第251話 秋葉原大決戦!コンカフェは地獄だ!(第四部・完結編)
知人の宮廷書記官カクベー・ジッシを異性に慣れさせるためにおれは東大の先輩で秋葉原に3店舗のコンカフェを経営する今 嘉兵衛氏に頼み、彼の店を案内してもらう。案内されたツンデレカフェでおれたちを待ち受けていた秋葉原ナンバーワンメイド・天魔りりすを連れ最後の店であるアニソンカフェに向かう。だがその前に半グレの男たちと遭遇するのだった。
秋葉原電気街を歩くおれたちは、後方を歩いていた女子二人がチンピラにしつこく迫られているのに気付く。チンピラの三人のうち一人は派手な紫色のスカジャンにダメージジーンズ、一人は犬の顔が大きく描かれた白いセットアップだ。奥にいる兄貴分らしき男はゼブラ柄のジャージを着ており身長もあってガタイもいい。グレーの髪を短く刈り上げ、ゴールドの装飾品をいくつも身に着けている下品な男だ。
五味「誰そいつ」
半グレA「いやこいつ秋葉原ナンバーワンメイドの天魔りりすっスわ。YouTubeでゲーム実況とかやってて。あーでもちょうどいいわ。俺らこれから五味くんのマンションで飲み会やるとこなのよ。お前来てお酌してくんね?」
天魔りりすの手首をぐいと引っ張るチンピラ。
りりす「離してよ」
半グレA「お高く止まってんじゃねーよ。酌くれぇいいだろ」
永瀬「ちょっと。いい加減にしないとウチの侯爵が来ますよ」
半グレB「コーシャク~? 何言ってんのお姉さん(笑)」
五味「そいつも拉致っていこうぜ。いい女じゃん」
反社か半グレか知らないが、どうしようもない連中だな。こいつらの一人が永瀬の腕を取ったタイミングでおれは彼らの視界に入っていった。
ミキオ「その二人はおれの同行者だ。手を離せ」
半グレA「何だあ? 誰だオメー」
半グレB「あのさー、ウチら五味軍団つってここにいる五味くんの仲間なんだよね。知ってんだろ? 格闘家の五味尊大」
ミキオ「よく知らないが、お前らに相応しいグループ名だな」
りりす「(か、かっこいい…! このひと全然ビビってない…!)」
半グレB「んだコラァ!」
半グレA「お兄ちゃんさー、ウチらも五味くんの名前出した以上引くわけにいかなくなったんだけど、この状況わかってるよね?」
五味「だりーなオイ」
指をポキポキ鳴らしファイティングアピールをする五味という男。さっきは知らんと言ったがそう言えばどこかで見たことがあるな、確か格闘家で、ストリートファイトを申し込まれたらいつでも誰でも受けると豪語してる男だ。
マグナ「ミキオ先生、ここは僕が」
ミキオ「下がっていてくれ。すぐに引き下がれば大目に見ようと思っていたが、結構タチの悪い連中のようだ。こういう奴らには強烈なトラウマを植え付けてやらないといけない」
五味「え、すげーじゃんお前、俺にトラウマを植え付けるって言ってんの(笑)。正気かよ」
ジャージを脱いでタンクトップになる五味尊大。肩あたりの広範囲にサモアンタトゥーが入っている。筋肉はくっきりと隆起しておりなるほどこれは格闘家の肉体だ。
五味「ちなみに俺、352戦351勝1分けな。wikiに項目あっから病院でググってみ。おらぁ!」
ぶぉんっ! 空を切る五味のパンチ。おれの顔を狙ってきたが神のスピードで避けたのだ。
五味「なっ…」
半グレA「五味くん、ポリ来る前に片付けちまいましょーよ! そんなメガネ野郎一発っしょ!」
五味「っせーな、わかってるよ!」
五味尊大は何度もパンチとキックを繰り出してくるが、どれもおれには当たらない。いくらプロの格闘家だろうが神の脚力と動体視力を持つおれからしたらスローモーションみたいなものだ。面倒くさいのでおれは一旦距離を取った。
五味「てめ、いつの間にそんなところに…」
ミキオ「なるべくならこんなものは召喚したくなかったんだがな…エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、この半グレどもの睾丸」
おれがそう唱えた直後、赤のサモンカードから紫色の炎が噴き上がり、その中からピンク色で小さめの鶏卵くらいの物体が合計6個ぼとぼとと落ちてきた。
半グレA「な、なっ…?!」
