ピンク色の教科書~3~
「普通に考えて、この量のエロ本を隠せる場所って限られるじゃん」
針生が学校の地図を簡易的に黒板に書いて、解説を始めた。
「まず、教室は駄目」
「ロッカーの中はどうだ?出し入れを放課後に限定すれば」
「いや、教室じゃ使えないでしょーやだなー鈴本ってばー」
えっ使うところまで考えるの!?それ言い始めると学校の中全部アウトじゃない!?
「これだけの量が集まってるんだからさー、単に貸し借りとかの為に学校に持ってきてた訳ないじゃん?普通に使ってたって考えるしかないじゃん?」
うっわーお、凄く嫌な推理じゃないですかー!やだー!
「……まあ、そもそも俺達のロッカーのサイズを考えると、複数人の共犯でもない限り、そもそもロッカーの中に収まりきらないですよね、この分量だと」
社長が尤もな事言ってくれたんだけどさ。それは俺も異議ありですわー。
「いえ!社長!異議ありです!今回は絶対に共犯ですよ!だって全然ジャンル違うじゃないですかこの本!」
うん。俺もそう思う。
だって普通、姉ものと妹ものが両方好きな人っている?普通どっちかじゃん?ん?
いや、百歩譲って姉も妹もイケる人居るかもしれないよ?でもさ、だったらロリものとお姉さんものが両方あるのおかしくない?しかもこの段ボールの中、普通にかなりニッチな奴幾つか入ってるし。この性癖全部網羅してる奴居たらちょっと引くわー。
「うん。そうそう。複数人の犯行だって考えないとさ、これ、おかしいと思うんだよね」
針生もなんか満足気。いよっ、名探偵!
「でもこれ、エロ本だから。エロ本ってまあ、隠れて読みたい訳じゃん」
「もしかしたら見られながら読みたい変態が居るかもしれません」
「あのさあ、そんなレアケース一々考慮しないでくれる?」
そもそも見られたがりが居るんだったら俺達もそいつを知ってる可能性があるんだよなー。そんな噂、聞いたこともないし。
「まあまあ。とりあえずさ。それで俺、もう『元々エロ本があった場所』の見当はついちゃったんだよねー。要はさ?ある程度少人数の複数人が隠れてられる場所、ってことでしょ?それもできれば、正当な理由がある奴」
「……ああ」
そこで鈴本、手を打った!
「部室、か」
「そうそう!部室だったら案外、色々隠しておけるじゃん!俺達もクラス替えとか大掃除とかの度に自分の荷物、部室の棚に入れてるし。っていうか今の俺らの状況が正にそれ!あははは!」
「う、うーん?そう言われちゃうとなんとも言えないんだけど、なんか一緒にしてほしくはないんだよなあ……」
でもエロ本が詰まった段ボールを囲んで会議してる事実は変えられないんですわー。
「……部室、ってことは、部室棟?」
「まあ、とりあえず順番に考えてこうよ」
角三君が指折って部活の数数え始めたけど、案外簡単に割れる気がするなー。
「まず、部室が無い部活ってのは基本無いね」
「ああ。この学校、敷地には恵まれてるからな」
うちの学校、割と歴史ある学校だからか、案外広くて棟もいっぱいあるんですわー。
「で、とりあえず犯人として、『女子』運動部は除外していいじゃん?」
「女性もこういったものを嗜むかもしれませんが」
「だから!そういうレアケース一々考慮しないでくれる!?」
「舞戸なら読むんじゃね……?」
「だからやめろって言ってるだろ!」
実は舞戸さん、男性向けエロもそこそこいける人だけどそこは一旦置いておこう。で。
「同じ理由で吹奏楽部も外していいよね?」
「……まあ、男女比おかしいもんね、あそこ……」
「ほとんど女子部だからな……」
うん。吹奏楽部はね。あそこは女子が圧倒的に多いし。っていうかそもそも人数多すぎて、隠しごとするのに向いてない気がするんですわー。
「あと、女子部じゃないけど家庭科同好会も除外していいんじゃないかなあ。あそこは実質女子部だし」
「合唱部も除外して良さそうだな。第二音楽室しか部室は無いはずだし、女子と男子の数が半々ぐらいだろ、あそこは」
「新聞部と演劇部も男女比半々だよね。除外で」
「文芸部と漫研は……あそこの女子は普通にエロ本読みそうだけど除外でいい?」
「あっ、まさかこれ全部描いてるって事は無いよね?コピー本じゃないし普通に三次元の奴あるし……うん」
「あと放送部ですよ!あいつらにエロ本は必要無い!必要無いじゃないですか!もう!」
「あー……カップル、だったっけ、あそこ……」
……ってことで、割とサクサク除外できた。
いやー、知らない部のことでも案外推理できるもんだね。びっくり。
「更に俺達、割と兼部してるじゃん?とりあえず天文部にエロ本隠し文化は多分無い!或いは俺がハブられてる!あははははは!」
「生物部にも多分無い。或いは僕だけ知らないのかもしれないけど、あそこにエロ本隠すスペース無いから」
「情報部も多分無いなあ。……っていうか、情報部こそ、アナログの本なんて使わないんだよなあ……」
「そしてこういうことを一番やらかしそうな化学部には完全にアリバイがあるからね!俺達という!」
「逆にこの段ボールを発見したのが俺達でなかったなら、真っ先に疑われるのは俺達でしたね」
……そして!本来だったら滅茶苦茶疑わしかったであろう部も、俺達がそれぞれ兼部していたりするおかげで無事除外!いやー、つくづく俺達が化学部で良かったっすわー。っていうかこの段ボール見つけたのが俺達で良かったっすわー。いやほんとに。
「……だが、ここから絞るのは難しくないか?残ってるのは大体運動部だが、運動部の内情なんて碌に知らないしな」
鈴本が考え込んでるけど、針生がにやにやしながら鈴本の肩を叩いた。
「いやー、これで十分だって!……とりあえず運動部、って絞れただけで、もう相手の動機まで推測できるし」
にやにやしながら、黒板の一角……『部活棟』に○を付けた。
「運動部の部室って、全部この中じゃん」
うんうん。
「で、部活棟って、引っ越ししなきゃなんなかったじゃん?」
……ん?
