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白紙の証明~1~

2月1日

天候 :降ったり止んだり

記録者:加鳥

 1年の間で一番寒いのって1月から2月までの間らしいけれど、今日なんか本当にその日、っていうかんじがするなあ。

「雪よりも雨の方が寒いんだよねえ……」

「あー、分かる分かる。雪降ってると断熱効果も生まれるけど、雨だと温度にダイレクトアタックしかけてくるかんじする」

 うんうん。そうなんだよなあ。

 今日は雨が降ったり止んだりしてる日で、それで見事に登校らへんの時間と下校らへんの時間に雨が降ってるっていうね……何だっけなあ、こういうの。マーフィーの法則?

「あと雪が降ると私達は庭を駆けまわるのであったまる!雨だと庭駆け回らないからあったまらない!」

「お前は廊下でも走ってれば?」

「成程。じゃあ羽ヶ崎君も一緒に走る?」

「走らねえよ」

 なんとなく寒いと動きたくなくなるし、舞戸さんの言うこともなんとなく分かるけれどまあうん。廊下は走らない方がいいと思うよ。この間も舞戸さん廊下走ってたせいでバスケ部の先生にバスケ部への勧誘受けてたし……。

「しかしここは我らが化学部!エアコンは無いがストーブはある!そして何より!」

「ガスバーナーがあるぜ!いえーい!」

「いえーい!」

 ……それにまあ、廊下を走るよりはこっちの方がいいよね。

 うん。この化学実験室って何の因果なのか知らないけれど、エアコンが無いんだよね。各教室にはエアコンがついてるのに、何故か実験室にはエアコンが無いんだよね。だから夏場は死ぬほど暑いんだけど……冬場はまあね。ちょっぴり風通しがいい教室ではあるけれど、ストーブつけてストーブ近くの机に固まって、そこでガスバーナーつけてれば案外あったかいんだなあ。

 ……まあ、それもこの瞬間だけなんだけどね。

「よし。俺も書けた。ということで加鳥、悪いが頼む」

「うんわかったよー」

 ちょっと残念なことに、僕、さっきまでここでやってた大富豪で敗退しちゃったんだよ。

 そして寒い仕事は大貧民の仕事ってことで、僕はこれからあったかい化学実験室を出ていかなきゃいけないんだよなあ……。

「ごめんよ、この寒い中、先生を探しに行かせてごめんよ……」

「お前があそこでイレブンバックしなければ加鳥は大貧民にならずに済んだはずだが」

「重ね重ねごめんよ……でも勝負は勝負なので行ってらっしゃい」

「うん。行ってくるよー」

 舞戸さんが渡してくれたクリアファイルを持って、出発するよ。

 行き先は……どこかなあ。

 日疋先生、どこにいるのかなあ……。

 ……うん。大貧民の仕事は、学校中のどこに居るのかまるで分からない日疋先生探し、なんだよなあ……。




 学校の先生って、教科の方でも大変だし、クラス担任でも大変だし、部活の顧問でも大変だから、あっちこっちで忙しいんだね。だから日疋先生がしょっちゅう消えるのは……いや、それはまた別な問題な気がするなあ。

 だって日疋先生、当然のように化学研究室に日疋先生は居なかったし、職員室にも居なかったんだよ。

 学校の化学の先生がこのどっちにも居ないってすごいよなあ……。普通は学校の先生って教科の部屋か職員室に居るもんじゃないのかなあ?

 日疋先生はクラス担任も持ってるから、一応そっちも覗いてみたけれど、そこにも当然のように居ないし。

 どこだよー。どこだよー。先生どうしてどっか行っちゃうんだろうなあ……。


 どうして僕が日疋先生を探す羽目になっているかっていうと、添削の為だったんだよね。

 そろそろ来年度の新入生歓迎期間に向けて、新しい実験演示の類を増やそうか、って話になって、それで幾つか実験の手順とか科学マジックの概要とか、新しく作ったからそれの添削をお願いしに行ってもらってたんだよ。

 いくつか『あっこれは没になるんじゃないかな?』っていう奴もピックアップしちゃったし、そこらへんも含めて先生のご意見を伺おうか、って。

 ……でもその先生が居ないんだよなあ!

 なんで日疋先生はすぐどっか行っちゃうんだろうなあ……なんでだろうなあ……。

 早く出てきてくれないかなあ……。寒いよー。寒いよー。




「なんで先生こんなところにいるんですか!」

「えっごめん」

 結局先生は1階の廊下に居たよ!化学実験室の真下らへんだよ!なんでだよ!

「ちょっと家庭科研究室でお茶頂いてたもんで」

 そんなの分かる訳ないんだよなあ!こっちは物理実験室も生物実験室も情報室も探し回ってたのに先生はその間のんびりお茶飲んでたんだもんなあ!これは許せないなあ!

 ……いや、うん。でもまあしょうがないしょうがない。先生にも先生同士の付き合いとかあるだろうし。うん。しょうがないぞー。

「で、ごめん。何か用?」

「あ、はい。これ見てください」

 やっと先生にクリアファイル渡せたよ。ずっと抱えて歩きまわってたからクリアファイルは人肌温度に温まってるぞ。

「あー。こないだ言ってた奴ね。おっけーおっけー。じゃあちょっとここだと何だから、職員室行ってもいい?」

「はい」

 ここからだと階段上がってすぐ化学実験室なんだけど、中庭突っ切ってすぐ職員室でもあるからまあどっちでもいいかなって。


 先生と一緒に職員室にお邪魔して、先生が添削してくれるのを眺めてたよ。

 やっぱり先生って先生なんだよなあ。読むのも書くのも速い。それぞれが提出した企画書がどんどんアドバイスとか修正とかで赤くなっていくのは見ててちょっと申し訳ない気持ちになるね。