五味「お前、一体何を…」
直感でこれはやばいと思ったのか、冷や汗を伝わせながら俺に訊ねる五味。
ミキオ「言葉通りだ。お前ら、自分の股間を確認してみろ」
五味「まさか…おわっ?!?! 無い、無い! 俺のタマが?!」
半グレA「わーっ?! 俺のも無え!」
半グレB「俺のもだ! てめー、なんてことしやがるんだ!!」
ミキオ「トラウマを植え付けると言ったろう。さっさとそれ持って消え失せろ」
五味「うわーっ!! 俺のタマが! うおおーん!」
号泣しながら6つの睾丸を持って走り去っていく五味尊大とその後輩たち。あいつらどれが誰のものか区別ついてるのかな。
マグナ「ミキオ先生、容赦しませんね…」
ミキオ「心配ない、5分経ったら元に戻る」
今「いや~、凄いね辻ちゃん! どんな手品使ったのよ!」
ミキオ「いやまあ」
今先輩に召喚魔法の話をしてもあれなので言葉を濁し、おれは女子ふたりに訊いた。
ミキオ「君たち無事か? 変なものを見せてすまなかったな」
りりす「かっこいい…」
ミキオ「えっ」
りりす「えっ」
顔を赤らめおれを見つめる天魔りりす。なんだなんだ、どういう態度だこれは。
りりす「あ、いや、じゃなくて…ありがと」
視線をそらし、消え入りそうな声でそう呟く天魔りりす。うーん、この人こんなキャラだったか?
ミキオ「ところでカクベー氏は…」
マグナ「そこです」
見るとカクベー氏は目立たない暗がりにうつ伏せになって倒れていた。失神かなと思ったがぷるぷる小刻みに震えている。これは狸寝入りだな。おれは彼を揺すって声をかけた。
ミキオ「おい、カクベー氏、しっかりしろ」
カクベー「…はっ、おれ生きてる! 良かった、死んだじいちゃんが急に迎えにきて向こうに連れてかれそうになってさ…え、あのくされチンピラどもは?」
ミキオ「あんたの後ろにいるぞ」
カクベー「ひいっ?! ごめんなさぁい!!」
おれの冗談に怯え土下座の体制に入るカクベー氏。こいつ本当にダメだな。戦えとは言わないがせめて女子を連れて逃げるくらいはして欲しかった。
ミキオ「冗談だ。おれが懲らしめておいたから大丈夫」
カクベー「冗談かよ! 脅かすなよ! テメー!」
安堵の笑みを浮かべながらおれを小突いてくるカクベー氏。まったくしょうもない男だ。おれたちはようやく目的のアニソンカフェに向かった。
数分後、おれたちはラジオセンター周辺を抜けた蔵前橋通りにあるアニソンカフェ“神我孫”に来ていた。
客G「せーの、よっしゃいこー!!」
“涼宮ハルヒの憂鬱”の主人公ハルヒのコスプレをしたキャスト女性の唄うハイテンポでノリのいいアニソンに合わせヲタ芸をする客たち。そんなに広くない店内だが大画面ディスプレイを背景にしたステージがあり、非常に活気がある。さっきまで暗がりで震えていたカクベー氏もキャストの女性にキャッキャ言いあって盛り上がっていた。
ミキオ「なるほど、これがアニソンカフェか…」
今「楽しいだろ? 次の曲入ってないからうちらが入れようぜ! 辻ちゃん、何か唄ってよ!」
上機嫌でおれに電モクを差し出す今先輩。
ミキオ「いやおれは最近のアニソン知らなくて…」
りりす「ね、りりす辻ちゃんとデュエットしたい」
今先輩に習い、おれを辻ちゃんと呼んで横から入ってくる天魔りりす。
今「珍しいな、りりすがこんなこと言うなんて…」
ミキオ「いや、デュエットと言われてもアニソンでデュエット曲なんてあったっけ」
りりす「なんでもいいよ。合わせるよ」
天魔りりすがなぜかやたらグイグイくるのでやむなくおれは適当な曲を探して電モクでリクエストした。曲は1975年の特撮番組“秘密戦隊ゴレンジャー”の主題歌“進め!ゴレンジャー”である。アニソンの帝王ささきいさおと同じく女王堀江美都子のデュエット曲であり、バックコーラスをコロムビアゆりかご会が務めている。
ミキオ「真っ赤な太陽、仮面にう〜けて〜♪」
おれはステージに立ちそれなりに熱唱したが、店内の空気は冷え切ってしまっていた。女性キャストたちはこの曲でどうノッていいかわからず戸惑っていたし、客たちも一応ヲタ芸をしてくれているが申し訳ない気分になる。うーむ、選曲を間違えた…か?
