第249話 秋葉原大決戦!コンカフェは地獄だ!(第二部)
推し活と称してマグナ君を追い回していた宮廷書記官カクベー・ジッシに嫌気がさしたマグナ君が助けを求めてきたのでおれはカクベー氏を異性に慣れさせるために東大の先輩で秋葉原に3店舗のコンカフェを経営する今 嘉兵衛氏を紹介し、メイドカフェを案内してもらう。だがカクベー氏は早速そこで騒動を起こすのだった。
りおりお「きゃーっ!!」
カクベー「ふんぬー!」
野生のスイッチが入ったのか、本能の赴くままにメイドさんにしがみつこうとするカクベー氏。恐るべき力だがおれの神の膂力にかなうほどではない。おれが彼を制していると、マグナ君がやってきてカクベー氏の頸動脈を手刀で突くことで脳血流を止めて失神させた。時代劇などでよく見る“当て身”というやつだが、これはちゃんと古武道で実在する技であり効果も確かだ。うっと軽く呻き、体をかがめて倒れるカクベー氏。
今「えっ死んだの?」
マグナ「気絶させただけです」
永瀬「マグナ君、こんなこともできるんだね…」
マグナ「僕、こういう顔面してるせいか結構変なやつに襲われたりするんで、護身用に覚えたんです」
この厄介な男を上から見据えながらマグナ君の凄絶な“美形あるある”を聞いていると、ほどなくしてカクベー氏はむっくらと起き上がった。
カクベー「うーん…はっ、あのメイドさんは??」
起きるなり辺りをキョロキョロ見回すカクベー氏。
ミキオ「彼女は今日はもう上がりだそうで、帰った。カクベー氏な、あれはあくまで業務としてやってるんで、本気になったらダメだ」
おれがちょっと説教してやったらカクベー氏は早口でまくし立ててきた。
カクベー「いやいやいや、それはわかった上であそこまでされたら男からアプローチしてやらなきゃ可哀想かなと思ったんだよ! まあいいよ。おれもちょうどいま女いらん感じだったから逆にありがとね」
あくまで悪びれず言い訳に徹するカクベー氏。支離滅裂だな。みんなに迷惑をかけといてその態度は何だ。秘書永瀬の舌打ちが聞こえる。宮廷もよくこんなの雇ってるもんだ。
今「いやー凄いねお兄さん! ここまでメンタル強いお客はなかなかいないよ! あんた気に入ったわ! 次は俺ちゃんの経営する店の中でも最上級のコンカフェ紹介するよ」
今先輩は今先輩で夜仕事に慣れ過ぎておかしくなって変なことを面白がるフェイズに達しているのだろう。難儀なことだなとは思うが、助かるのは確かだ。
おれたちが“めいどぅーむず♡デイ”を出ると、店の裏口から地味〜な中年女性がこそこそと出てきており、今先輩はその女性に声をかけた。
今「中尾さん、さっきはごめんね! 明日も頼むね!」
中尾「はい…」
女性はほとんど黒づくめの服装で、蚊の鳴くようなか細い声でそそくさと去っていく。もしやと思ったので一応訊いてみた。
ミキオ「あの、立ち入ったことを聞きますが、さっきはごめんねとは…」
今「いまの人、りおりおなのよ。さっきのプレミアムメイドの」
一同「えーーっっ?!?!」
心底びっくりした。確かにああいう業種の人はオンオフのスイッチが無いとやっていられないと思うが、あれじゃまったくの別人だ。
マグナ「こ、これが異世界ニホンですか…!」
カクベー「ほらこれだよ。あぶないあぶない。騙されなくて良かった」
なぜか安堵の表情のカクベー氏。理性を失ったあんたが偉そうに言えた義理か。
今「ま、ナイトワークの女の子ってのは多かれ少なかれあんな感じよ。じゃ次のお店行くよ」
電気街を少し歩くと、明らかにさっきの店とは雰囲気の違う店が見えてきた。大きな看板には黒地に紫と高級感のあるロゴで“ロリータ・ストロベリー・イン・ザ・ムーン”と書かれている。
永瀬「ここも今先輩のお店なんですか?」
今「そ。いわゆるツンデレカフェね。彼にはピッタリの店だと思うよ」
カクベー「ツンデレ…カフェとは?」
ツンデレという日本語に対応する氾ガターニア語の単語は[ɳ ð ɮ ʁ ɕ ɦ]であり、おれの逆召喚で転移した者の耳にはそう変換されて聞こえている筈なのだが、その単語とカフェが頭の中で結びつかないのだろう。まあその気持ちはわかる。
今「入ってみたらわかるよ」
今先輩の後を追い店内に入っていくおれたち。ここは既にひとり席が埋まっていたため奥の大テーブルに全員で座ることになった。何も言われないので適当に椅子に座ると無愛想なメイドさんがこっちにやって来た。やはり一般的なルックスだがメイド衣装がばっちり決まっているため可愛く見える。
ぜのん「何しに来たの」
カクベー「えっ?」
同じような衣装なのにさっきのメイドカフェとは180度真逆の接客をされ戸惑うカクベー氏。
ぜのん「だから何しに来たのかって聞いてんだけど」
カクベー「…」
彼は何が起きているのかわからず狼狽していた。
マグナ「なんですか? あなたちょっと客に対して態度悪過ぎじゃないですか?」