「あ」

「えっ?」

 で、最初の企画書に赤を入れ終わって2枚目に入ってすぐ、先生が変な声出したんだよなあ。

「ペンのインク無くなった」

 ……。


「お待たせー」

 1分後、先生が自分の机から予備の赤ペンっぽいものを持ってきて次の奴書き始めたよ。

 うん、うん……そうだよね。学校の先生って赤ペン、いっぱい使うんだろうなあ。だからインク切れもちょいちょいあるんだろうなあ……。

「あっ」

「えっ今度は何ですか?」

「ごめん、事務室に持っていく奴あったんだった。事務室5時でしまっちゃうからその書類だけ置いてきていい?」

「あ、どうぞ……」

「事務待ちの間にちょっと読み進めるわー」

 ……先生、企画書読みながら職員室出て行ったよ。うん、学校の先生って忙しいもんなあ。しょうがないよなあ……。


「やー、お待たせお待たせ」

 3分後、先生が事務室から戻ってきたよ。事務室って確かに職員室からすぐだけど、結構速かったなあ……。先生、舞戸さんじゃないけど廊下走ったりしてるのかもしれないよね。

 ……先生の体格で廊下走ってたら凄い迫力だと思う。うん、ちょっと見てみたい。

 というか先生、企画書読みながら歩いてなかったっけ?二宮金次郎状態で廊下を走ってたら相当危ないんじゃないかな?先生の体格で接触事故が起きたらただじゃすまない気がするんだけど……。

「あー……」

「どうしたんですか!?」

「いや、これ、確か参考になりそうな本、あったんだよね。どこやったっけな」

 ……。

「そういえばこの薬品お値段的ちょっとアレな気が……ちょっと調べるわ」

 ……。

「うん。クロロホルムやめてジクロロメタンにしてね。一応劇物はやめとこう。あっ赤ペンのインクまた切れた」

 ……。

「修正テープどこだっけなあ……」

 ……。




 ……まあ、色々あったよ。

 色々あったけど最終的には15分ぐらいで全部の企画書、見てもらえたよ。

 ……これ、先生を探す時間の方が長かったんだよなあ!


「結構面白そうね。うん。皆頑張った」

 でも先生を探した甲斐はあったなあ。ちらっと横から見てただけでも、貰えたアドバイス、役に立つ奴ばっかりだったし。やっぱり先生はすごい。それは明らか。

「じゃあこれコピーしてくるわー。没にしたほうがいい実験は無さそうだったからこのまま必要な薬品の発注とかはしちゃっていい?」

「えっ没無いんですか!?」

「うん。面白そーじゃん」

「エーテル気化させて着火する奴もですかー!?」

「見栄えしそうじゃん」

 えー……そ、そっかぁ。うん。いや、没にならないのは喜ばしい事なんだけれど、うん。そっかぁ、没にならなかったかあ……。

 何とも言えない気持ちになってたら、先生はそのまま職員室を出て、向かいの印刷室に入っていったら今度はコピー機が既に使われててちょっとコピー機待ちして……。

 ……でもやっとコピー機が空いたら、一気にガシャガシャコピーして、出てきた原本をクリアファイルに入れてくれたよ。

「じゃあこれでできる奴から準備してみて。チェック入れた薬品とかは多分無いから発注するけど、ある奴はもうできるのもあると思うから」

「あ、はい。どうもありがとうございます」

「でも今日中には僕多分見に行けないから、次の部活の時ね」

 ……。

 先生、この後は何所に消えるのかなあ……?




「ただいま」

「遅かったな。先生探しか?」

「うん。半分以上先生探しで時間潰れたよ」

 廊下を彷徨っている最中の『僕は何をやっているんだろう』っていう虚無感ったらないよね。さむいしせつない。

「先生どこに居た?」

「家庭科準備室だって」

「なんで!?」

「お茶飲んでたらしいよ?」

「そんな、ひどい……加鳥が一生懸命探している中、先生はお茶飲んでたなんて……」

「あー、でもしょうがないんでない?ん?ほら、家庭科の先生、日疋先生のことちょっと狙ってるっぽいじゃん」

 あ、そうだったんだ。なんか知らない方が良かった気もするぞー。

「確かに日疋先生は若いが」

「確かに日疋先生は高身長だし!」

「確かに日疋先生はお料理も得意だし高機能!」

「確かに日疋先生は割と顔面の造形が良いですね」

「だが日疋先生と結婚したらエンゲル係数がヤバいことになるのは間違いない」

「しかもすぐどっかいくし……」

「数年後にはきっと横に向かってすくすく伸びていくと思いますよ!」

 ……い、いや、それでも総合すると優良物件じゃないかなあ……?




「で、見てもらえた?」

「うん。添削してもらってきたよー」

 ……ということで、先生談義は置いておいて。

 僕は持って帰ってきたクリアファイルの中の紙を取り出して、机の上に広げて、それぞれが担当して書いた奴をそれぞれが確認、した、んだけど……。

「……んっ?俺の添削入ってないっぽいですわー」

「あれっ?私のも入ってないや」

「……俺のも入っていませんね。危険だからという理由で却下、という事でしょうか?」

 ……うん。ちょっとおかしいなあ。

 何枚か、添削、入ってないんだよねえ、これ……。

 いや、でも没は1つも無かったはずだし……先生、全部見てくれたんじゃなかったっけ?


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます。 私もこの現象起こったことあります。 「あれかな」と解決編お待ちしております。
[一言] 更新ありがとうございます!
[良い点] なつかしやー。こうやって外伝がたまに来るの好き。一気に読みたい気もするけど時々懐かしめる。 [気になる点] この子達は次は何をしてくれるやら [一言] 危険な実験も入れてくるあたりこのメン…
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