ミキオ「吹かせ〜緑の〜明日の風を〜♪」
そろそろサビだと言うのに天魔りりすはまったく唄おうとしない。それはそうだろう。初見で唄えるような曲ではないし、年齢的に知ってるわけはない。おれだって子供の頃レンタルDVDで観たから知っているのだ。
りりす「辻ちゃん」
ミキオ「え?」
ゴレンジャーのカラオケが流れているなか、天魔りりすがマイクを持って語りだした。
りりす「この場を借りて言わせてほしい。りりす、辻ちゃんのことが…」
顔を赤らめ、上目遣いでおれを見る天魔りりす。こ、これは…なぜだ? なんでこんな状況になっている? 何度か言っているがおれは高校は男子校、大学では研究一筋だったので女子との恋愛経験が少なく、こういうアプローチに慣れていないのだ。
客「おお〜っ!!」
もどかしそうに俺に抱きついてくる天魔りりす。大きな胸が当たっている。いや、その…ちょっとこれはどうしたらいいのだ…客もキャスト嬢もみんな俺達を興味津々で見ている。
客「こーくはく! こーくはく! こーくはく!」
告白コールで煽ってくる客たち。手拍子まで入れてきている。いやお前ら勝手に盛り上がってるけど初対面のやつの告白なんか興味ないだろ。
客「くーちびる! くーちびる! くーちびる!」
なになになに、何が始まったの? 怖い怖い、酒が入っているからか、客のアドリブが暴走している。唇がどうしたというのだ。いつの間にかゴレンジャーのカラオケが止まって曲は“メリー・ジェーン”(つのだ☆ひろ 1971年)に変わり、店内の照明がムーディーなピンク色になっておれたちにスポットライトが当たっている。これじゃ平成の恋愛バラエティ番組だ。いくらなんでも店のスタッフの悪ふざけが過ぎるのではないか。恐ろしいことに天魔りりすは目を閉じて唇をおれの方に持ってきている。おれはどう対応したらいいのだ…。
下僕同盟「ちょっと待ったあ!!!」
ムードを破って店のドアが開き、非モテ男っぽい集団がどやどやと店内に入ってきた。
下僕同盟A「我らの堕天使を独占するのはやめてもらおう!」
こいつらよくよく見ればさっきの“ロリータ・ストロベリー・イン・ザ・ムーン”で下僕ロードを作っていた常連客たちだ。全部で20人ほどいる。
ミキオ「あんたら、おれたちを尾けてきたのか」
下僕同盟A「くっ、そうだ! 俺たちは天魔りりす下僕同盟! 貴様、りりす様と軽々しくアフターしやがって! しかもその状況は何事だ! 俺たちのうち誰も経験していないことだ! ことと次第によっては許さないからな!」
怒り心頭といった感じの天魔りりす下僕同盟の連中だったが、当の天魔りりすがそれを制した。
りりす「ちょっと! お店出たらもうメイドじゃないんだから、こっちの恋愛事情にまで踏み込まないで!」
下僕同盟A「れ、恋愛?!」
ミキオ「恋愛?!」
下僕同盟A「きさま〜ッ! 絶対に許さないぞ、納得行くまで説明してもらおう!」
ミキオ「待て! 誤解がある! おれは何もしていない!」
吊し上げをくらい身動きの取れないおれ。腕組みしてその状況を見ている天魔りりす。ハイボールをのみながらスマホを見ている永瀬。焦る今先輩。おろおろするマグナ君。どさくさに紛れてキャスト嬢の手を握っているカクベー氏。こうしてカクベー氏の秋葉原コンカフェ修行はグダグダのまま終幕を迎えるのだった。




