第6話:スタンピード編(負の遺産の清算)2
一時間後。街を囲む巨大な壁の上。
吹き荒れる風の中で、ミントはミラーグラス越しに眼下に広がる黒い波――魔物の群れを見下ろした。
地上の冒険者たちが泥にまみれ、悲鳴を上げながら命を削り合う横で、彼女は位置エネルギーの暴力を行使する。
「この高さなら、拳銃弾でも重力加速度で威力は十分ね」
ミラーグラスの表示をエイムアシストに切り替え、マシンピストルによる精密なシングルショットを開始した。
吸い込まれるように弾丸が魔物の眉間を貫き、即座に「ドロップアイテム」へと変えていく。
「盾持ち……は、さすがに拳銃弾じゃ貫通しないか」
即座に武装を切り替える。ミントはレーザーガンを持ち出し、熱線で盾ごと攻撃する。
たまに地上から投石や矢、火球が飛んでくるが、地上から打ち上げられる攻撃は重力に抗う過程で威力を失い、ミントの予測軌道にはかすりもしない。
「打ち上げる攻撃、しかも点の攻撃じゃ止まって見えるよ」
学習したのか、今度は飛行系のモンスターが数体、旋回しながら襲いかかってくる。
だが、ミントは動じない。
「城壁の設計にここまで力を入れたのは、そもそも対空脅威の母数が少ないから。
そこは設計思想として合理的ね」
淡々とカモ撃ちの要領で迎撃を続けるミント。
それはもはや戦いというより、退屈ですらあるクリーニング作業だった。
だが、翌日になっても事態は収束しなかった。
「……おかしい。損益分岐点超えても撤退しないなんて。
やっぱり、何らかの外部命令や強制操作(強制上書き)を疑うべきね」
その時、平原の主戦場に変化が起きた。
望遠モードに切り替えたミラーグラスの視界で、地平線を埋め尽くしていた魔物の群れが、左右へ割れた。
中心から悠然と歩み出てきたのは、禍々しい漆黒のプレートアーマー。
それは剣を高く掲げ、街を見据えて咆哮を上げた。
「……出た。群れの統率者による、待望の一騎打ちだね。おめでとう。あとは任せたよ」
ミントはマシンピストルを点検しながら、淡々と呟いた。
「勇敢な騎士、冒険者の皆さま。……ワタシは引き続き、この安全な城壁の上で防衛戦に徹するから」
文字通りの高みの見物を決め込むミント。
だが、その楽観は一瞬で塗り替えられた。
地上の漆黒の甲冑が、巨大な鳥型モンスターに両肩を掴ませ、急上昇を開始したのだ。
「……え?」
鳥に掴まれた甲冑は、一気に高度を稼ぎ、城壁という高低差のアドバンテージを無効化。
そのまま壁に立つミントのもとへと投下された。
ズォォォン! と重厚な衝撃音が石畳を鳴らす。
交戦距離、わずか3メートル。
目の前で、ゆっくりと立ち上がる漆黒の甲冑。
予期せぬ「強制イベント」の発生。
「……空中投下による強制接敵。想定外ね」
ミントは頬を引きつらせながらも、マシンピストルと小太刀を構える。
お約束とミントの感想
・街の周囲を守る壁がたいてい某巨人漫画並の高さ:位置の暴力には使えたけど、対空兵器は増やした方がいい
・モンスターはなぜかアイテムに変わる:理解不能
デバッグ・チャットログ
ミント:モンスターの大量発生を確認した。
でもこれ、周期的な発生ログが残っている以上、世界の停滞の「原因」じゃなくて、ただの「定期的なシステム負荷」に過ぎないよね?
ガイア:原因じゃない……?
でも、放っておいたら街が滅びるほどの脅威なのよ?
普通、こういう外敵の脅威があれば、軍事技術や防衛システムがもっと劇的に進歩するはずなんだけど……。
ミント:……ちょっと、なりすまし? 急にまともな事を言わないでくれる?
ガイア:失礼ね、本物よ! 私だってこれでも「パンガイア大陸」を管理する大地母神なんだから! 世界の未来を憂慮することだってあるわ。
ミント:なら、その憂慮を現場のギルドに反映させなさいな。
30年前と同じバグを繰り返して、再発防止策もアーカイブしただけで満足している。
「前もこれでなんとかなったから」という思考停止。
この「技術的負債」の垂れ流しこそが、文明が中世でスタックしている真因よ 。
ガイア:耳が痛いわ……。それで、現場はどうなってるの?
ミント:「誇り」とかいう非論理的なリソースで平原決戦を挑もうとするバカ(Bランク)を無視して、城壁の上から一方的に殲滅するフェーズに移行した。
あ、それと。魔物を倒すと「ドロップアイテム」に置換される仕様、あれ質量保存の法則を無視した致命的なバグだから。あとで修正して。
ガイア:私は創造主ではなく管理者なので、その権限はありません。地球の神ですから。
ミント:委託先のサーバー管理ということね




