんでも召喚できるのが売りだ。ちょっとあんたの“本心”を召喚してもいいか」
オーヴァ「な、何をわけのわからんことを言うてるんや。もう僕は帰るで。神官はん、早よ態度決めなはれや。領主権限で強制的に移住させてもええんやで!」
ミキオ「なんだあのわかりやすいのは」
サラ「最近急にあんなこと言うてきたんです〜」
ミキオ「なるほど、これはヘルハウンドだけ退治すればいいというわけでもなさそうだな。今夜はこの村に泊まらせてもらおう」
サラ「あ、ほな神殿の客室を使ってください〜」
ミキオ「いや、おれは野宿する。サラ、君も手伝ってくれ」
サラ「野宿〜!?」
その夜、村民の一人が所有する中規模の牧場の奥でおれと巫女サラは寝ずの見張りを敢行した。夜食としてサラの得意料理であるフルーツハムサンドが出てきたが相変わらず評価の難しい味だ。
サラ「ミキオさん、ちょっと質問〜」
ミキオ「どうぞ」
サラ「なんでこの牧場にヘルハウンドが来るて思ったんですか〜?」
ミキオ「まあここじゃなくてもいいんだ。ヘルハウンドはおれたちを狙って来るんだから」
サラ「え、どういう事ですか〜? なんで魔物がうちたちを〜?」
ミキオ「ハウンド(猟犬)は猟師に使役されて初めて本領を発揮する犬だ。ヘルハウンドも然りで必ず誰か命令している奴がいると思う」
サラ「なるほど〜」
ミキオ「その命令してる奴がいちばん目障りなのはおれたちだろう。だからここでヘルハウンドが襲いに来るのを、牧場を見張ってるフリして待ってるってわけだ」
サラ「ほんならもうひとつ質問〜」
ミキオ「どうぞ」
サラ「ミキオさんは王女さんと付き合うてるんですか〜?」
ミキオ「付き合ってない!」
サラ「え、でもかわら版の芸能欄に書いてましたよ〜」
ミキオ「あれはパパラッチが好き勝手に書いてるだけだ。信じるな。お前、子供なのにそんなゲスい記事を読むんじゃない!」
サラ「子供ちゃいますよ、17歳ですよ〜。なに焦ってるんですか〜」
ミキオ「シッ! 何か来るぞ」
サラ「ごまかしはった〜」
おれの神与特性の身体強化能力のうち、異次元嗅覚が動物の臭いを、地獄耳が高速で移動する足音を捉えた。
ミキオ「気をつけろ、ヘルハウンドだ。8頭はいるな。あと2〜3分で来るぞ」