立ち上がってメイドさんに文句を言うマグナ君。メイドさんは彼のあまりの美しさに軽く怯んだが、めげずに業務モードに戻りツンツンし続けた。
ぜのん「は? 何? 文句あるなら帰れば?」
マグナ「ミキオ先生、帰りましょう。ここは店員の教育がなってない!」
ミキオ「マグナ君、ここはこういうコンセプトのお店なんだ」
マグナ「えっ?」
ぜのん「うざ。注文があるならしたら」
あくまでツンツンのメイド。そう言えば彼女はまだ名乗ってすらいないが、名札には『過ぜのん』と書いてある。
今「ああ、じゃあ全員にアイスコーヒーで。それと彼だけはVIP待遇でフルオプね」
店長の今先輩にそう言われてもツンとしたまま返事もせずにキッチンの方に行く過ぜのん。徹底してるな。ややあってその彼女は戻ってきたが、なんと来るなりおしぼりを全員にぶん投げてきた。そしてアイスコーヒーはテーブルにドン!と置く。軽くこぼれたがお構いなしだ。あまりの様式美におれは感動した。何よりさっきのメイドカフェと違ってこっ恥ずかしくないのがいい。おれはこの完成された世界観に感服していたが正義感の強いマグナ君は憤っていた。
マグナ「なんなんですか、この店は! はっきり言って不快です!」
顔を赤くして怒るマグナ君。どんな表情でも美しい彼だが、店長である今先輩がなだめた。
今「美少年君、ここはこういうコンセプトのお店なのよ。メイドさんは最初はタメ口でぶっきらぼう、無視気味のツンツンした態度を取るんだけど徐々に心を開いてきたり、照れながら接してくれたりするの。普通の癒し系メイドカフェとは正反対のギャップを楽しむわけよ」
マグナ「…じゃあ無礼な接待がこのお店のコンセプトってことですか? 意味不明だ、僕には理解できない!」
マグナ君が頭を抱えながら着席したタイミングでさっきのメイドさんがムスッとした顔でこっちにやってきた。
ぜのん「うるさい」
ペシッ! なんとそのメイドさんはカクベー氏の前に立って彼を軽く平手打ちした。大きい声を出したのはマグナ君なのに。我々は唖然となったが今先輩はニヤニヤしていたのでどうやらこれもこの店のオプションのようだ。
ぜのん「店で騒がないで。あなたとは後でゆっくり話してあげるから」
カクベー「…へっ?」
おお、このタイミングでデレてきた。なるほどこの落差はキュンとなるな。叩かれて怒られた筈のカクベー氏は頬を赤らめ呆然としていた。
カクベー「これは…効きますね…さっきの店よりキュンキュンしたかも…」
今「おお、反応いいじゃない。この店はM男にウケるのよ」
人間の性格をカジュアルにSとMに分類するのは日本独自の文化であり、元来は西洋発祥の性的嗜好を表す概念だ。カクベー氏がツンデレカフェの真髄に触れ感動に打ち震えていると、別なメイドさんが無愛想な表情でこっちのテーブルに近寄ってきた。
メイドB「店長、業務連絡なんだけど」
あくまでムスッとしながら業務連絡を伝えてくる別なメイド。いくら店のコンセプトがそうだからって店長にまでこんな態度取るか? ツンデレやり過ぎて感覚がバカになっているんじゃないのか。そのメイドは今先輩にそっと耳打ちした。
今「えっ、りりすが出勤する?!」
今先輩がその名前を言った瞬間に客席が一斉にざわめきだした。何だ何だ、何かあるのか。
客A「店長、りりす様出勤するの? だったら担当して欲しいんだけど」
客B「ちょ待って。こっちも頼む」
客C「いや俺が先でしょ。俺古参だよ?」
今先輩に殺到する客たち。なんだこれは…そんなに人気のあるメイドさんなのか。
今「待ってください、ストップ。ストップ! お気持ちはわかりますが今日はVIPのお客様がいらっしゃるんで、そちら優先ということで」
客A「マジかよ」
客B「早く頼むぜ」
とんでもない人気だ。客たちがみな一様に気色ばんでいる。
ミキオ「凄い人気のメイドさんがいるんですね」
今「天魔りりす。秋葉原ナンバーワンメイドよ。顔はトップアイドル、プロポーションはモデル、声は声優の神メイドで、いろんな芸能事務所からスカウトがきても一切応じず、気まぐれに出勤するメイドカフェとゲーム実況動画だけで荒稼ぎしてタワマンに住んでんのよ」
ふーん、この店にはそんな凄いメイドさんが在籍してるのか。まあでもあまり興味ないな。本来の目的と違うし。
今「もちろんこの席について貰うから」
ミキオ「え、いいですよ先輩。待ってるお客さんもいるんでしょ?」
カクベー「いやそんなに凄いメイドさんがいるんなら是非お会いしたいです!」
おれと今先輩の会話に口を挟んでくるカクベー氏。既に鼻息が荒い。
今「彼、欲望に忠実だね! お、来たきた。あれがアキバの堕天使、SSRメイドの天魔りりすよ」
客「おお〜っ」
バックヤードのドアが開き、客たちの歓声とともに現れる天魔りりす。客たちの体でよく見えないが確かに凄まじいオーラは感じる。果たしておれたちはこのレジェンドメイドといかなる対面をするのか。次回、秋葉原大決戦編第三部、おれたちは秋葉原の真髄に迫る。