あ。あー……はいはいはい。そっか。そういうことね。完全に理解したわ。
「だって補修工事入ったから!」
「……そういえば朝、言われてたな……」
「もとはと言えばその影響で大掃除が始まり、俺経由で図書室から科学雑誌が来たわけですしね!」
思い出した思い出した。そう。入試前の大掃除やってたのは俺達でした!そんで部活棟に補修工事入ったり、課外学習棟でバ○サン焚いたり、体育館の雨漏り直したりしてるって、うん、言われた言われた。そういう連絡、朝のSHRで受けた受けた。
「つまり、部活棟の補修工事に伴い、部活棟の荷物の撤退を余儀なくされた、という訳ですか」
「まあ、工事の人が部室の中にまで入るかもしれないし、その時にエロ本置いてあったらまずいよねえ」
「先生も入るかもしれないしな」
……おっ。俺、閃きましたわ。きましたわ。
「でも、そもそもそんなエロ本、ゴミ捨て場に出すのはナンセンス。隠し場所としては優秀じゃない!……ってことはつまり、犯人は慌ててエロ本を隠した?」
「そう!」
「でも荷物の移動が必要だって前日までに分かってなかったのはおかしいし、つまりつまり、昨日になって慌ててエロ本片付けなきゃいけなかった犯人達は、『事前に補修工事の連絡を受けていなかった』ってことでOK?」
「OK!」
針生からもOKサインが出たところで俺氏渾身のガッツポーズ。ころんびあ。
「……あー……そっか、活動日……」
角三君が頷き始めたらへんで、全員が状況を完全に理解!
そう!つまりこの犯行!
『活動日が少ない部活』の犯行に間違いない!
それから俺達は今年配布された部活動紹介誌(生徒会が発行してる)を開いて、目星を付けた。
「……間違いないな。部活棟に部室があって、男子しか居ないであろう部活で、かなり少人数」
「しかも活動日が不定期。事前に連絡が無くてもおかしくないし」
……それは、『山岳部』!
「こんな部、あったんだ……」
俺達ですら存在を忘れていたマイナー運動部であった!
「……で、どうすんの?これ」
「犯人の目星はつきましたが、確証は得られていませんしね。しかしここは突撃するしかないのでは?」
「いや、山岳部じゃなかったらどうすんの」
「人狼ゲームでもそうですが、俺は確率論からの決め打ちで動くタイプです」
「じゃあ何?お前が山岳部に行って『すみませんがこのエロ本の持ち主はあなた達ですか?』とか言える訳?」
「言えますが」
「もう僕からお前に言うこと無いわ。好きにして」
社長の漢っぷりはいつもの事だけど、俺としてはもうちょいスマートなかんじに行きたいよね。うん。
「いや、普通に山岳部、行っていいと思うよ、俺」
しかしここで針生からGOサイン!これは一体!?あ、社長1人矢面に立てればいいからかー。そっかー。
「だって、今日山岳部が部室に居たらそれこそ証拠じゃん」
……。
「普段活動してない部が今日部室に居たら、それこそ証拠じゃん」
……針生、スマートじゃん?ん?
「よっしゃー。じゃあ事件解決だー。いくぞー」
「いやちょっと待て!全員で行こうとするな!」
「俺が行きましょうか?」
「うん、そうして……」
ということで、ま、多分解決解決、っと。ちゃんちゃん。
+本日の記録+
あ……ありのまま今起こった事を記録するぜ!
「間違えて捨てた科学雑誌をごみ捨て場から拾ってきたと思ったらいつのまにかエロ本を拾ってきていた」
な……何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をされたのか分からなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……。
催眠術とか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
山岳部の恐ろしさの片鱗を味わったぜ……。
あ、要はすり替えの犯人は山岳部の皆さんでしたー。で、無事に科学雑誌も戻ってきたんで一安心だね!
彼らは元々、明日の資源ごみ回収までにまたすり替え直しておく予定だったらしいけど、俺達がエロ本を拾ってきちゃったからどうしようってなってたっぽい。ま、そういうわけでWIN-WINですわー。
ちなみに交渉ターンは社長が1人でやってくれました!ありがとう社長!君の勇姿は忘れない!
*追記(記:舞戸)*
なんでこんな面白そうなことあったのに教えてくれなかったの!?私も社長の勇姿見たかった!
*追記2(鳥海でーす)*
このノート舞戸さんも読むって忘れてたわ。うっかり。
とりあえず俺達の精神安定のためにも、あそこに舞戸さんが居るとちょいとやりづらかったんだわ。ごめんね。
割と舞戸さんイケる口だって分かっててもね、こう、やっぱなんとなく、っていうか。上手く説明できないんだけどね。
舞戸さんをのけ者にしたいわけじゃないんで、そこは分かってほしいかなって。
*追記3(記:舞戸ですー!)*
それはいっぱい分かってる。わがまま言いました。すまぬ。いつもありがとね。
なので君達が最近妙に山岳部の人と仲良しなのも、時々山岳部の部室に通ってるのにも口出しはしないとも。うん。そこまで野暮じゃないよ、私は。
*追記4(と)*
なんでばれたの……?




